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尾花環妃②

 智紀は蛍子から受けた仕事のプレゼン資料が仕上がった為、それを届けようと自転車に乗ると、蛍子の事務所がある学芸大学駅へ向かっていた。

 池ノ上で評判のカレーパンを買うと、それをかじりながら三宿を抜けると見慣れた制服の女の子がちらほらと見受けられた。


「そう言えば鈿女の学校はこの辺だったか」


 国道246号線にぶつかり三軒茶屋方面に向かうと生徒達の数は更に増えた。

 そこから、420号線に入ると生徒達の数はぐっと減った。

 そんな中、智紀の目に留まる生徒の姿があった。大学生らしき男性と腕を組んで歩いているその生徒は黒髪と長身からか気品の様な物を後ろ姿からも感じられた。


 歩道を歩くその2人を車道から自転車で追い抜く智紀を、その生徒は振り向きながら見ていた。

 それに気が付いた智紀も目線を合わせる。


「ふふ」と笑ったように感じた。智紀は直感的に「あれが尾花環妃か」と分かった。勿論、鈿女が言わんとする雰囲気も掴んでいた。



「鈿女さんと同じ匂い。彼の方が強そうね。まったく、ここは面白い所だわ」


 自転車で通り過ぎていく智紀の背中を見ながら環妃は呟く。


「何?さっきの男、俺より格好良かった?」


「あら、貴方には関係の無いことよ」


 環妃と一緒に歩いていた男が、環妃の独り言を気にして問い掛けると、環妃は軽く笑いあしらった。






 翌日学校では、またも環妃の噂が広まっていた。昨日の下校時に環妃が男と歩いていて、それが近くの大学生でナンバーワンといわれる安部だったと。


「羽鳥先生とできてたかと思ったら、次は安部さんだなんて!」


 上級生達は怒り心頭だった。そんな上級生は環妃の登校前に教室に行き、鈿女たちに昼休みに教室に来させるように伝言した。


「完全にターゲットにされちゃったわね尾花さん」


「まあ羽鳥先生との噂がこの前だったからね」


「環妃さん、一体何を考えてるんだろ」


 鈿女は、彼女の考えが全く掴めなかった。羽鳥先生の事も彼女は否定しなかった。今回の事も否定しないだろう。きっと上級生とは喧嘩になるんじゃないかと心配した。


「尾花さんは何を考えてるか分からないけど、1度痛い目を見た方がいいよ」


「どうしてクラスメイトにそんな事言うんだよー」


「だってあの安部さんよ。上級生じゃなくったって嫉妬するわ」


「へえ、その安部さんてのそんなに格好良いんだ?」


「あんたは男に興味とか無いもんね」


「うん、今は智兄がかまってくれるし彼氏とか興味ないなあ」


「え!あんたブラコンなの?」


「違う違う、ただ楽しいんだよね智兄と喋ってると」


 友達はしらけた目線で鈿女を見る。

 鈿女は「まったく」と溜め息交じりにその目線に応える。

 そんな話をしていると環妃が登校してきた。勿論、噂の事は知らない感じであった。

 環妃が教室に入って来ると、友達が鈿女の背中を叩く。


「えっ!私が言いに行くの?」


「もちろんじゃない。鈿女以外まともに話が出来る人なんていないよ」


 しぶしぶ鈿女は環妃に話かける。


「おはよう環妃さん」


「おはよう鈿女さん」


「あのね、環妃さんが安部さんて人と付き合ってる事で先輩が話を聞きたいらしいの。昼休みに三年生の教室に来て欲しいって」


「あら、そう。先輩方も暇なのね」


 鈿女は苦笑いしながら、この返答は同意できると感じた。


「環妃さんは、その安部さんと付き合ってるの?」


「付き合う。そうね、彼の戯言に私は付き合っているわ」


 鈿女は環妃の言っている意味が理解出来なかった。それを見た環妃は笑みを浮かべ席を立つと、教室を出ようとした。


「どうしたの?」


「昼休みまで待つ必要も無いと思って。これから三年生の教室に行って来るわ」


「もうすぐ朝礼始まるよ?」


「直ぐに済むから大丈夫よ」


 そう言うと環妃は三年生のクラスへ向かった。鈿女は廊下を歩く環妃の背中を見ながら、大丈夫かなと三年生の心配をした。



 三年生の教室の扉を環妃は開ける。

 朝礼が始まる時間が近かった為に三年生は先生が入って来たものと思っていたので唖然としていた。


「私が安部と付き合ってる事に何か言いたいのは誰かしら」


「ちょっと、あなた安部さんの何なのよ。安部って呼び捨てってどういうつもりなの!」


「あら、安部は安部よ。あの男に敬意を払う必要なんてないわ」


「何それ、それだけ親密だって言いたい訳?」


「安心なさい。あの男は、あと3日もすれば別れるわ」


 三年生は半ば発狂していたが、環妃は伝える事は伝えたといった感じで、まったく関知せず三年生の教室を去った。


 朝の朝礼の為に鈿女の教室に先生が入って来るのと同じくして環妃が戻って来た。

 環妃は何事も無かったように席に着いた。もちろんクラスメイト達はざわめいていた。



 1限目が終わると鈿女は環妃の席へ行った。環妃はやはり笑みを浮かべていた。


「大丈夫だったか気になっているようね」


「うん。だってあまりにも戻って来るのが早かったから」


「心配してもらえて嬉しいわ。でも安心して頂戴、三年生にも伝えたけれど、あの男とは後3日もしたら別れるから」


「どういう意味?」


「待っていれば分かる事よ」


 鈿女は訳が分からなくなった。

 そして、困った事があったら智兄だなと放課後、迷惑顔の智紀を想像しながら智紀の家に向かった。

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