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最終話 あの子の向こうの夢

 申し訳ありません。

 申し訳ありませんが、本作は今話で完結(打ち切り)とさせて頂きます。

 詳細はあとがきで(平身低頭)。

 とにかく信行の本陣に乱入しよう、という方針である。


 信長の軍事支援。

 信行の説得。

 どちらを優先するにしろ、街道をふさぐ林秀貞の手勢七百人をどうにかする。

 それで初めて前進できるのだ。

 だが、


『無理に進むと後ろを衝かれる、まともにぶつかると負ける』


 と、秀孝の直感が言っている。

 実際の思考は、


(イヤな布陣だなぁ……)


 という印象だった。


 林勢は街道上にいるが、そのぶん自由に動ける位置に布陣している。

 秀孝勢の動き方がどうであれ、対応できるぞ、というわけだ。

 いざとなれば近隣の村々に退避できるのも、林勢の得手の一つ。


 強攻し、林勢を押すことはできるかも知れない。

 秀孝勢は歴戦の精鋭なのだ。

 経験と自信、つまり、兵らの練度と士気が違う。


 が、押しても、たぶんかわされる。

 林勢は、こちらをまともに相手をする必要がないのだ。

 秀孝の邪魔をする。林秀貞に求められる役割はそれだからだ。


 すると、どうしても、粘り強く抵抗しそうであった。

 時間がかかると数の差が出る。

 まともにぶつかると負ける、というのが、それだ。


(どうすれば――)


 秀孝は唇を噛む。馬上であった。う~ん、と苦しい思案をした。


「殿さま!」


 突然、誰かに呼ばれた。

 秀孝が振り返ると、後衛の藤浪秀鑑からの使い番(伝令)であった。

 秀孝は中衛担当。本隊だ。前衛は井伊直元が担当している。


 周囲には馬廻・近習・小姓衆がいる。牧秀盈や坂井孫平次も、秀孝の護衛だ。


「なんでしょうか?」

「藤浪さまよりご伝言! 『……もしお迷いあらば当方に策あり。詳細は使い番役に』と!」

「うけたまわります」


 秀孝が馬上で応じるや、使い番の若者はこう言うのだ。


「偽装撤退ののち、急追してくる林勢に痛打を与えればいかがかと」

「それはボクも考えたんだけど……決め手になるかなぁ、みたいな」


「藤浪さまもその点はご承知でありました。殿さまがご不安の場合はこうも申し伝えよ、と――。

『もし打撃力に不安がありせば、騎馬武者に足軽の長槍を持たせ、弓・鉄砲衆をかき集めた反撃ならば?』」


 秀孝の直感が太鼓判を押した。

 ひらめきに近いが、『イケるよ!』という思いが湧いたのだ。

 求められるのは速度と驚き。


 どれだけ早い時間で林勢を圧倒できるか、なのだ。

 藤浪秀鑑の提案はそれを持っていた。


 秀孝は限られた時間内でカシャカシャと思考を編んだ。

 林秀貞の妨害を突破する。これが一手。

 信行の本陣に突入する。これが二手。

 三手で説得。これはぶっつけ本番だから、策もなにもない。


 どうしてそんなふわっとした行動をしているのか、といえば、これも直感だ。

 信行を降伏せしめなければ『イヤなこと』になる気がしている。

 それに、秀孝は自分が『できることしかできない』と知っているのだ。


「やろっか」


 傍目には自然体にそう言った。

 内心の不安は出してもしょうがないのだ。

 なにをしても被害は出る。どうしても出る。軍事行動はそうなのだ。


 責められるかも知れない。失敗するかも知れない。もしかしたら命まで狙われるかも知れない。

 その前に、死ぬかも知れない。

 でも、と、秀孝はちょっと息をつき、キリッとするのだ。


(ボクにできることをやろう。それがどんなことでも――)


 いろいろな思いを混交させる。

 ともあれ、できることをやる。秀孝の行動はそうだ。いつものように、だ。


 ◇


 思った通り、秀孝勢が林勢を無視するように動き出すと、林勢が後ろを急追してきた。


 前衛がそのまま殿軍となった井伊直元の隊が、林勢の突撃をいなしている。

 一隊を三隊ほどに分けて、連動しながら下がってくるのだ。

 うまい。井伊直元の指揮はそうだ。

 だが、見惚れてばかりはいられない。


「殿。このままでは井伊殿の退避がうまく行きません」

「分かってる」


 瞠目し、焦る坂井孫平次に、秀孝は冷静に聴こえる返答をした。

 当然のエラー。予期された失敗。どこかでは出るだろう、ぶっつけ本番の不可抗力。

 秀孝は淡々と対処した。

 もちろん、額に汗が噴き出ているから、内心は様々な感情が渦巻いている。


「弓・鉄砲衆を両側面に回して」

「しかし、それだと反撃の際の力不足と……!」

「いいの。刑部さんが逃げれることが大事だよ。みんなの身動きが取れることが大事なんだ」


 秀孝が熱い息をつく。

 その間に、弓・鉄砲衆が左右に回って井伊隊の支援射撃を行う。

 同時。秀孝ら本隊と後衛の藤浪秀鑑隊が反転。合体ののち、再分離。


 本隊に侍衆が集中し、後衛に足軽衆が集中した。

 要は、秀孝の本隊が突撃・敵陣の穴あけ要員。

 藤浪秀鑑の足軽衆が追撃・戦果拡大要員だ。


(あ、これなんか映画で見たことあるかも――)


 秀孝は思った。図らずも兵種別編制をやってのけている自分に薄々勘付いたが、細かい知識はないので言葉にはできない。

 実際は、この世界線の織田氏の軍隊におけるエポックメイキング――とても重要な革新であったろう。


 林勢が鶴翼を広げる。

 両翼を展開し、迂回させ始めたのだ。

 包囲か、圧力が目的だろう。

 とにかく少数の秀孝勢を威嚇し、戦意を喪失させてしまえば勝ちだ、と踏んでるのかも知れない。


 そんなの、こっちだって同じことではあるのだ。

 敵の戦意を喪失させる。

 そのために、秀孝らはぶっつけ本番の準備をしているのだ。


 秀孝は戦場の流れが切り替わったのを肌で感じた。

 お互いの状況が視認できるようになった、ということである。

 秀孝勢の策戦も、バレた頃合いだろう。


 事実、林勢の左右両翼の動きが途中でぎこちなくなった。

 お伺いを立てるように、敵方の使い番が走るのが、伸び上がった馬上から垣間見えた。

 すると、林秀貞の警戒の指示が飛びでもしたのか、敵前衛の追撃がゆるんだ。


(ここだ!)


 秀孝は祈るように念じた。井伊直元の動きを食い入るように見つめる。

 果たして、その隙に、井伊直元の隊が一気に距離を取った。

 林勢の弓・鉄砲衆が牽制射撃を行い、何人か井伊直元の隊の人間が倒れる。

 それでも、動き自体は止まらない。


 突然、井伊直元の隊が左右の茂みにバッと分かれ、逃れた。

 逃れてくれた。秀孝はほとんど神々しいものを見る目で思った。

 道が開けた。


 秀孝は自分も長槍を抱え、馬上、片手を挙げ、振り下ろし、言った。


「行っけぇ~っ!」


 侍衆の長槍の穂先が並べられ、ゆるやかに前進した。

 歩みが疾駆となるのにそんなに時間はかからない。

 林勢の前衛が動揺するのが手に取るように分かった。


 なんだ、なんだ。

 なんなのだ、おまえらは? そういう気持ちだろう。

 見慣れた侍衆は、使いづらい長槍で突撃なんかしないのだ。

 秀孝はただ穂先を前へ向けることに専心した。


 林勢の顔面が引きつる。長槍の穂先が向けられて、初めて、


『アレはやばい』


 と、肌で感じたことだろう。


 みんなはどう思うのだろう。

 分からない。

 ただ、みんなの穂先はそろって前へ向けられ、馬の速度とともに一直線に林勢に向かった。


 突き刺さる。

 瞬間、衝撃。長槍のしなり。

 敵兵が吹っ飛び、敵侍衆の驚愕の顔が見える。


 味方の興奮が伝わる。強力な一撃だったのだ。

 でも、秀孝は突撃の浅さを感じた。

 目に汗が入るのも構わず、バッと周囲を見渡しつつ、言った。


「反転! もう一回!」


 林勢が必死の反撃に出る。恐怖からの行動だろう。

 でも、衝撃から立ち直れないひとのほうが多い。

 反撃が散発的なのだ。

 秀孝勢が逃れられるのはたやすかった。


 距離を取る。秀孝はもう一度、同じ動作をした。


「もう一回……行っけぇぇ~っ!!」


 秀孝が穂先を差し向ける。みんながならう。前進。疾駆……接触と衝撃。

 敵兵が吹っ飛ぶ。そして再度の反転。

 今度は林勢も決死であった。死に物狂いで立ち向かってくる。

 イヤだ、イヤだ、あんな目に遭うのは二度とごめんだ! そういう気持ちだろう。


 秀孝勢は今度も逃れた。ただし、被害は出ている。

 とにかく侍衆をかき集めての奇策だったのだ。

 だから、足軽衆は大雑把な指揮を執れる程度になっている。


 その侍衆が六十騎いたのが、五十騎、四十数騎に減っていた。

 秀孝は胸の痛みを覚えた。腿に浅手を受けている。そちらよりも、もっとじくじくする痛み。

 それでも、秀孝は同じことをした。できること、やるべきこと。秀孝は大将なのだった、どんなに似合わなくても。


「今度こそ……今度こそ!」


 行っけぇぇぇぇ~ッ!!! 秀孝の叫びか、みんなの心の声かは分からない。

 ただ、今度の突撃はなにかが違った。

 林勢の必死の槍衾。押しのけ、突っ込む。


 深く、深く、深く、突き刺さった。

 圧力がふっとなくなる。

 抜けた? ……抜けた!


「散開(さんか~い)!」


 大きく散るように命じる。

 敵前衛を抜けたところから続々と侍衆が飛び出て、命令に従う。

 最小限度の隊伍で大きく散りながら、混乱した敵兵を打ち倒し、かき乱していく。

 すぐに、味方後衛の藤浪秀鑑の足軽衆が襲いかかった。


 雲が溶けるように敵前衛が崩れた。

 林勢が、前衛の崩壊に巻き込まれ、潰走し始める。

 瞬間、秀孝は追い討ちを命じた。

 首は取らないでいい。とにかく、敵を追い散らすことを優先すること。


 事前の取り決めのごとく、秀孝勢は全力で林勢七百人を追い崩し、散らした。

 半刻(一時間)ほど追撃を続けた。

 もはや林勢にまとまりはない。敵将の林秀貞の行方は分からない。

 状況から考えると、南方の与力の城へ退避したと考えたほうがいいかも知れない。


「ここまで~!」


 秀孝は追撃を取りやめ、手勢をまとめた。

 損害は重傷者含む死傷二十二人。常と比べれば多いが、倍する敵と戦ったと思えば大健闘であった。

 軽傷だと、秀孝を含めて数え切れない。


 いくらかの休息。のち、重傷者を守山城へ護送する人員を分けた。

 現在の手勢は侍衆四十四騎。足軽衆二百八十人そこそこ。

 まだ戦える。さあ前進だ。


 秀孝は北北西へ向かった。正念場である。

 信行の本陣に突入し、なんとしても、信行を降参に導くのだ。


 ◇


 変な戦場である。秀孝の戦場といえばそれで似合っている。


 信長勢と河岸で激戦を繰り広げていた信行勢の背後から秀孝勢が急襲をかけた。


 信行勢は当初、大混乱に陥ったが、秀孝勢は道を切り開くことに専心して、殺す気がないのが分かった。

 信行勢は困惑し、次いで羨望した。

 秀孝勢はなんのために戦っているか、ふと気づいたのだ。

 とたんにバカバカしくなった。


 兄弟ゲンカなのだ、こんなものは。

 秀孝勢はそれを止めるために動いている。

 言うのは簡単だ。

 だからこそ、みんな流された。


 秀孝もそうだろう。いやさ、秀孝こそいちばん流されてる人間にすぎない。

 だけれども、不思議と納得できた。

 あの子は不平不満を垂れても、不可思議なほどにこの世を怨んでいない。

 むしろ愛している。


 あらゆる変化はあの子のもので……。

 だからこそ。

 あらゆる変化はあの子の味方。

 

 貧しさを豊かさに変え。

 戦争を止めるために全力を尽くす。

 そのためなら、なにか大きなこと――。


 この国の戦乱の根幹にすら手をつけるのではないか――。


 そう思われた。

 だからってあの子は君主にならないだろう。

 似合わない。でも、その役割は果たすかも知れない。


 よくは分からない。

 君主でもないのに君主の役割を果たす存在なんて。

 でも、なんとなくそう思えた。


 例えば、漢籍の古事にあるような――。

 一人で何ヶ国をも渡り歩く、名のある君子宰相のような。


 秀孝勢が信行の元まで達したようだ。

 信行勢の兵らはいまやほとんど戦意を失くしていた。

 むしろ夢を見ていた。


 遠い夢だ。兄弟ゲンカに命を賭けるより、ずっとずうっとやりたいような。


 天下泰平。国は豊か。

 そんな夢を、あの子の向こうに見ていた。

 ごめんなさい、打ち切りとさせて頂きました。


 最近は書けば書くほどブクマがはがれるので『アカンでこれはアカンでアカン』とひたすら脳内で呟きがループしてるので、よおし、そんなら桶狭間編に全力投球して終了だ、みたいな方向で考えを進めました。


 が、いざそう決めたら気力が湧かないのです。このままだと気の抜けたものにしかならないな、と判断したところ、今話ならまだ気合を入れて書ける、と思えたので、そのように書きました。


 全体の流れは最後のほうで示せたと思います。そこまで書き切れないのはぼくの実力不足なのは明白です。ここ最近、設定段階でのミスが多数あるのを自分でも気づきましたし、書き方自体に読者さんに負担を強いる、集中を多く求める書き方であったろうとの反省もあります。


 例えば知識チートをしたいのなら、主人公の設定に『大学教授』か『オタク』の属性をつけるべきでした(『できて当然』との印象を与える狙いです)。すると無理を減らせたと思います。


 また男の娘要素を入れるのなら、それ自体が問題の発生源とし、その対決(解決)を主人公にさせるべきでした。


 ほかにもいろいろあります。ネタにひねりが足りない(先駆者の後追いでしかない)、キャラの書き分けが未熟、作者が知識自慢していた(主義主張を押し付けていた)、ヒロインがストーリーに組み込まれていない、などなど、個人的には吐血案件ばかりです。


 そんな次第なので本作は打ち切り、もろもろの課題の解決を次作に託したほうがいいだろう、との判断です。重ね重ねごめんなさい。


 ぼくの見解は以上です。ご不便とご迷惑をおかけしました。

 またどこかで見かけたらお相手してくだされると嬉しいです。では。

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