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第一話 秀孝誕生

 織田喜六郎秀孝おだきろくろうひでたかの生年は天文十年(1541年)の七月七日。ハッキリ分かってる時点で史実とは違った。


「あ~、しんど……やれやれ、抱かせておくれ。マァマァ、相も変わらず、しわくちゃな赤ん坊! やい、よく生まれたね、三番目! 家全体で言や、何番目だっけ? あ~、いいや、いいや……アタシが母親さ! ついてるから、アンタァ、オトコノコだね!」


 出会い頭の母親の言葉は秀孝の耳に残っている。だいぶチャキチャキしていた。


 物心は最初からついている。秀孝はそうだ。前世の記憶があるからだ。


 前世で住んでたのは静岡県の桜橋。もちろん平成の世だ。高校一年生だった。

 姉がいて、妹がいた。飼い犬のポチもいた。もちろん、お父さんがいて、お母さんもいた。


 最期の時は薄らぼんやり覚えている。幼い妹がポチの散歩中、誤って車道に出た。そこへトラックだ。前世の秀孝はびっくりして、大急ぎで車道に入り、妹とポチを歩道に向かって投げ飛ばしたのだ。

 衝撃。暗転。気づいたら、ここで秀孝をやっていたのだ。


 もちろん、びっくりした。

 でも、驚愕からのマイナス感情は湧かなかった。マイナス感情とは、前世からさほどの縁がない性格だったのだ。だから、慣れなきゃ、とか、我慢しなきゃ、とか、そういう感じでなくて、スッ……と『納得』したのだ。


(仕方ないかも)


 と、思った。諦念ではない。ある種の覚悟であった。んが、秀孝に覚悟している感覚はない。

 前世は心残りだ。だからって、心を砕いても、仕方ないのである。つまり、しょうがないから、生きよう、死ぬわけにはいかないし、というノリである。まったくも~、しょうがないなあ、という、まさにそのノリであった。


 ともあれ、後日。


 視界が利くようになって、茶色の瞳でキョロキョロと周囲を見る。


 母親(土田御前つちだごぜんと呼ばれていた)が呑んだくれてたり、乳母が母親に溜息をついてたり、侍女が誰も見ていない場面で、秀孝を、可愛い、可愛い~! と猫可愛がりする以外で、まず、視界に入ったのは、小生意気そうな少年の顔であった。


「喜六か! わしは吉法師きちほうしである! そなたの兄ぞ!」


 笑顔の少年。


「あい~」


 と秀孝がちいちゃい握り拳を振って、笑顔で応じると、


「で、あるか!」


 と返された。秀孝を見て、キリリとした眉を下げている。リラックスしている様子であった。秀孝がお返しに笑うと、額を指でつんと突かれた。驚いたけれど、どうも、吉法師少年なりの愛情表現らしい。秀孝が脱力して、また笑うと、急に抱き上げられて、ニッと幼いなかにも漢らしさのある目で見つめられ、笑われたのだ。


「このワシの弟ぞ!」


 上機嫌な吉法師少年である。


「まあ、見目は丸っこいし、鼻も小さい。なんとも姫のようじゃがな」


 と言われた時だけ、


「んや~!(ボクにはついてるよ!)」


 とか言い、表面は未発達な表情筋の関係で、丸い瞳を見開くことしかできなかったけれど、心中では大いに頬を膨らませた。


 でもまあ、吉法師少年とはおおむね仲良くなった。平手ひらてのジイと呼ばれる、やさしげなおじいさんに吉法師少年が連れられるまで、二人はゴロゴロと一緒に寝転がったのであった。


 後日では、別の顔がアップになる。


「フフん。この勘十郎かんじゅうろうの弟にしては、なかなか愛いではないか。しかし、なんかこう……なよなよしてるな。チン○ンついてるのか?」


 と、先日の少年より年若い、まだギリ幼児っぽい相手に布オムツを無理やり取り払われるという辱めを受けたので、秀孝は、ぎゃーん! と恥ずかし泣いた。

 勘十郎少年は態度が高飛車な割に、ギョッとすると幼い表情を剥き出しにするようなひとであった。元の見目が秀孝と似て、やさしい感じなのもある。勘十郎少年は、まあるい瞳を見開き、おろおろした。そして、うぇぇ……と秀孝に釣られて泣くのだ。


 気分の良い飲酒を邪魔された土田御前によって、二人目の兄を名乗る幼児・勘十郎少年は拳骨の刑に処され、ますます、二人で一緒に泣いたのだった。


 またまた後日。


「良いか? 別にオレはおまえに興味があって来てるわけじゃない。息子だからって甘えるな? 息子なんて、おまえで五人目だし、子どもでいや、おまえで十一子なんだから、興味とかこれっぽっちも……可愛いなぁ~、おまえ! なにおまえ? 可愛いなぁ~~~ッッ!! 姫みたいに可愛い~っ!」


 と、セリフの前半部が言い訳、後半部が女子高生のノリで攻めて来たのは、色白で整った顔立ちに、上ヒゲを蓄え、おそらくは生来のものだろう威厳が口調で台無しになってる感の漂う壮年の武者であった。


「あう~?(どなたですか?)」

「ぴょ、ぴょこぴょこすんなよ、全身で弾むなよ! やめろって言ってるだろ!? 可愛いんだよ、おまえッ!!」


 と逆ギレしつつ、壮年の武者は秀孝を抱き上げるのだ。ちなみに、今日に限って乳母や侍女がいない。

 乳母は、ついさっき、旦那と子どもとお菓子が来た、というていの話が伝えられて出て行ったし、侍女は侍女で郷里の村長が両親を連れ立ってお菓子とともにやって来た、という話で、これまた出て行った。


 土田御前にも似たような話(御前さま。実は先ほど、お庭のほうに、珍しい京のお酒が届きました。喜六さまのお世話は私――小姓――にお任せなされませ。どうぞ御前さまは京のお酒をご賞味なされますよう……みたいな話)が来たけれど、


『酒はここで呑める』


 とダメ人間の主張を行い、酒はここに持って来い、と土田御前は話を伝えに来た小姓に命じ、秀孝の傍に居座ったのであった。


 すると不思議なことに、京のお酒を手に持ってやって来たのが、先述の壮年の武者であった。


「こういう御仁ひとなんだよ、うちの殿さまは」


 と、土田御前。すると、この壮年の武者が自分の父親だろうか。思った秀孝は、


「きゃい!(今生のお父さん!)」


 と、笑顔で挨拶し、


「あ、あああ~~~……――か~わ~い~い~ッ!!!」


 と、秀孝の親父こと、身体が逆三角形でガッシリしてる割には、セリフの後半部がやはり女子高生っぽい、織田弾正忠信秀おだだんじょうのちゅうのぶひでの目をハートマークにさせ、膝から崩れさせてメロメロにさせるのだった。

2016.7.23、追記。


感想欄で序盤が読みづらい(大意。こちらで勝手に読み取る限りでは構成がド下手クソと言われてるような気がする)という意見がありまして、作者視点でも序盤はだいぶ拙い印象です。従いまして、読みにくい場合は秀孝が本格始動する第十七話辺りに飛んでみることをおススメしときます(作者自身、序盤の修正の方法が思いつかず、元々が遅筆のため、なるべく先へ先へ書き進めよう、と考えているからです)。


第十七話は総括篇みたいになってるのでそれまでのお話もだいたい分かるはずです。作者も書きなれてきた(はず)のところなので、第十七話を読んで、それでも合わない場合はブラウザバックを推奨します。


以上。作者の都合でご不便をおかけしますが、作者の方針は先述の通りです(`・ω・´)ゞ

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