(2)
「どうして…だってあなたは」
中富は信じられないという風な口調で目の前の少女を見る。
「そう、私はもうここにはいないよ。じゃあ、なんでここにいるの?ってお話だよね」
香織はニッコリと笑みを浮かべる。
「これにはちょっとしたわけがあるんだけど、それを話すにはまず、ちょっとお話を聞いてもらう必要があるんだ!」
香織は右手の人差し指を真っ直ぐ立てて、続きを述べる。
「これからお話することは、私と中富さんだけの内緒のお話だよ!約束してね!」
中富は香織の方を見ながら一瞬だけ戸惑った。
本当に目の前の子は香織ちゃんなのだろうか、と。
「………分かったわ。二人だけの秘密ね」
中富はとりあえず頷いた。目の前の少女が香織でなくても話を聞かなければ先へ進めない雰囲気だった。
「うん、約束!」
香織は中富の言葉を聞き、満足したように笑う。
「じゃあ、私の物語の始まり始まり~♪」
香織が殺されてから三日後のこと…
「はぁ~…どこなんだろう、ここ」
私は途方にくれていた。ここがどこなのか全く分からない。
「ていうか、なんかここ、私がいた病院と似てるなぁ」
病院の中を私は見回す。うーん、やっぱり似てる。あのおっきな時計とか、看護師さんがよくいる受付っていう場所の中身とか。
うーん、謎。私死んだんじゃないのかな。もしかして、ここが死んだ後の世界のあの世っていうものなのかな?
死んだら地獄に落とされるってよく聞くけど…ここ全然地獄に見えないんだけど。
「おい」
突然、私の後ろから低い声が聞こえた。
……ふぅ、驚かさないでほしい。危うく、変な叫び声だしそうになったじゃない。
「おい、そこのお前。どこから来た?」
男の声がまたこの空間に響く。
あれ?私、もしかしてここに来てまた怖い思いするの?なんかこの声、凄い怖い。
私はとりあえず後ろをゆっくり振り返る。
なんか怖い話でよくこんな場面あるけど、実際経験すると本当に怖い。逃げ出したい。
振り返ってみると、そこには黒いフードを深く被って顔を隠している人が立っていた。マントの裾は、赤黒い何かがついていた。
一目見て、最初は死神かと思った。
大きな鎌を持っていたら、本気で死神に見えていたかもしれない。
「えっと…」
どうしよう、何話せばいいんだろう。とりあえずここがどこか聞くべきだよね?
「あの、すみません。ここがどこか聞いてもいいですか?」
私が聞くと、なぜか目の前の男の人は驚いたように体を震わせた。
「ここがどこか知らないのか?」
男は考えるような仕草をしてから、
「じゃあお前は一体どこから…?」と、呟いた。
「え?こっちが聞きたいんですけど?」
私は聞き返した。
「………」
男は暫く無言になった。何かを考えてるみたいだった。
………困ったな。ここの人なら私がここに来た理由知ってると思ってたのに。
まぁ、この人を困らせるわけにもいかないし、とりあえずもう少し探検しよっかな。
「あ、あの」
「まぁいい、ついて来い」
男は後ろを振り返って歩き出す。
え、どうしよう。ついて行くべきだよね?
いや、でも知らない人にはついて行っちゃだめってお母さんに言われてたし……でも、ここのこと詳しそうだし。
「どうした?来ないのか?」
男は数メートル歩いたところで立ち止まり、私の方を振り返って尋ねる。
「あ、はい」
とりあえず行く宛もないし、もう死んでるし…何かあっても大丈夫かな。
まぁ、何かあったら祟ってやる!出来るかは知らないけど。
そう思いながら私は男がまた歩き出すと同時に歩き出し、男の後ろをついていくことにした。