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聖ゴリラ  作者: こおりあめ
異世界と森の王者GORILLA編
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目測体長ニメートル以上。ゴリラはイメージ的にこれぐらいあると人々には思われているかもしれないが、実際この身長はゴリラの中では頭一つ飛び抜けた大きさだと思われる。

そんな俺は体育座りで身体を縮こませ、落ち込んでいた。


「ウホ…ウホホ…(ゴリラ…ゴリラかぁそっかぁ…俺のチートハーレム物語は始まらないのかぁ…)」


人生って上手くいかない。

違った。もうゴリラ生だった。俺はこれからゴリラとして生きて行くんだった。


俺は三分程ぶつぶつウホウホ言った後、気持ちを切り替えるように全力で自分の両頬を叩いた。

パチンぐらいの強さのつもりだったが、筋力の違いのせいかダンッ!!と物凄い音が鳴ったし想像以上に痛かった。その場でごろごろ悶え転がった。

ローリングゴリラ。


だが…お陰で吹っ切れた。



俺の姿は、自分の事なので三百六十度どの視点からも見られるわけではないが、まぁどこからどう見ても圧倒的にゴリラだ。

しかも死んで転生なら赤ん坊からスタートかと思ったが見るからに成獣。転生じゃなくまさか憑依なのかとも思ったが、ならばゴリラの魂は何処へ行ったのか。まさか前の俺の身体に…とまで考えてあまりにも怖過ぎたので精神衛生上あくまで転生だと思う事にした。


言葉を発しようと思って出した声は全部ウホウホに変換されていて我ながら何を言っているのかわからない。文字に変換しにくい動物の声というよりは完全にウホウホだから、ギャグっぽい空気がひしひしとする。

そんな言葉事情なので、もし上手いことこの異世界で人間と接触出来たとして、会話は無理だろう。野生のゴリラのジェスチャーに真剣に目を傾けてくれるとも思えない。野生のゴリラと会ったのが俺なら脇目も振らずに全力逃走するし。

だから、俺は前世人間だったからなんて傲慢な考えは捨て去り、ゴリラとしてゴリラらしくこの森で暮らして行こうと思う。

ゴリラの身になって生きた事なんて無かったんだから、意外と楽しいかもしれないし。


「…ウホ!(よし、そうと決まればまずは食料と寝床だ!)」


俺は意気込み自分を鼓舞するように声を上げた。何だかいくら独り言を言ったところでウホウホ言ってるようにしか聞こえないせいか、これから先どんどん俺の独り言が増えて行きそうな気がする。いや誰も困らないけど。


さて、では口頭ではウホに改変されてしまった先程の俺の発言通り、食料となりそうなものと寝床に使えそうな場所の探索へと繰り出そうか。

最初のうちはどちらもある程度ひもじくても我慢するが、最低限食事は虫は食べたくないし赤とか青の表皮な木の皮やら根を食べるのも危険を感じるし、寝床は寒さに震えるのは嫌だ。

ゴリラらしく生活すると考えはしたが、あわよくば少ぅしだけ文明的に食事に手を加える事で食を楽しみたいし、少ぅしだけゴリラの中では雨風しのげてかつふかふかな寝床を作りたい。

要するにリッチゴリラになりたい。


よし、周りに警戒しつつ歩いて行こう。異世界でどれだけ前世の常識が適用出来るかわからんが、太陽の位置をこまめに確認してなんとなくでも頭の中で地図を作ろう。

この森には天敵が居ないのか、何処に何があるのかなんかを調べるのも非常に大切なミッションだ。ゴリラの天敵と聞いて思い浮かぶのは、ヒョウ。後はやっぱり圧倒的に人間なんだが、異世界ではどうだかわからないし。

突然現れたモンスターが地形を考慮せずファイアボールを撃ってきたと思ったら、木自体は効かぬわ!とばかりに炎を弾き、俺だけ焼死するかもしれない。

森が赤色の表皮な木と青色の表皮な木がひしめき合う――葉っぱこそ緑だし、空は青く地面が茶色いのも変わらないけど――色の自己主張が強過ぎて全然目に優しくないものだという時点で、なんか何が起こっても不思議じゃないように思えて来る。

むしろ、俺こと元ハルオことゴリラが前世でお馴染みのブラックカラーだった事の方が奇跡かもしれないしな。レッドでエネルギッシュなゴリラが異世界では主流な可能性もある。人間が居たとしても肌の色青いかもしれない。


段々と不安に思いながら、草根を掻き分け踏み倒すようにして歩く。当然裸なので、草がチクチク刺さって痛痒い。

ちなみに二足歩行で歩くより、腕を伸ばし緩くグーにした手も使って四足歩行のように歩いた方が安定性が良かった。順調に俺はゴリラしている。


そうして暫く歩いていると、水辺に到着した。小さな川だ。

これは運が良い!と俺は川まで走って行き、見下ろした所ではたと動きを止めた。


…水…そのまま飲んでいい、のかな?ゴリラなんだから寄生虫なんて気にせず豪快に生水を飲むべきか…さすがに水溜りは嫌だったが川か…川…うーん…。

それともいきなりの文化的ゴリラっぷりを見せつけるように、サバイバルさながらろ過装置を作るべきか…作り方うろ覚えだけど。


俺はちらっと周囲を見回した。

水辺には生き物が来やすい。だから人目を気にするようにほぼ無意識でそうやっていた。

動物は何匹か見つかった。色も見た目も皆俺の前世の知識とそう差分無く、リスやうさぎや鹿が居た。ゴリラの生息地にしては妙にかわいいラインナップだ。

しかしそんなかわいい動物達には、一つだけおかしい所があった。


動物達は全員が全員、俺の方を向いて頭を下に向け身体を伏せていたのだ。



……偶然、か?

まるで、権力者の御前だからと頭を下げているように見えるのだが…。


俺は後ろを振り向いた。

特に他に生物は見当たらない。実は俺の後ろにとんでもなく強い本物の森の支配者が居た、という訳では無いらしい。


うーんと首を傾げ、一番近くに居たうさぎの前にちょっと歩いて行ってみた。

目の前に立ってもうさぎはぺたりとその場に伏せ顔を腕の間に埋めて下を向いたまま反応は無い。

うさぎの右耳に切り傷のようなものがあったが、それ以外は薄茶色い毛の普通のうさぎに見える。


「…ウホッ?(…あの、顔上げて欲しいんだけど)」


このゴリラ語がうさぎに通じる気がしなかったが、一応呼び掛けてみた。


すると、予想外!

うさぎはゆっくりと顔を上げた。言葉が!通じたのだ!


「ウホッウホ!(あの、もしよろしければこの森についてとか他の動物についてとか教えて頂きたいんですけど!)」


うさぎはじっと俺を見ている。俺は興奮と期待にごくりと唾を飲み込んだ。

客観的に見ると、うさぎに下手に出るゴリラという面白動物映像みたいな図だね。


「キー」


うさぎは鳴いた。


答えてくれた、のかもしれない。しかし、キー。…俺にはそれを言語として、意味を理解する事が出来なかった。

よく考えたらそりゃそうだ。だって自分の言葉でさえウホウホ言ってるようにしか聞こえないんだ。他の動物の言葉が聞き取れるわけもない。


「ウホ、ウホ…(すみません、言葉がわかりませんでした。でももし答えてくれていたならありがとうございました…)」


俺はうさぎにペコリと頭を下げ、背中を向けた。

もしかしてこの世界の動物達は言葉が通じ合っているのかもしれない。だけど、俺が前世の記憶のある半端ゴリラであるせいで、自分の言葉も他の動物の言葉も聞き取れないのかも。実に悲しい可能性だ…。


知らない土地で外国人に道を尋ねたけど結局わからなかったようなやるせない気持ちに陥った俺は、緊張と交流失敗により余計に喉が渇いたのでさっきまでの文化的ゴリラになろうかという葛藤を思考外へぶん投げ、川の水をヤケ飲みした。


…あら美味しい。

これ、きっと良い水だな。HPが回復した気がする。そんな概念のある世界か知らないけど。



俺は気を取り直し、この川を起点として近くに寝床として良さそうな場所が無いかと探す事にした。

現在の気温は春先ぐらい。日が照っているうちはまだいいけど、ちょっと肌寒いし夜はもっと寒かろう。せめて雨は防げる場所が欲しいところ。

目が木の赤と青にやられチカチカして来たので、今の所この森で暮らす上での一番の問題はこれだなと思った。この木は何故こんな進化を遂げてしまったんだ…警戒色があり過ぎて何に警戒すべきなのかわからんよ。


ふと、視界の端に少しだけ色の違う木肌が見えた。赤というより、朱色だ。

俺は興味を惹かれのそのそと木の近くまで寄って行った。

するとそこには、木いっぱいに拳大(ゴリラのだからりんごぐらいのサイズ)の大きな赤い果物が生っていたのだ…!


「…ウホ?(…食えるの、か?)」


下に落ちた果物を拾い上げ、すんすんと臭いを嗅ぐ。

ほのかな酸味の香りがする。触感はぷよっとした弾力がある。食えそう。でも毒だったとして俺は気づけないとも思う。


さてどうしたものか。

よくあるパターンとして、隠れて観察し他の動物が果物を食べないか見守るのが妥当だろうか。

俺は周囲を見回した。


…。

隠れられそうな場所が見当たらない。


普通に茶色い表皮な木だったらまだ隠れられたかもしれないが、赤と青と緑の中では逆に黒は目立つ。他の動物にしても、この環境なのならば背景に溶け込むために茶色じゃなく赤とか青に進化していた方がいいのではと今になって思った。俺は大きいので余計に目立つ。


一応一番太そうな木に隠れようとしてみた。

右半身がはみ出す。俺は少しだけ左に移動する。

左半身がはみ出す。俺は身を捩った。

両側からちょっとずつはみ出す。


…ダメです!!

ゴリラは横幅が広過ぎて隠れるのに適していません!!


木に登るにも、此処の木々に大きめゴリラの体重を支え切るだけの力があるかちょっと怪しい。これはイケる!とかこれはダメだ!って野生の直感が働かないから不安だ。

何百年の歴史ある大木とかなら行けただろうが、目の前の木々は太い方ではあると思うが全体重預けるにはいまいち頼りなさを感じる。

しかも俺が最後に木登りしたのは小学一年生ぐらいの時だったと思う。さらに言うなら、俺は運動は苦手じゃないが木登りはあまり得意じゃなかった。

この森の生態系も把握していない現状で、木から落ちて怪我なんてするわけにはいかない。弱肉強食の戦争に生き残れなくなる恐れのある危険は冒し難い。


では、さっきのうさぎのような動物の前に持って行き、食べてもらえないかとお願いしてみるのはどうか?

あっちからの言葉は通じないが俺からの言葉は通じているかもしれないような空気だったし、試してみる価値はあるのでは…?


…。


ダメだ!

なんかあの動物達、毒とわかっていても俺の言葉には逆らえず食べてしまうような気がする…!根拠は無いけど、そんな気がする!

いたいけな草食動物達に自殺を要求するような所業、俺には出来ないです…。

ただ毒かどうか教えてもらえるよう丁寧に説明するにしても、どの程度言葉が通じているのかもわからない。なんとなくこんな感じかな?ぐらいしか通じていないとすると大惨事になりかねない。


えーっと、じゃあ…じゃあ…。


…。



ぇえい!しゃらくせぇ!!ゴリラは度胸だ!!


俺は思考を放棄し、赤い果物を豪快に噛みちぎった。その姿、正にゴリラ…!!

いや、怪我を気にしていた癖に腹痛の危険は考慮しない短絡的思想は、むしろゴリラ以下…!!


「…ウ、ホ?(…これ、みかんじゃね?)」


果物の見た目とは全く一致しないが、味は完全にみかんだった。美味い。

みかんは俺の好物だ。もうこれが毒だったとしたら仕方ないよ。そういう運命だったとして潔く死のう。


俺はみかん味の果物を腹一杯に食べた。



喉も腹も満たされた俺は、意気揚々とまた探索を開始した。

すると間も無く、俺は発見する。



崖の下部分となる露出した岩肌が壁のように広がる中、その一部にぽっかりと空いた横穴。

奥の奥は暗く見えず、何処か神聖な空気を感じる。


…洞窟!これ洞窟だ!

異世界の定番ではよくダンジョンになっていたりするアレだ!

しかし今はそんなファンタジックな妄想より、雨風を防げる寝床候補だ!


異世界ゴリラ生活一日目にして、俺は美味しい水と食事に加え、雨風防げる寝床まで手に入れられるというのか…!至れり尽くせり過ぎる!も、もしや運がチートなのか?!だったらその運をもう少し生まれ変わる種族の選択に回して欲しかった!

ゴリラ嫌いじゃないけど!嫌いじゃないけどさぁ?!


そもそもまだ、この洞窟が俺が暮らせる安全なタイプの洞窟かはわからないんですけどね…!!

探索!探索行くぞ、オラァ!!

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