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尾花環妃①

 尾花環妃は学校に程近いアパートに1人暮らしをしていた。

 近所の住人や近くの大学に通う男子学生なのどが見惚れる程の容姿を持つ彼女だが、学校内では近寄りがたい雰囲気で殆どの時間を1人で過ごしていた。

 鈿女が早退したと聞いた環妃は、それならばと言わんばかりに昼食前に早退してしまった。

 アパートに着くと、1人の男性が立っていた。


「あら羽鳥先生、どうされたの?」


「尾花、俺は学校を辞める事になった。もう俺にはお前しか無いんだ」


「何を言っているの?学校を辞める事になったのは自業自得。そして、私は貴方になんか依存はしないわ」


「そ、そんな…」


「今まで自分がしてきた事を悔いるがいいわ。そして今すぐ私の前から消えなさい」


 立っていたのは「元」担任の羽鳥だった。羽鳥は環妃に好意はあったが、近付いて来たのは環妃の方からだった。誰が情報を学校に漏らしたかは分からないが、例え互いが相思相愛でも教師と生徒の恋愛を学校が認める訳がない。


「尾花、おまえまさか俺を陥れるのが目的だったのか?」


「人聞きの悪い事を云うのね。羽鳥先生、貴方は私の誘惑に乗った。そしてその欲望を剥き出しにしていたじゃない。貴方のような人間はまっとうに生きていいわけがない。だから悔いなさい。そして今すぐ立ち去れと言っただろう」


 羽鳥は愕然と、そして恐怖で環妃の前から逃げるように立ち去った。


「あらやだ、元の話し言葉が出てしまったわね」


 環妃は部屋に入ると制服を脱ぐと、そのままの姿で部屋の片隅にある写真を手に取ると、破り捨てた。




 翌日、学校では緊急の全校集会が開かれた。羽鳥の解雇について校長から発表があった。しかし、それは解雇では無く羽鳥の体調不良が原因による退職と発表されたのだった。

 生徒達はあちこちでざわめいていた。


 環妃の周りにいた生徒は、環妃をちらりと見るような仕草をしていたが、環妃は意に介していないといった様子だった。

 ざわめきの中、校長が、


「では、羽鳥先生よりご挨拶があります」


 これに生徒達は更にざわめいていた。

 環妃は微動だにしない。むしろ笑みを浮かべているように見えた。


「おはようございます。この度は急ではありますが、教鞭に立つには難しい病気を患い退職する事になりました。志し半ばで退職するのは残念ですが、皆にはこの学校で多くを学び、立派な大人になって欲しいと思います」


 羽鳥は見るからにやつれ、病的であった。もちろんこれは病気でも何でもない。昨日の環妃との一件、彼女の蔑んだ目に恐怖し、こうなってしまった。

 今朝、色々な残務を整理しに来た羽鳥を見て校長がそれを利用して退職の理由にしてしまったのだ。


「くくっ、無様ね。でも貴方にはこれぐらいでも本当は足りないぐらい」


 環妃は誰にも聞こえない、小さな独り言を呟いて確かに笑っていた。

 そして、鋭い目付きで羽鳥を睨んだ。

 羽鳥は、その殺気めいた目線に気が付きそちらを見る。そして、それが環妃と気が付くと言葉を失い、怯え、恐怖し講堂の壇上を逃げるように去った。

 これには校長も驚き、マイクを取ると、


「羽鳥先生は精神的にも疲れた部分があるので。それでは今朝の集会は以上をもって終了します」


 生徒達はその一部始終を見て、更にざわめいていた。一般教員達はそれを静めるために大きな声で生徒達に「静かにしなさい」と言って回った。


「本当に無様。貴方が居なくなる事は本当に気持ちが良いわ」


 環妃がやはり独り言を呟く。周囲は全く気がつかない。


 しかし、この最後の一言を鈿女は聞いていた。

 そして、昨日思い付いた作戦で智紀を環妃に会わせなければと確信した。




 昼休みに鈿女は環妃を呼び出した。

 中庭にある、噴水脇にあるベンチに2人は腰掛けた。

 鈿女は智紀と会わせるまでは、無理はよそうと思っていたが、集会でのあの言葉の真意だけは確かめておきたかった。


「環妃さん、今朝の集会で笑っていたよね?」


「鈿女さんはやはり鋭いのね。ええ確かに笑っていたわよ」


「羽鳥先生が辞めるの気持ちが良いって言ってなかった?」


「あら、そんな事も聞こえてたの?」


「うん、聞こえた…あれはどういう意味だったの」


「そのままよ、あの先生は居なくていいのよ。居ない方がいいの。だからああして堕ちていく様が気持ちよいのよ」


「でも、羽鳥先生はみんなに人気があったんだよ」


「鈿女さん、貴女は本質が何も見えていないのね。お願いだから私をがっかりさせないで」


「そんな、勝手に期待されたり、がっかりされても私には訳が分からないよ」


「それなら傍観しているといいわ。私は私のするべき事をまっとうするだけだから」


 鈿女は困惑していた。環妃は目的があって羽鳥先生を辞めさせた。それは感じとれたが、環妃は別の世界、次元をあるいている感覚でどうして良いか分からなかった。


「話はそれだけ?じゃあ私は行くわね」


 そう言うと環妃は、立ち上がり校舎へと歩き出した。鈿女は呼び止める術もなく、それをただ見ているだけだっだ。


「智兄、やっぱり環妃さんはおかしいよ…」

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