(6)
香織が来てから数ヶ月が経った頃、香織とドクロはいつものように散歩していたーーー
「ねぇねぇドクロ、あれはなに?」
香織はドクロが着ているフード付きマントの裾を引っ張りながら奥の扉を指差す。
奥にあるその扉は赤黒く、どこか重々しく不気味な雰囲気を漂わせていた。
「あれは……救済室だ」
「救済室?なにそれ?」
香織はドクロを見上げた。彼はどこか気まずそうに目をそらしながら、
「……あの扉に入った奴を助ける場所、といえば分かるか?」
と言った。
香織はふーん、と理解したのか分からないような口調で、視線をドクロから赤黒い扉へと移した。
「……次、行くぞ」
「あ、うん」
ドクロが香織の手を引いてその場から離れる。
「ねぇ、ドクロ」
「ん?」
香織はドクロに手を引かれながら彼に尋ねた。
「いつかあの部屋の中見せてね?」
ドクロは何か言いたげな表情だったが、やがて諦めたように、
「機会があれば、な」
また香織から目をそらした。
「本当?!約束だよ?!」
香織はパァッと顔を明るくさせてドクロを見つめる。
そんな彼女を見て、ドクロは少し困ったように目を細めて、
「あぁ、約束だ」と言って薄く笑った。
赤黒い扉がキィという音を立てる。
開いた扉の奥は暗く、その中から桜色の髪をおろした女性が顔を覗かせた。
女性の目に真っ先に映ったのは笑いながら手と手を繋ぎ合う男性と少女。
幸せそうなその二人を見て、思わず女性は口元を綻ばせる。
「…ネネさん、なんか不審者みたいになってますよ」
その様子を見て呆れたように笑ったのは緑の髪を一つに束ねたフウキだった。
「あら、フウキだってあの二人を見て笑ってるじゃない」
ネネと呼ばれた女性は口元を手で隠しながらクスクスと笑った。
「僕が笑ったのはネネさんが不審者みたいな事をしていたからです」
「あらあら私、人を笑わせる才能があったのね」
ネネはまた可笑しそうにクスクスと笑う。
「……でもなんだか可哀想ですね、まだあんなに若いのに」
フウキは腰に手をあてて香織達がいる方向を見る。
「本当、世の中って残酷よね」
ネネもフウキにならって香織達の方を見る。
「でももっと残酷なのは、そういう仕組みをつくった人間よね」
ネネは口に三日月の弧を描いてそう言った。
「■■■の束の間の安らぎ、かしら?」