第二十四話 過去と未来の自分
信行は川向こうに本陣を敷き、持久戦の構えであった。
守山領を攻める構えではない。それは幸いだが、秀孝は面白くない。
「むぅぅ~!」
などと、状況を把握するだにムキになる。
要は『おまえなんか知らないね』と信行は布陣で示しているのだ。
狙いは信長。
秀孝は無視。
せいぜい信長を釣るエサであればよい。
信行方の作戦は、たぶん、力攻めを避けて消耗を抑える。しかるに守山領へ救援に来る信長と一挙に雌雄を決し、織田領をなべて信行の武名のもとに統一する、という感じなのだろう。
理屈は通る。信行の泣きどころは実績不足だし、対抗馬を倒して名を上げるというのはよく聴く話だ。
有力な戦場候補地はきっと那古野北西の河岸だろう。
清洲方面から来る信長方の兵力展開が抑えられて、信行方が自由に動けるのがあの辺りだからだ。
信行方に那古野城代の林秀貞がついたようなのだ。先述の地理の有利はもちろん、兵力の優越――つまり、庄内川以東のたいていの国衆の動員もかなうだろう。
史実のことは知らないが、この世界線の場合、内政家としての林秀貞はそれなりに名の通ったひとなのだ。
政事には利権がつきもの。
縁故の汚職はつい先ごろ、秀孝が対峙したもの。
言い換えれば、強いのだ。政治家の名望にはいろんなものが絡んでくるから、総力を挙げて反乱されるとものすごく苦しくなる。
信行方もいろいろ考えてはいるのだろう。敵味方の有利不利を考え、一つ、一つ、手を打っているに違いない。
戦の経験を積んだいまの秀孝なら理屈も分かる。たぶん利点を活かして迎撃するのが危険の少ない手段なんだろう、というのが。
納得はできない。ぜんぜん納得できない。
秀孝の逆降伏勧告は無視された。
信行からの降伏勧告も無視したのだから、相見互い。
でも、秀孝は叫ぶのだ。戦なんかしなくたっていいでしょうに、と。
「勘十郎の兄上のバカーッ!」
やまびことなって響いた。
櫓の上である。とたん、秀孝はくしゅんと肩を下げた。
ため息をつく。
問題は山積みだ。
守山領は外部と連絡を絶たれて孤立無援。
状況から相手方の作戦を察することはできるが、確実ではない。
なんなんとすれば弱気が滲む。元来、秀孝は戦で昂るようなタチではなく、むしろ気落ちするタイプなのだ。
だが、今回ばかりは気持ちのくじきはなかった。
諦めてなんかやるもんか、そう思っている。
勘十郎の――信行の兄上は、絶対、こっち側に立ったほうが望みが叶うのだ。
兄弟の情と言った。
あっちだって兄弟の情は諦めてないのだ。
だからなおさら、戦に訴えかけたことが許せないし、えいやって怒ってやる! と珍しくぷんすかしている。
ただ、信行はどこか臆病に見える。定見がないというのか、ふらふらしているようすだ。
(これが信長の兄上ならボクんとこ攻めると思う――)
秀孝は思った。信長が秀孝を攻めるなど考えられないが、例え話だ。
信長が信行の立場なら守山城を攻める。少なくとも一度はぶつかってみようとするだろう。
防備を見るのだ。できるのなら一日で陥落できる。それは秀孝が身をもって示している。
信行はそれを試そうともしていない。
採ってる方策がぜんぶ安全パイ。
勇将・柴田勝家が補佐しているはずだから、提言はされているはずなのだ。
それをやってない。なんかおかしい。やるべきことをやらない、というのは、いっそ内部の問題と見て取ったほうがよかった。
大将が優柔不断なら、部下の国衆の独断専行が多くなる。
誰もが考えるのだ。相手方の備えが見たいと。状況が分からないのは信行方から見た守山城も同じだからだ。
その証拠に、東の丘陵向こうの敵部隊に動きがあった。
「変なことして……なんでそんなこと……」
秀孝は呟き、櫓から降りた。
下では足軽衆のうち五十人ほど(選抜最精鋭)と、小姓の牧秀盈と坂井孫平次がいる。
信行方の動きは台地にある守山城からは手に取るように分かる。事前に要請していたのだ。いつでも出られるように、と。
牧秀盈は手槍を肩に回してイケメンな顔をニヤリとさせた。数えの十七歳。すでに声変わりして久しい。
「さあて。逆襲しましょうぜ」
野球やろうぜ、のノリであった。遊びに行こう、というノリで戦える子である。
一方の坂井孫平次は平凡な顔立ちだが、目元が垂れて愛嬌がある。平素は寡黙とすらいえるのだが、現在はやる気をみなぎらせ、牧秀盈を横目で見て、頷き、秀孝を見た。一歩、前へ出て、ぐいぐい来る。
「唯一の陸路にいる敵勢です。自分たちだけ。相手方からするとそうなのでしょう。ここで指をくわえて黙って包囲している……というのは、ありえないはずです」
「うん。それはボクも分かる。でもさ、孫平次くん。あのひとたちは危ないんだよ?」
孤軍だから被害が出るだけだよ、と秀孝は言っていた。もちろん、敵方の話だ。
唯一の陸路にいる敵勢、と坂井孫平次が言ったように、東部は北と南に川が流れてほかの信行方と連携が取れないのだ。
秀孝が東部の敵勢の大将なら、塁を固めて柵を立て、弓矢鉄砲を並べて亀の子になるところだ。監視役さえ果たせればいい、と割り切るだろう。もちろん、退路は確保してだ。
坂井孫平次が戦の気分で興奮してか、顔の血色も鮮やかに断言した。
「意地がございますれば」
「いじ」
「なにか分からない点がございますか、殿?」
「ううん。いい。あのね、うん……なんでもない」
秀孝はわずかに逡巡し、なにか言おうかと迷った。言えなかった。
いじ。意地。イジ。分からないと言うのは簡単だ。
でも、分かってしまうのだ。いまの秀孝は意地で信行に反抗している面がある。
もちろん、守山城主としての任務を果たしてから、ではあるのだけど……秀孝が秀孝であるために、信行に降らない、と決めたところはあるのだ。
秀孝にとっては面目なんて重要じゃない。
でも、戦国人にとっては命と等価か、それ以上なのだ。
で、あればこその戦国時代の人命軽視。
罪に対する罰の重さを招いている。
いつか是正したい戦国の慣習。
秀孝は、絶対に絶対に絶対に、許すわけにはいかない乱世の正義だけれど。
無理、ダメ、消えてよ、なんて、口に出せはしないし、思えないのだ。
ボクは嫌い。すごい嫌い。でも、あるんだなぁ、面目とか、そういうの……としぶしぶ、しょんぼりと、認めはする気分であった。
秀孝はアレやコレの思いを胸に秘め、唇をきゅっと引き結んだ。
大将としての決断を下す。
やられる前にやらねばならない。
イヤな決断だ。できるなら誰かに押しつけたい。
でも、やらねばならない。
「やっつけるよ~っ!」
秀孝は命令を伝達した。
攻撃される前に、蹴散らす。
惣構えを守っているのは若衆(警察+民兵)だとバレるわけにはいかない。
防御にムラがあるとバレるから。
するとどうなる?
最悪、城攻めが強行されるかも知れない。
信行だって、さすがに、好機と見れば乗っかるだろうからだ。
秀孝は守山城主なのだ。信長と信行の弟であるのも、同時に。秀孝が秀孝であるのも、同時にだ。
足軽衆+幹部二人は『応!』とこたえた。
東部の外郭にハシゴを降ろし、森林におおわれた丘陵を駆け抜け、孤軍の側面に出る。
秀孝は例によってなかけ声を上げる。直率だ。兵らの士気は高まる。
「行っくよ~!」
突撃。ぶつかるや、意外ともろい。慌てたようすの敵が崩れ、後退して行く。
秀孝はすぐさま味方の撤収にかかる。
とにかく早く。疾走、疾走!
こういう時に足の速い騎馬隊があれば便利だよね、とは思う。
が、戦国式の騎馬は屈強な騎馬武者+歩兵随行の戦車っぽい運用(衝撃重視。速度がいる作戦の場合は山野を跋渉できる足軽が請け負う)だから、まあ、ないものねだりだ。
ともあれ、秀孝方は戦果の拡大なんか考えなくていい。防勢攻撃なのだ。終わればお城にもどるに限る。
敵方から見れば卑劣な奇襲を受けたようなものだ。敵に当たり、戦った。そして惜しくも崩れた。立て直した時に秀孝勢の姿はない。いちおう、戦場での名分(意地や面目)はこれで立つはずだ。
結果、守山城の包囲はより遠巻きになった。たぶん信行が守山東部の国衆勢に叱責の使者を飛ばしたのだろうが……。
秀孝の気持ちは晴れなかった。信行のことが心配になって、気落ちすらした。
唐突に、信行が初陣で大将をしていることが、受け身、受け身のグダグダな采配の振るい方から、イヤでも見抜けてしまったからだ。
◇
近年の尾張国情勢の変転を述べると長くなるので要約すると、
一、七年前に信長と斎藤道三の娘・帰蝶の縁組がなされたが、道三が息子の義龍に殺されたために濃尾同盟は効力を失くした。
二、伊勢と美濃の関係は濃厚なので、信長から見ると北伊勢の国衆の動きが気になる。
三、濃尾同盟がなくなった以上、木曽川流域の外周部の国衆は義龍政権に走り、尾張国北部の国衆は地理的に義龍政権寄りなため、以下同文。
よって、清洲~守山間は半日で行ける距離にもかかわらず、信長の来援は遅くなることは予期されていた。
政治である。守護や国衆との折衝はもちろん、北尾張や隣国の動向に目を配ってからでないと、動くに動けないのだ。
三週間たった。
信長の援軍はまだ来ない。
秀孝は疲弊していた。
別に食糧に問題はない。
信行のようすがおかしいのはかねてから分かっていたのだ。
もしもの時のために、肥沃な篠木三郷(信長領の飛び地。信長の命令で秀孝が三郷運営に関与しているので、地元の人々と顔見知りである)から、糧食を仕入れておけ、と信長からの厳命もあった。
だから避難民のぶんを加えても、あと一ヶ月そこそこは余裕で籠城していられる。守山南部の川向こうの稲作は信行勢に刈り取られてしまうだろうが、金品の蓄えから補填できるあてはあった。
要は健康面では問題はない。ダメなのはメンタル面である。
「……民百姓が家に帰りたがっています。兵らのケンカ沙汰も増えて参りました」
藤浪秀鑑の報告がすべてを物語っていた。
籠城戦特有の問題であり、矛盾であった。
籠城戦は守るべき誰かにいちばん負担がかかるのだ。
秀孝の気落ちは当然であった。
秀孝は率先して規範を示すべき存在である。大将なのだ。折あらばお百姓さんの元へ向かい、そしてまた兵らの間を巡った。
「おうちに帰れるのは安全が確認されてからですから。お粥を食べてこらえてください」
とか、
「ボクらのお役目は、この守山領を守ることです。打って出ることは禁じています。
大殿さま(信長)の後詰(援軍)に期待しましょう。
必ず来ます。だって、ボクらのお役目も、元々は、大殿さまのご命令だからです」
とか言って、守山の人々や兵らの士気・規律の低下を防いでいるのだが、限度はあった。
戦場の知識と経験が豊富な井伊直元が、
「狭いところです。守山はそうで、こういうところにひとが集まると頭が変になる。
逃げ場がない、というのが、みんなつらいのですな。
別に、殿の責任とは申せません。ほかのやりようは出血を強いることですから……。
まあ、その、どこでも起こりうることです。気になさいますな」
と、秀孝を諭したが、それでなんの状況の打開があるではない。
お嫁さん二人ともしばらく会っていなかった。
井伊直虎は秀孝の体調を心配しておろおろしているというし、蜂須賀墨は、とにかく休んでください、無理をしてでも、と提案が飛んでくるが、秀孝はどれも聴く気になれなかった。
「……私は妻帯しておりませんが、こういう時、妻のお二人と会うのがいちばんかと愚考いたします」
と、藤浪秀鑑も言ってくるのだが、
「でも、ボクは大将だし、城主だし、やらなきゃいけないことがいっぱいあるから――」
と、秀孝は休む気になれないのだった。
危ない。なにもかもが。
秀孝も内心では気づいている。自他が危うい方向に進んでいる、と。
さりとて、ジッとしていると泣きそうになるのだ。
逃げ道がない、というのは、こういうことなのだろう。
秀孝は当たり散らす性格ではないから、泣く、という方向でストレスの発散をするのだろうが、民百姓や兵らの個々の内面となると、また別のひともいるだろう。
口論がいつケンカに発展するか分からない。
流血沙汰こそ抑制できているが、秀孝の巡回がなければ、あわや、ということも起こり始めていた。
(なにかないと。なにか――)
秀孝が希望的観測を求め始めたころ、信行方の使者が城門を叩いた。
林秀貞の来訪である。
◇
「降伏なされませ」
対面するや、温和な調子で林秀貞は述べた。
守山城まで登って来てもらっている。
林秀貞が来た、と聴いた時、秀孝はちょっと『吐いて』しまったのだ。
気持ちが悪い。頭も胸もお腹もぐるぐるしている。
熱があって、視界も滲んでいた。
秀孝の無理は伝わっているに違いない。
林秀貞はやさしそうな老人であった。ちょっと目つきがオドオドして、腰の定まらない感じだが、個人としての性格はいいようだ。
「ご無理をなさらず。すぐのお返事でなくてもよろしい。また後日でも」
「だいじょうぶです。ボク……佐渡守殿とお話がしたいです」
秀孝は気持ち悪さをこらえて会談の継続を願った。
林秀貞は心配そうな表情ではあったが、頷いた。
なんなんだろう。秀孝は林秀貞をめまいのなかで観察していた。
なんか変。やさしいはやさしいと思うけど、違和感がある。
さすがに名望のある政治家だけあって、林秀貞の会話自体は流暢なものだ。
「情勢の有利不利を説いても、守山殿は降りますまいな。ならば率直に申しましょう。
ご家族、ご一党、領民。そしてご一門のため、勘十郎さまへ降られるとよろしい」
「できません」
「存じ上げております。さすれば、こちらの提示できるのは守山衆と、民百姓の身の安全くらいでござる」
「みんなを人質に取るの?」
「ご不快でしょうか。さもありなん。さればこそ申し上げておりまする。
降られませ。これ以上の意地がなんになりましょうや」
「いじ。何週間か前にも、同じことを聴きました」
秀孝はちょっと笑った。気持ち悪さは相変わらずだが、なにかが見えて来ている。
イライラしていた。秀孝なりに。
なんだってこんなに大変な思いをしなきゃいけないんだろう、って。
策謀したのは誰?
信行の勝手な行動?
それとも、それとも……。
ううん。いいや。
もういい。犯人捜しはしない。
ただ、イライラしているのは確かだから……。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、言わせてもらおう。
秀孝は思い、林秀貞の目を見て、言うのだ。
「佐渡守殿に意地はないんですか?」
林秀貞は笑った。イヤなことを言われた、という感じの笑い方だった。
「私の話はよしましょう。三代のご恩を忘れた畜生と申さば満足なのでしょうか」
「自覚はあるのですか?」
「困ったな。こんな方だったとは思いませなんだ」
「どんなボクでもいいです。ボクはボクです。
……いま、なんとなく分かりました。
佐渡守殿は、あんまり自分ってないひとです?」
「閃きはたいてい間違いです。分かった、などと、そのようなことは信じないほうがよろしい」
「降伏はしません」
「はい。先ほどお聴きしました」
「ボクはボクです。これも、分かりました」
林秀貞が押し黙った。秀孝をあらためて見る、という表情だった。
見たことがない。いや、ある。そういう表情だ。
次の瞬間、林秀貞の目の奥に暗い炎がよぎった気がした。
「分かっても、なにも、どうにもなりません。
分かっても、あなたはどうすることもできない。
降りましょう、我々に。ほかに手はないでしょう?」
「手があるとか、ないとか。そういうんじゃないです。
手があっても、なくても。そういうことでやり方を決めたりしません」
林秀貞が怒った顔をした。さすがに、なにかを言いはしない。失言になることが、自分でも分かっているのだろう。
そうか。そうなんだ。これは。秀孝は、また、分かった。
自分の胸を抑えながら、秀孝は真っ直ぐに言った。
「ボクはボクの過去のために、あなたには降りません。
ボクはボクの未来のために、あなた方には負けません。
必ず。なにがあっても。
だって、そうしないと……ボクは哀しいから。
降りません、絶対に。あなたに、あなた方にだけは」
林秀貞が憤激して立ち上がろうとし、すんでのところで座り直した。
両肩が下がっていた。睨みつけるようなまなざしだけ激しいだけで、あとは弱気な老人であった。
そうなのだろう。たぶん、そうなのだろう。
林秀貞は鬼に負けたのだ。過去が味方とならず、十年先の自分すら分からないに違いないのだ。
「話になりませんな」
林秀貞の答えはそれだった。忌々しい口調だ。
「ボクもお話はこの辺りでいいと思います」
秀孝の答えはそれだった。瞑目している。
交渉は決裂した。あとは対決しかない。
また、何日かたった。
ある霧の濃い朝がすぎ、昼に近くなった。
城内が騒がしい。
秀孝が廊下に顔を出すと、藤浪秀鑑がちょうど呼びに来たところだ。
「……櫓のほうへ! 見れば分かります」
秀孝はある予感を抱きつつ、櫓に登って一目し、ニッコリと笑う。悟って、言った。
「信長の兄上が来てくれたんだっ!」
信行方の陣地が動いていた。
西へ、西へと軍勢が動いている。
決戦だ。
と、同時に、城内に矢文が届いた。
またもや信行方の降伏勧告か、まったく性懲りもない……とみんなで見れば、違った。
『好きにやれ』
秀孝は一読し、クスクスと笑った。誰の手紙か分かりやすい。とにかく偉そうだが、的確であった。
はい、そうします、と秀孝は内心で思う。
秀孝は周囲の面々を見回し、小首を傾げて笑い、言った。
「お説教の時間です!」
秀孝はいまこそ打って出る決意を固めた。みんな、同じ気持ちではあるのだ。
よくもまあ駄々っ子のような戦争を起こしてくれたものだ。
苦労をかけてくれたものだ。
大変な思いをさせてくれたものだ。
あの分からんちんのお坊ちゃんに説教の一つでもくれてやらねば収まるまい。
つまりはそうだ。
目的は信長の軍事行動の支援。目標は信行の本陣。
追ってすがって後ろから衝き、あの分からんちんを降伏せしめてしまうのだ。
「行っくよ~!」
いつものかけ声。若衆と最低限の兵らを残し、手勢の三百人を率いて外へ出る。
包囲陣は薄くなっていた。東部から出撃し、備えの敵勢を潰走させて、やや遠回りに南部へ渡河した。
休息する間に物見を発し、状況を確認する。
予想される主戦場の那古野北西部に向かう街道筋を林秀貞の手勢が占拠し、守山勢の到来を待ち構えているという。
逡巡はない。命令は下された。お説教の時間なのだ。
秀孝は手勢を率いて西へ向かった。林勢とぶつかる。それが、秀孝の決断であった。




