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九尾①

 社務所にいた都は智紀と鈿女が通う高校の制服を着た見知らぬ女性が本殿に入るのを見かけた。

 というのも今朝、鈿女が慌てて電話する姿を見ていた清音に言われていたのだ。


「都さん、今日か明日に智紀が来るから来たら私に言いなさい」


「分かりました、お義母さま」


 そうして社務所から本殿が見える窓の前に陣取り、大半の時間をそこで過ごし智紀が来るのを待っていた。


 清音は昨日、智紀が調べ物をしていた書庫で智紀が見ていた幾つかの文献を見返して、清音も環妃の正体を察知していた。

 相手は九尾。それは物の怪というよりもむしろ神に近い存在の妖怪だった。

 妖狐という狐が化けた妖怪が、更に数十、数百年を経て九尾になると言われている。

 人に憑くことも、今回の様に自らが化ける事も容易く出来てしまう。


「やはり私の存在について理解はしていたようね」


「先に気が付いたのは智紀の方ですけどね」


「貴女の方が更に強い力を持っているというのに、彼の方が先に気が付いたとは」


「ええ、うちの息子や孫は感が良くてね。まあ私が耄碌したのかもしれませんけど」


 清音は非常に穏やかな態度といって良かった。智紀は九尾がこれ以上いろいろな事に影響を及ぼさないようにと考えていたのだが、清音の態度を見て、環妃の言うように本質は別のところにあるのでは無いかと考え始めていた。


「もう目的は果たせたのかしら」


「そうね、後は鈿女さんに現実を教えてあげるくらいかしら」


「鈿女にですか」


「ええ私がここに来た理由のひとつが鈿女さんなのだから」


 鈿女に何の関係があるのか、清音と智紀はその真意を掴めなかった。


「何故そこまで鈿女に拘るんだ。あいつは確かに霊的な力はあるが、そこまで引き込む理由はなんだ?まさか憑依しようと…」


 智紀は論外な質問を九尾に投げかけた。憑依などが目的であれば、既に憑依していたであろう事は分かっていたのだ。


「そうね、鈿女さんに憑依すれば私の力は最早だれも抑えられないかも知れないわね。でも安心なさい、安い物の怪たちならそんな浅はかな考えを持つかもしれないけれど、私は色々な世界と付き合いが長いもので、そんな事には全然興味が無いの」


「ならばなぜ、鈿女に…」


「安心なさい、もう来たわ」


 環妃がそう言うと智紀と清音は、開けられたままの本殿の扉の外を見た。

 そこには肩で息をして、呼吸を整えながらこちらを見据える鈿女の姿があった。


「智兄のうそつきーーー。私だけ除け者にしようとしただろーー」


 鈿女が大声で叫びながら本殿に入って来た。智紀は緊張感のない鈿女の言葉に、今まで張り詰めていた感覚が少し解かれるのを感じた。


「いや、除け者にしようとした訳では無いんだ。お前の安全を考えてたんだ」


「それは嬉しいけどさ、元々環妃さんは私の前に現れたんだから、私は環妃さんの事を知る権利があるよ!」


「それはそうだが…」


「やっぱり鈿女さんには、私が現れた理由を話すべきだったって事よ」


 智紀は返す言葉が無かった。今回の事は九尾自身が物の怪の形そのものであり、その九尾が誰かに憑くことなくここに居ると言うことは、それ自体に理由があるという事であった。



「さて、何から話しましょうかね」


 九尾は3人それぞれに目線を送り、何でも聞いて構わないという顔をした。

 口を開いたのは鈿女だった。


「どうして羽鳥先生を辞めさせてしまったの…」


 多くの生徒に好かれていた先生を貶めたのは何故か、鈿女は一度それに近い話はしたが本当の理由を聞いていなかった。


「そうね、私は九尾。今まで多くの男を妖て来たわ。まあ今回は小粒だったけれどね」


「やはり、それが本心なのか!」


 智紀は今まで聞いてきた九尾との会話に偽りを感じ、感情をあらわに九尾に聞いた。


「冗談よ。それなら彼らは今頃わたしが憑き殺しているわよ」


「じゃあ、何が…」


 智紀は遊んでいるかのような九尾の態度に少し苛ついていた。


「仕方ないわね、良く聞きなさい。私が貶めたあの2人には共通点があった。それは、あの学校の生徒があの2人に喰い物にされていたのよ」


 3人は言葉を失った。2人を喰い物にしたと言っていい九尾が正反対の事を言っていた。


「しかし何故それが分かった。そして何故貶めに来たんだ」


 智紀は疑問を九尾に投げかける。


「その原因が鈿女さん。貴女があの学校に入学した事で、今まで凌辱されて来た人達の感情が鈿女さんの霊力を通して私に届いたのよ」


「そんな…羽鳥先生が」


「ええ残念ながら。現に私の誘いにいとも簡単に乗ったわ」


「しかし、それは貴女自身の能力によってじゃないのか」


「確かに私の力を使えばどんな男でも堕ちていくでしょうね。ただ私は今回、妲己や華陽の時のような力は使ってないわ。それに貴方達の社会に於いて、教師が生徒と性行為などとは許されない社会通念なのでしょう」


「それは確かにそうだが」


「あの男は当たり前のように私を抱いたぞ。そして、何人もの生徒と関係にあった事を自慢するかのように話してもいたわね」


 鈿女は恥ずかしい話に少し目線を逸らしていたが、羽鳥がそんな事をしていた事がショックだった。


「あの教師に狙われ、関係を持った子たちはそのあと脅され誰にも言えずにいた。中には拒否をしても何度も手にかけられた子もいたわ。安部もそうね。自分の容姿の良さを手段に犯された子もいるのよ」


「しかし何故その2人を…」


「あら、私たち物の怪は人に害を成す存在としか思ってないのかしら」


 九尾の話を聞いて、今まで黙って聞いていた清音が口を開いた。


「なるほど、今回貴女がこちらに来たのはその役目で来たのね。瑞獣としての」


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