(3)
「ご主人~♪お疲れ様で~す!」
ロビーにつくと、その前では“目”と書かれた紙を目のあたりに巻いている人が、この場所に不吊り合いな明るい声でこちらに向かって手を振っている。
「あぁ」
男は一言そういうと、香織を自分の前にたたせる。
「あれ~?ご主人、そのちっさな女の子はどなたです~?」
ポニーテールを結びなおしながらその人物は香織の方をみているようだった。顔の向きが香織の方を真っ直ぐ向いている。
「あぁ、こいつは…」
男は香織の方をみながら困っている様子だった。
「あ…えっと…三宅香織、です」
香織は男が何に困っていたのかを察し、とまどいながらも自分の名前を名乗った。
(知らない人だけど…この女の人なら分かるのかな?……めちゃくちゃ見た目が変だから不安だけど……)
香織は不安と緊張を持って目の前の女性を見上げる。
「あぁ!あなたが三宅香織様ですか~!」
女性は名前を聞くと、より一層明るい声を発して両手を合わせる。
「なんだラン、知っているのか?」
男は目の前の女性の名前を呼びながら尋ねる。
「勿論!あのかの有名な殺人鬼に殺された方でしょう?ご主人こそ知らなかったのですか~?」
ランはニコニコしながら男の方を見ながら軽く首を傾げる。
「あぁ、初耳だ」
男は静かに答えた。
「………殺人鬼ってあいつのことか?」
男は暫く考えるような仕草をして、ようやく誰かが分かったようにランに確認する。
「えぇ!多分ご主人がお考えの通り…大量殺人鬼、中沢悟のことですよ~!香織様が殺される前からあの人物は人を殺しまくってましたからね!この場所にピッタリの逸材ではないですか~!」
ランは歌うようにそう言った。その様子はまるで欲しかった玩具を手に入れた子供のようなはしゃぎようだった。
「あ、あの」
突然、香織がおずおずと手を上げながら二人の様子を窺う。
「どうした?」
男は香織に聞き返した。
「名前、聞いてないのですが……」
「名前?誰の?」
「いや、あなたしかいないでしょう」
香織はさも当たり前だと言うように男を見た。
男は暫くの間何も言わなかったが、やがて何かが可笑しいのか笑い始めた。
「え!?なんで笑うんですか?!」
香織は驚きのあまり目を見開く。男の隣ではランも驚いているのか、男の方を口を開けて見ながら固まっていた。
「え?あの…ご主人~?」
ランは心配そうに男を見つめる。
男は暫くしてようやく笑うのをやめ、
「あぁ、すまん。なんだか懐かしくてな」
と言った。
「懐かしい?何がですか?」
香織がそう尋ねると、男はロビーにある窓の方を見つめた。
香織はその時、男のフードから紫色の瞳が見えた。そして一瞬だけ、彼の眼差しがどこか遠い日々のことを思い出しているように見えた。
「えっと、あのー…」
「……あぁそうだったな」
香織の声で我に返ったのか、男は少しだけ体を揺らして、それから彼は自分の名前を名乗った。
「自己紹介が遅れてすまない。俺の名前はドクロだ。まぁ、よろしく頼む」
それがドクロと香織の初めての出会いでした。