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聖ゴリラ  作者: こおりあめ
異世界と森の王者GORILLA編
3/15

2

洞窟…!ちょっと暗くて寒そうだけど、此処なら雨風は凌げるぞ!

と、俺は喜び勇み大した心準備も無しに洞窟の中へと入って行った。


中は、やはりというか暗い。

詳しく探索するなら、懐中電灯とまでは言わなくても松明のような文明の利器が欲しいところだ。

なんだか異世界に転生したというよりも、無人島漂流系のゲームみたいな事ばかり考えている気がする。まぁね、ゴリラだからね。野性だからね。仕方ないね。


だが中の温度は見た目と違い、むしろ暖かかった。

これはもしや夏涼しく冬暖かい最高の環境なのかもしれない。此処を寝床にする上での期待が嫌でも高まる。


壁に右手をつきながら、そろそろと歩いて探索した。ここが異世界級巨大肉食獣の寝床では無い事を祈る。

視界ゼロの完全に真っ暗な範囲まで行く気は無いが、ある程度の安全を確認してから眠りにはつきたい。俺はキャンプにさえ大して行った経験が無いインドア派の現代っ子だったので、寝床が冷たい地面なのは未だしも危険かもしれない場所ではゆっくり眠る事も出来ない自信がある。


しばらくそうやってゆっくり慎重に歩いてはみたが、一向に生物と会わなかった。

コウモリやらネズミやらぐらい居てもおかしくないと思うのだが、一匹たりとも視界に映らない。耳を澄ませてもそれらしき声もしない。

警戒しているのが馬鹿らしくなる程の平和な静寂だ。

俺は次の角までで完全暗闇な所以外は粗方見終わるだろうとゆるい結論を下し、あくびしながらのろのろ歩いた。

自然にある布団として使えそうなものって何かなと呑気に考えていた。



と、次の瞬間。

突如油断していた俺に向けて曲がり角から謎の紫の液体が飛び出し、降りかかって来た!


「ヴホォ?!(ぃぎゃあぁあ!!)」


俺は本気でビビって、液体に対してにも拘らず咄嗟に右腕を薙いで物理攻撃をする。


「ピギュウッ!」


紫の液体はそんな効果音?言語?を発して洞窟の壁のシミとなった。

…。

自分の腕を見る。特に液体の付着は無い。


というか、見た目はちょっとぶよぶよしているぐらいの液体だったが、実際殴ってみるともっとぶよっとした感触があった。液体じゃなく固体か?でも固いって漢字が入る事に違和感があるからぶよぶよ体と呼ぼう。

俺は洞窟の壁にベッチャリしている謎の紫ぶよぶよ体だったが今は完全に液体となってしまったものを見る。

見たけど、何の理解も出来なかった。


これは曲がり角から飛び出して来た。つまり、誰かしらに悪意を持って投げられたものと考えるべきか。

洞窟内のこの静寂とはイコール平和では無く、何者かが潜んでいる故の不自然さだったのかもしれない。俺は警戒しながら恐る恐る角からそっと顔を出し向こうの様子を窺った。



そこには――動く紫のぶよぶよ体が所狭しと地面にひしめいていた。


…ん?


俺は顔を一度引っ込め視線を彷徨わせた後、もう一度ひょこっと顔を出した。


んん…。

やはり、見間違いでは無く紫のぶよぶよ体はそれぞれが独立するようにぴょんぴょんぺたぺたしている。それは生き物のように見えた。

なんか気持ち悪い。原色の紫だからだろうか。とにかく気持ち悪い。


見た目は、アレだ。

あの雑魚キャラ代表。スライムだ。

さっきの奴にしても俺のワンパン(正確には腕薙ぎだけど)で即死だったんだし、正に雑魚キャラなんだと思う。

俺はまた一旦顔を引っ込め観察をやめた。


スライム…スライムかぁ。一気に異世界っぽさとファンタジックな雰囲気が増したな。

それはまぁ、俺がゴリラな時点で剣を片手に美少女と共に魔王を倒すべく勇者として旅に出る可能性は皆無だと自覚し自重しているからわりとどうでもいいんだが、問題はこの洞窟を寝床には出来なくなってしまった事だ。

いくら雑魚キャラ代表とは言っても、あの絨毯みたいになってる量のスライムを相手にするには異世界新入生のゴリラじゃ役者不足もいいとこだろう。原色の紫だからイメージ的に毒持ってそうだし。分は弁えて生きねば。


モンスターの類がこの世界には生息しているとわかっただけで御の字とすべきかな。

だいたい最初から上手く行き過ぎてたし、この洞窟が本当に外敵皆無だったらそれは些か出来過ぎだ。もしそうだったら使った運の代償を払うように俺は明日落とし穴に頭から落ち、打ち所悪く二日目にして短いゴリラ生を終えていたに違いない。


よし、回れ右。帰ろう。

と思ったのたが、何だかざわりと嫌な予感を覚え何かに突き動かされるように俺は最後にまたちらりと曲がり角から顔を出し、紫スライム達の様子を窺ってみた。


紫スライムの雪崩が俺を呑み込もうとしていた。

息を呑む。



「ウ、ウホォオオオオオオ?!!(びゃ、びやぁああああ?!!)」


俺はとっさに両腕を天上に向かって振り上げ、全力で振り下ろした。



目に見える衝撃波が飛び出した。

洞窟の地面にバキバキと地割れが起こった。

軌道上に居た半分以上の紫スライムが消し飛んだ。

生き残ったうちのさらに半数以上も風圧で壁に叩きつけられ液体となった。

結果生き残りスライム、約十分の一。


俺は真顔になった。



…あれ?俺強くね?


……いやいやいや、調子に乗ってはいかん。この世界ではこんな事わりと普通の話かもしれない。人外レベルっていうか、俺ゴリラだし。既に人外だし。

此処の地面は柔らかめで、相手がスライムだったからこうなっただけだろう。ドラゴンなんて出て来たらゴリラの一匹や二匹、ブレスで一撃だからね。謙虚に生きよ。


「ピィ…」

「キピュー…」


だが紫スライム達との力量差だけを言うなら、それは歴然だ。

奴等の声が小動物のように無駄にかわいく、身を寄せ合って俺を遠巻きに見ながら俺に怯えるようにしだしたせいで、まるで俺が悪者のようだ。

ん?むしろあっちからしたら本当に俺は悪者なのでは…?

だって、俺からすれば向かって来たから返り討ちにしただけだが、紫スライム視点で考えると…住処に見知らぬゴリラがやって来たから追い返そうとした。だけどゴリラが腕力にものを言わせ仲間の殆どを虐殺した。あのゴリラ悪逆非道だよ、えーんえーん!…。



「…ウホッ……ウホウホ(…は、話し合いを……ダメだ、俺の方が言葉わからないんだった)」


俺がおろおろしながら声をかけると、紫スライム達は怯えるようにぷるんと身を震わせる。

待ってくれ。俺は驚いて思わず反撃してしまっただけで、心優しいゴリラなんだ…!ちょっと力加減がわかっていなくて、これはお互い誤解していた故の悲しいすれ違いなんだよ…!!


俺のそんな心の叫び虚しく、紫スライム達はピィピィ鳴いたかと思えば突如猛ダッシュして洞窟の奥へと消えて行った。

残された俺は、あっ…と切なく手を伸ばし、下ろし、落ち込んだ。


…森に、帰ろう。

やっぱりゴリラは洞窟で文化的な暮らしなんてせずに、野生的に生きるべきだったんだ。他の動物やモンスターの所までずかずか踏み込み生態系を崩してはいけない。そんな事をしていたら駆除対象にされかねないし。

俺はたぶん哀愁を帯びた背中で洞窟から出ようとした。


が、何故か真っ暗だったはずの洞窟の奥が段々と明るくなって行く異常に気付き、思わず目を凝らす。

なんか、キラキラした塊が近づいて来る…?


俺が足を止めそれを凝視していると、段々とキラキラした塊の正体が分かってくる。

眩いばかりに光を放つそれらはまさに、キンキラリンな金銀財宝の山。それを紫スライム達が下でぴょこぴょこうんしょと頑張って運んでいる。

やがて俺の目の前までやって来た紫スライム達は、そのキンキラキンの山を俺の前に置くと後ろに下がり、止まった。どことなく奴等の地面に張りついている面が大きくなり、高さが無くなったような。伏せてる…のか…?

俺は困惑しながらも一先ず、紫スライム達からキンキラキンへと目を移した。

大きいものでは金色の鎧やら装飾の凄い銀色の剣、小さいものでは宝石みたいな赤いのがついた髪飾りやらプラチナ色のコイン。とにかくキンキラキン。


よくわかんない。高そう。


俺には金銀財宝の目利きの才能は無い。

ただ、そんな俺でも唯一これは間違いなく有用だ!とわかるものがあった。

この暗闇洞窟において、キンキラキンをキンキラキンとして俺に認識させられるように至らしめているもの。


光源だ。

ピカピカ光を放つ、金色の棍棒!何故か棍棒なのにこのキンキラキンの高そうなラインナップのなかで一番目立ってしまっている棍棒!

紫スライム達はそう遠くまで取りに行っていたようには見えなかったが、こんなかなりのパワーの光を放つ光源があるのに、よくこの洞窟はさっきまであんな暗闇を保っていたな。この辺はこれのせいでもっと明るくなっていてもおかしくなかったと思うんだが。


「…ウホ(…これ松明代わりに欲しいなぁ)」


たぶんそんなちゃちな理由で使うような代物では無いし、例えるなら伝説の名刀を見て「これでかぼちゃが楽に切れるぞ!」と言っているのと変わらない発言だと思うが、そいつが欲しいものは武器ではなくいい包丁。俺が欲しいのも武器ではなく、松明なのだ。

ふと紫スライム達に目を移すと、小刻みにぴょこぴょこと動きながら俺から遠ざかるようにじりじり後ろに下がって行っていた。

何それ傷つく。俺のゴリラハートがブレイクン。


「ウホ、ウホ…?(てかそもそも、この財宝の山持って帰った方がいいんじゃないの…?)」

「「ピ!!」」


俺の発言に露骨にびくっぷるんとした紫スライム達は、べったりと地面に付くように体を一度思いっきり平べったくし、それから一目散に洞窟の奥へと消えて行った。



…………。


え、つまりこれもしかして、「うちの家宝とか金目の物とかは全部置いて行きますんで、命だけはお助けを…っ!後生ですから!!」って感じの献上品…?

俺はこれもらって本当にいいの…?この洞窟に住むのは、有り…?有りなの?


俺は身を縮こませながら、図々しくは思いつつも金色の棍棒命名:松明もどきを片手に、近くにあった小さな空部屋を仮ホームとして借りる事にした。

罪無きスライムから住処強奪した感が半端ない。俺のゴリラ生に早くも暗雲が立ち込め始めたかもしれない。

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