SS13 「電気の力」
理科室の掃除中、カノ子が妙なものを机の上に置いた。幅50センチほどの木製の土台の上に二枚の金属の円盤が回転できるように設置され、ベルトでつながっている。円盤に触れるように硬そうな毛のブラシが取り付けられている。さらに大小様々な歯車が組み合わさっており、その一つにハンドルが付いている。土台には「静電気発生実験器」とある。
「何をする機械かな?」
「発生させるんだろ? ・・・・・・静電気」
「静電気・・・・・・うぇ」
カノ子は形の良い眉をしかめた。
僕の高校の生徒は全員、何らかのクラブに所属することになっている。僕と鈴木カノ子は生物部の部長と副部長だ。まともに活動している部員は僕たち二人だけで・・・・・・僕も彼女も相手が部長だと思っている。普段は二人でグダグダしているだけなのだが、今日は顧問から理科室の掃除を頼まれた。
カノ子は一見、優等生風の外見だ。制服はきっちりと着こなし、長い髪は後ろで束ねられている。いささか冷たく見えるのは、切れ長な目をしているのと、メガネが合っていないからだ。あんな時代がかった黒ぶちのメガネなんかどこで見つけてきたんだろう。
なんにせよ、彼女は人付き合いを極端に選び、ぶっきらぼうな対応しかしないのでクラスでは浮いた存在だ。幸い、嫌われるほどではないようだが、生真面目で近づきにくい存在とは思われているようだ。
生物部も真面目に活動していると思われている。だが、実際には部ではひたすらグダグダとした態度をしているだけだ。
この姿を見せてやればクラスの奴らの評価も変わるだろう。
・・・・・・彼女は嫌がるだろうが。
「ちょっとやってみようか」
「静電気、嫌い。バチバチなるし」
「乾燥しているしね」
僕はハンドルを握って回した。金属板が回転し、ブラシとこすり合わさる。しばらくすると土台に取り付けられた二本の金属棒の間に放電が起こった。
カノ子が歓声を上げる。
「私にもやらせて」
「静電気は嫌いじゃなかったっけ?」
「・・・・・・もう!」
カノ子はハンドルに手を伸ばした。しかし、金属部分に触れてしまったのか小さな破裂音がして、手を引っ込めた。慌てて大丈夫かと尋ねると、指を咥えたまま大丈夫だと答えた。
「きちんとハンドルを握れば大丈夫だよ」
僕はカノ子を促したが、彼女は躊躇していた。
「一緒に握ってよ」
「・・・・・・わかった」
僕はカノ子の手をハンドルの上から包んだ。金属板がクルクル回転し、火花が散った。
「火花、綺麗だね」
カノ子が呟いた。
結局のところ、生物部は学校に馴染めない問題児の吹き溜まりだ。明確にそう言われたわけじゃない。だが、学校という社会の中心から少し外れたところにいるとわかることはある。僕は社会という円盤のギリギリの端に立っているのだと。
でも、彼女と理科室があるから僕は明日も学校に来るだろう。
「すごいね。電気って」
手は汗ばんだが、離したくはなかった。
これも多分、電気の力。