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荒井鈿女①

 鈿女はその転校生の話を智紀にしだした。

 話によれば、彼女が転校してきたのは2週間前。色白で物静か、上品を絵に描いたような感じであった。

 転校初日に席の離れた鈿女に声を掛けて来たらしい。


「初めまして荒井さん、私、人見知りするんだけど貴女とは友達になれそうな気がするの」


「そーか、嬉しいこと言ってくれるじゃん。尾花さんだっけ?幾らでも友達になってあげるよ」


「ありがとう。私のことは環妃って読んでくれたら嬉しいわ」


「じゃあ、私のことは鈿女でいいよ。環妃って可愛い名前だね」


 まったく警戒しない鈿女に智紀は、本当にそちらの力があるのか不安になった。

 最初こそ、鈿女は気がつかなかったが数日の間に彼女の雰囲気があまりにも異なる事に気が付いた。


「ねえ、鈿女。あなた尾花さんと仲いいよね。尾花さんてどんな人」


「どんな人かー。まあ一言で言えば、ザお嬢様!って感じかな」


「やっぱりあんたに聞いたのが間違いだったわ」


「そんなんだったら、自分から仲良くなればいいじゃんか」


「無理無理、私達なんて尾花さんはきっと相手にしてくれないわよ」


 鈿女は不思議に思った。確かに気位の高そうな、気品のある雰囲気が環妃からは感じられたが、そんなに話にくいという感じはしなかったのだ。

 そして、その放課後は雨が降っていた。

 傘を持って来たとはいえ自転車通学の鈿女は昇降口で、参ったなと空を見上げると環妃が声を掛けて来た。


「鈿女さん、どうしたの?帰らないの」


「あー環妃さん。いやーこの雨だから自転車で帰るのが面倒だなって考えててさ」


「ああ雨ね…そうね、帰るのは大変ね」


 それは無味乾燥というか、同情のはずが何の感情も感じられなかった。


「じゃあ、ご機嫌よう」


 そう言うと環妃は、雨が降る中を傘もささずに歩き出した。


「えっ、ちょっと、尾花さん?傘は?」


 鈿女が声を掛けても環妃は振り返る事も無く歩いていく。

 鈿女は何やってんのと言わんばかりに持っていた傘をさすと環妃に駆け寄った。


「環妃さん、傘が無いなら無いって言ってくれれば」


「あら、鈿女さんどうかしたの?」


 環妃は平然としていた。


「ずぶ濡れじゃん!傘貸すからさして帰りなよ」


「あら、ありがとう。私には雨に濡れるとかあまり関係無いのだけれど、あなたがそう言ってくれるから借りて帰るわ」


「何言ってるの?とにかく、はい。風邪引かないようにねー」


 鈿女は、傘を手渡し自分が濡れないようにダッシュで昇降口に向かった。

 昇降口に戻った鈿女は振り返り、環妃の方を見た。環妃は鈿女が渡した傘をさして歩いていたが、鈿女はその彼女の後ろ姿を見た時に不思議な感覚になった。


「彼女?人じゃない…?」






「なあ、鈿女。今の話じゃ、その転校生が人じゃないみたいって分からないんだが」


「えー、どーして。だって何か変じゃない?」


「そうか?ただのクールな人ってのは伝わったけどな」


「もう智兄、私の事バカにしてるでしょー。智兄も尾花さんを見たら分かるから、1回学校来てよ」


「お前の学校は女子校だろ。部外者の男がそうそう入れないだろう」


 鈿女はブスッとした顔で不貞腐れていた。智紀は鈿女の話を流した訳では無かった。鈿女の感覚は間違いないだろうがそれが何かが伝わらなかったので、今はあれこれ考えない方が良いと思ったのだ。


「まあ、もし今後何かあったら言ってくれ。力になれる時はなってやるから」


 鈿女は笑顔になった。


「やっぱ智兄、なんだかんだ私の事、心配してくれてるんだっ」


 智紀は、鈿女のこの前向きさはどうにもならないと思ったので「はいはい」と珈琲に口をつけながら言った。

 そうして壁の時計を見ると18時を回っていた。


「鈿女、ほら18時だ。和希義姉さんも心配するし、俺も仕事が残ってるか今日は帰れ」


「本当だ。帰って見たいテレビがあったんだ!じゃあ智兄、また来るね」


 鈿女は鞄を手に取り、玄関にダッシュで向かって、バタバタと扉を開けた。


「鈿女、さっきの話。その転校生に何かあったら、自分でどうこうせずに相談に来いよ。そして、それ以外では来なくていいからな」


「もー分かってるよー。でも何にも無くても来るからねー。じゃあねー」


 そう言って鈿女は玄関の扉をバタンと閉めた。


「嵐のように来て嵐のように去って行ったな。また来るのか、あれが」


 智紀は大きな溜め息をして、やりかけの仕事をする為に仕事部屋に向かった。

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