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聖ゴリラ  作者: こおりあめ
異世界と森の王者GORILLA編
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4

何だか朝からよくわからない事になっていたが、俺は気を取り直して当初の予定通りに食料探し、柔らかい葉っぱ探し、森の動物達と仲良くなる、を優先度を今考えた順で熟して行く事にした。

もちろん片手には松明もどきを持って。

俺達ソウルフレンドだからな!前世でこんな事言ったら痛過ぎて目も当てられないけど、ほら此処異世界だし!許されるって!


そうしてどしどしと地面を踏みしめ草根を掻き分けて進んでいると、後ろから常にカサカサと音が鳴っている事に気付いた。

足を止める。後ろのカサカサ音も一拍置いて止まった。

何これ凄くホラーな構図じゃない…?俺がゴリラでさえなければ。


俺はごくりと唾を飲み込み、そーっと後ろを振り返った。



「キー」


うさぎさんが居た。あらかわいい。

どうやらずっと後ろから付いて来ていたらしいうさぎさんは、俺が振り向くとぴょこぴょこ近づいて来る。

てっきり俺の松明もどきとの絆にドン引きして皆居なくなったのかと思っていたが、まだ一羽残っていただなんて…!


「ウホホ?(何か俺に用でもあるのか?)」

「キー」


はい学習してない俺、脳みそゴリラ以下!!だから、言葉はわからないんだよ!!

…もう少し理性的に、状況からうさぎさんの行動理由を分析しよう。


うさぎさんは俺の後ろから付いて来ていた。…つまり、俺を何処かに導きたいわけではない。

話し掛けて来たり気付いてもらおうとしていたわけでもない。…つまり、そもそも俺に明確な用は無いのでは?

ただ、きゃー何この珍獣きもいんですけどーときゃらきゃら可愛い顔で笑いながら観察してる感じなのかもしれない。そんな事人間の女にされたら萎縮涙目不可避だが、うさぎさんなら俺の存在で楽しんでもらえて嬉しいよという寛大で優しい気持ちになれる。


「ウホ?(用は無いと思っていい?)」


俺は子どもに話しかける時のようにその場に膝を折ってやや前屈みにしゃがみ、それでも視線の高さは到底合わないうさぎさんをやむなく見下ろしながら聞いた。言葉は伝わらないかもしれないが、威嚇じゃない優しげな雰囲気を出すのが大事だ。ウホウホ、ぼくわるいゴリラじゃないよ。

うさぎさんは、小さくこくんと頷いた…ような気がする。


俺は達成感を噛み締め、それから予定通りにまた必要なもの探しを始めた。後ろから聞こえるカサカサ音によりまだうさぎさんが付いて来ているとわかって、心がポカポカする。

これは、第三の目的である森の動物達と仲良くなるを一番最初に達成出来てしまうかもしれん。嬉しい誤算だ。

偶に振り返るとうさぎさんが居て、ちょこんと俺を見上げて来る。癒し。

そこでふと、うさぎさんの右耳に切り傷のような痕がある事に気付いた。


「…ウホォ?(もしかして、昨日のうさぎさん?)」


俺の中で第一村人のような存在で、俺には動物の言葉が通じないと教えてくれたようなものであるあの子なのか。どっちの耳だったかや正確な位置は覚えていないが、あの子の耳にも確か傷があったはずだ。


「キー」


うさぎさんは心無しか嬉しそうに鳴き、こくりと頷いた。

そうか、あの時のうさぎさんか。だからどうという訳ではないんだが、何だか嬉しいな。

正直このうさぎさんを他のうさぎと顔で見分けられる自信は無いんだが、これからは耳の傷を見ればわかる。見分けがつく。

仲良く、なれるかもしれない。



俺は浮き立った心のままに時間が経つのを忘れ、色んな所を探し回った。

結果、柔らかい葉っぱが付く木が水色寄りの青い表皮の木だとわかり、幾つかの木の実と果物とキノコらしきものを見つけた。


「ウホ…(さて…)」


俺は地べたに座り込み、目の前の食べ物っぽい物を見て厳選を始める。

まず、知識無しで食べるにはキノコは怖い。此処のキノコ、やっぱりと言うべきか色が警戒色の原色赤だし、見た目からしてベニテングタケあたりを彷彿とさせられ嫌な予感しかしない。幻覚見ながら血吐いたりして死にそう。

木の実は青い。あまり食欲が湧かない色だ。それ以外は胡桃みたいな見た目と固さで、割ったら茶色い実出てきてくれたりしないかなという細やかな期待はあるが、やっぱり食べられる植物において色が青いイメージが皆無だ。

最後に果物。当然みかんもどきとは別のもので、これは黒い、見た目はプラムみたいな感じだ。この中では一番普通に見えるが、匂いがなんか…生肉臭い。果物というより血肉の臭いがする。


とりあえず、食べるべきだろうか…。

どれを?まずどれ行く?どれも地雷臭するけど?


俺が順々に食べ物っぽい物を見てゴリラなのにチキンになっていると、うさぎさんがぴょこぴょこ近づいて来た。

どうしたんだろうと大人しくその動向を見守っていると、食べ物っぽい物それぞれに鼻を近づけすんすん匂いを嗅ぐと、キノコと木の実を俺の前に咥え置き、果物は咥えたまま俺から一メートル程離れ、ぺっと捨てるように自分の足下へと吐き出した。


「キー」


そして鳴く。


…。

言葉はわからないけど、食べられるものを分けてくれた…気がする。

俺はうさぎさんを信じ、まずは青い木の実を割ってみる事にした。固いから難しいかなと思ったけど、指に軽く力を入れると簡単に割れたので思っていた程固くなかったようだ。落花生の殻ぐらいの強度だな。

しかし期待を裏切り中の実も青い。生物が食べるものの色をしていない。沖縄とかに居る食べられる青い魚だって青いのは外側だけなのに。


だがうさぎさんの視線を感じる。

ここで俺がひよって食べなかったら、これからうさぎさんとの信頼関係を築くのが難しくなる気がする。

だいたい、俺はみかんもどきを食べた時はもうこれで死んでもみかんもどきを恨むまいと思いばくばく食べたくせに、うさぎさんの行動を信じられないというのか?俺は、こんなに愛くるしいふわっふわキュートな小動物さえも信じられない、汚れたハートのクソゴリラなのか?


違う!断じて違う!!

俺は心の綺麗なゴリラだ!!


俺は青い木の実を口に放り込み、迷わず咀嚼した。


自然の優しい甘みと香ばしさが口に広がり、噛むたびに適度なカリッとした歯応えがした。

端的に言うと美味だった。例えるならちょい甘めなアーモンドみたいな味。

俺は心の中でうさぎさんを崇めた。


ならば、と今度は赤いベニテングタケみたいなキノコにかぶりつく。


…あ、これマツタケだわ。

焼いてないからだと思うんだけど、全然味はしない。でもこの香りは完全にマツタケのそれだ。

これは早急に火を起こす必要が出来たな。

チャッカマンやらライターはもちろん、マッチさえ無い。文明の機器は森には存在しない。となると、俺の乏しいサバイバル知識で火を起こすしかない。


俺は松明もどきとマツタケもどきを持って水辺近くに移動した。

森で考え無しに火起こして火事になんてなったら堪らないからね。

ちなみにうさぎさんも当然のように俺に付いて来た。


一先ず、俺はその辺の石を二つ持って何度か打ち付けてみた。

タン、タン、と硬質な音が響く。

それだけだった。


…火花出ないね。これじゃあ火起こしが始まらないよ。これって、どうやればいいんだっけ…?

知らねぇよ…ある日突然サバイバルが始まると予想して調べてから此処に来られたわけじゃないんだよ。こちとら普通のインドア派男子高校生だったんだよ。

もしかしたら石が悪いのかもしれないし、そもそも石以外に必要なものがあったのかもしれないし、単純に俺のやり方が悪かったのかもしれない。此処に答えを教えてくれる人は居ないので、真相は闇の中だ。


わからないものはわからないので、俺は今度はその辺の木の皮を剥いでみた。

簡単に言ったが、本当にベロンと簡単に剥げたんだ。此処の木は見た目より脆いのかもしれない。

それから枯葉を集めてその上に置き、木の棒を両手で持つ。木の皮と木の棒を擦り合わせるように、手を高速で動かす。



――約一分後、なんと火が点いた。

慌てて枯葉にどんどん火を移して行き、ふーふー軽く息も吹き込み、かなり小さいが焚き火っぽいものが出来た。

こういうのは結局またコツが必要だったりして失敗するのが定石だと思っていたんだが、意外と上手く行くもんである。

俺は満足し、地面に置いていたマツタケもどきを持ち意気揚々とミニ焚き火に近づける。


突風が吹いた。


ミニ焚き火がろうそくレベルのまさに風前の灯火となった。

俺が一歩たたらを踏んだら消えた。

無残。その一言。


俺は涙目になりながらも、再度木の棒を手に持つ。

だ、大丈夫だし…別に一分ぐらいで火起こせるのわかったから、この程度苦でも無いし…。


「キー」


その時、うさぎさんがぴょこぴょこ俺の前に躍り出た。そのまま今まさに火を点けんとしている木の皮の近くに跳ねていく。

おいおいうさぎさん?そこに居られると、危ないので作業ができないんだけど?ゴリラのお兄さん、今哀れにも頑張って点けたのに一瞬で消えた火を起こし直さなきゃならないんだよ?


と思ったのも束の間、うさぎさんは大きく開いた口から火炎放射器のように豪炎を噴き出し、木の皮も枯葉も全てを呑み込み俺の腹ぐらいの高さまで燃える見事な焚き火が出来上がった。

俺は口をぽかんと開いたままうさぎさんと焚き火を交互に見た。



…う、うさぎ…しゃん…?


「キー」


うさぎさんが心無しかドヤ顔で俺を見る。

…お、落ち着け俺。俺の努力の意味は木っ端微塵に無くなってしまったが、これは僥倖…この焚き火なら、突風ごときでは簡単に消せまい。俺はマツタケもどきを焼く環境を手に入れたのだ。

うさぎさんが火を吐くってどういう事だよと突っ込みたいのは山々だが、今言うべき言葉はそれじゃないはずだ。


「ウホ(ありがとう)」

「キー」


俺はマツタケもどきを焼いた。脳の一部を思考停止しながら食うマツタケもどきは美味かった。今度は塩が欲しくなった。

ゴリラの火起こしについて、セルフQ&A


Q.何故石の時火花が出なかったのか?

A.石と石をぶつけ擦るのではなく、石と金属片をぶつけ擦る事で火花は発生します。ゴリラがチートだろうが、石だけでは火花は出ません。


Q.ゴリラがやっていた木と枯葉を使った火起こしは実際に素人がやって出来るものなのか?

A.無理です。ゴリラはとんでもないスピードとパワーという無駄な無意識チートを発揮し火を点けましたが、実際やった人達の例を見る限り、この方法ではまず無理。

何の道具も使わずただ木の皮と木の棒を手で擦り合わせるのは、素人ではスピードもパワーも足りない上に手や腕の疲れですぐ断念するようです。

現実のキャンプやらでどうしてもしたいなら、せめて紐を使って楽に木同士を擦り合わせられるようにしたり、虫眼鏡や鏡で太陽の力を借りるといいようです。むしろマッチやライターを隠し持っていきましょう。人の目を盗んでそっと着火しましょう。バレなきゃいいんだ、上手くやれよ。

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