恋愛馬鹿
馬鹿王子と知識馬鹿の過去が書きたくて。ちょっとヤンデレかも?
ようやく片付いた弟たちの恋路に、肩の荷が下りた気分だ。
次男のローランドは、その出生故に、少々変わった性格になってしまった。
正妃よりも王家に近い血筋の側室。義理で通った一度で懐妊してしまった彼の母は、母になるにはあまりにりも幼く、側室として継承権を有する王子を産むには、あまりにも精細すぎた。
懐妊してからどんどん壊れていく彼女を、僕の母はいつも気にしていた。
王子を産んだことは知らされたが、体調が悪いと離宮に閉じこもり、誰にも、自分の父にすら会わなかった。その閉鎖された空間で、どのように育てられたかは想像できないが、5歳になったローランドを見たとき、とても歪んでいたことは理解できた。
彼が連れてこられたのは、彼の母が亡くなった時だった。
ちょうど自分の母も亡くなったころで、暗殺騒動で彼の祖父が罰せられたばかりだった。
なにもかもを一度に失くした弟は、けれど、何も語らなかった。
5歳児で、彼は言葉をひとつも覚えていなかったのだ。
だから、僕はまるで親代わりのように彼にいろいろ教育をした。元々、神童といえるほどの頭脳の持ち主だったから、おもしろいくらい知識を吸収し、成長していった。
知識にしか、興味を向けなくなったのは、あれだったが―――――。
その彼が、知識以外に興味を示したのが、彼女だった。
その二人も、無事に思いが通じ合った。
その下の、三男のカイン。
彼は、体裁のために囲った側室の一人が懐妊してできた子だ。
身分の一番低い娘の子だった故に、母親は側室たちから嫌がらせを受け、けれど、彼を大切に育てた。
そんな女のいやな部分を幼いころから目の当たりにしていた彼は、無意識に女という生き物を避けるようになった。
そんな彼が、一目惚れしたのが、公爵家の令嬢。僕のいとこだ。
女を厭う彼は、無意識に彼女を彼だと信じ込んだ。
常に隣に置き、常に気を配り、常に思っていたのに、笑えることである。
それも、愛の力というもので克服した。
愛の力は素晴らしい。
「そう思わないかい?」
隣にいる彼女に語りかければ、微妙な顔をされた。
「別に、あなたが何もしなくても、自然とみんなくっついていたと思うわよ?」
「まあね。でも、念には念を、ね」
にこにこと笑う僕とは対照的に、彼女は渋面だ。
そんな彼女もかわいいと思う僕も、相当愛の力にやられているのかもしれない。
いや、やられていなければ、こんなことやってはいないか。
「・・・・まあ、これでやっと君に告白できる」
「・・・・私も」
そっと手を差し出せば、彼女の手が重なる。
「やっと、今度こそ・・・・」
「一緒になれる」
距離が徐々に縮まる。
「前世から、愛してる」
「今世も、愛しています」
前世では結ばれなかった僕たちが、今世で巡り合えたのは奇跡。
もう絶対に手を離さない。
君は知らない。
隣国の姫君である君が、僕の妃になる確率は高い。けれど、弟たちにその可能性がないわけではない。
だから、その可能性を摘んだ。
僕が、こんなにも君に執着していたとしたら、君は逃げてしまうかもしれないから。
だから、僕は言わない。
触れる唇は、やわらかく、あたたかく、お互い生きていると感じられる。
「ふふふっ」
「何?」
笑う彼女に僕は問う。
「こんな行き送れの姫を、もらってくれるのはあなたくらいなのに」
「!!」
「随分、回り道しましたね」
ああ、全部お見通しだったらしい。
苦笑する僕に、彼女はコロコロと笑う。
「前世ではあなたが年上だったけど、今世は私の方が上なのよ」
「・・・・そうですね」
ちょっとむっとしてしまう。
「だから、早く家族を作りましょ?姫と王子、二人はほしいわ」
「・・・・善処しましょう」
「これからは、ずっと一緒だからね」
「ああ」
弟は、知識馬鹿と馬鹿王子。
なら僕は?
恋愛馬鹿、かな。
長兄の話がなかった理由です。