(9)
中沢との戦闘後、私と加奈子はかなり体力を消費していたため、少しの間休憩をとることとなった。
私達が体を休めている間でも、悲鳴や銃声がやむことはなかった。幸いにも音は小さいので、私達が休んでいる間に襲われることは無さそうだ。
(さて…)
今私は休憩中で、誰も私を襲うことは無い。つまり、じっくりと考える余裕が出来たということである。ならば、今後の事も考慮して、私が今までに分かったことを整理する必要がある。中沢に頼まれた事もあるしね。
(まずは…今までの出来事を整理すべきよね)
今日の夜中、午前12時。私は突然の銃声で目を覚まし、何事かと廊下へ出た。そこで私は銃を持って倒れてんいる人を発見。とりあえず護身用にと銃を持って、ナースステーションに看護師を呼びに行く途中で加奈子と会い、それから…。
私はこれまでに起こった出来事を整理した後に、先程あった奇妙な出来事について考え始める。
奇妙な出来事…それは中沢に殺されそうになったときに起きた、あの出来事である。
中沢は突然、誰もいないはずの背後を振り返った。彼の背中にナイフが根元まで刺さっていたことから、あのとき振り返った原因はおそらくこれだろう。
また、ナイフは加奈子が持っていたものだった。最初、彼女があいつを刺したのかと思ったが、それはないな、とすぐに私は思った。彼女が彼を後ろから刺すには、彼の横を必ず通らなければならない。あいつは元軍人。敵が自分の横を通らせるわけがない。もし彼女があいつの横を通ったならば、彼女は今この場に生きてはいなかっただろう。
なら、誰かが後ろにいたのか?…いや、あいつの後ろには誰もいなかった。それならあいつの自作自演?…そんなことをしてなんになる。あいつは軍人だったんだ。自分が不利になるような状況をつくることはあり得ないし、第一あいつの両手は私の見える位置にあった。手が三本なければあんなことは出来ない。勿論、私はあいつに殺されかけていたのだからできるはずもない。
(なら一体誰が?)
加奈子も出来ない。私も出来ない。中沢にも出来ない……ならやはり考えられるのは、誰かもう一人あの場にいたということだ。後ろに誰もいないように見えていただけで、誰かあそこにいた可能性もある。だが、中沢が後ろを振り返ったときにはもうそこにはいなかった。
短時間で中沢の背中にナイフを根元まで刺し、なおかつ中沢に姿を見られる前にその場から消えることが可能だろうか?
(……考えても仕方ないか)
今ここで考えたところで、答えが出るわけでもない。なら今頭をひねったって時間と精力の無駄になるだけだ。
私は立ち上がってゆっくりと伸びをする。
続きは屋上へいって助けを呼んだ後でもできるだろう……そう思った私は加奈子のとこへ歩いていく。
そして私はこのあと思い知る……
この世界で最も恐ろしいものは何かということを。