プロローグ
現代奇談葵章に続いての第二弾です。
前の作品を読まなくても大丈夫ですが、読んで頂くとより一層楽しめるかもしれません(謙虚に宣伝)
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーーーン
。
何度も鳴らされる呼び鈴に智紀は辟易していた。
「はいはい、どなたですか?」
仕事を中断して玄関の扉を開ける。
「やっほーー、智兄おひさーー」
軽いノリで挨拶する女子高生が一人。
「どなたですか?女子高生に知り合いはいないんで」
智紀は関わり合いになると冤罪事件にでも巻き込まれるんじゃ無いかと思い扉を閉めようとした。
「ちょっと智兄!あたしだって、鈿女。うずめだよー」
「えっ、鈿女か?知らぬ間に高校生になってたのか」
「そうよ、どう?少しはいい女になったかしら?」
智紀は取り合う気にもなれず「なったなった」と鈿女をあしらった。
「ところで何でお前、家を知ってるんだ?和希義姉さんには教えてなかったはずだけど」
「都おばさんが教えてくれたのよ。高校から近いから寄ってみたらって」
智紀はやっぱり都義姉さんは苦手だと感じた。
「で、何の用だ?」
「別に用なんてないよ。智兄がどんな仕事してるか見に来たんだー」
「ええいっ、仕事の邪魔だ!帰れ」
「そうですか、じゃあ清音おばあちゃんに智兄が邪気にしたって言うからね」
智紀は母の名前を出されるとぐうの音も出なかった。
「分かったよ。お茶淹れるから飲んだら帰れよ」
「やったね!さんきゅう智兄」
突如智紀の家に現れたのは、次兄の長女の鈿女だった。小さい頃は時々は遊んでやった記憶はあるが、智紀が家を出てからは会う事が殆どなかった。
「もうコーヒーは飲めるのか?」
「智兄、私もう高校生だよ!飲めるに決まってるじゃん」
小さい頃も明るい性格だったと記憶しているが、それがそのまま大人になった感じだ。
「しかし鈿女、お前その名前でいじめられたりしてないか?」
鈿女という名前をつけたのは和希義姉さんだった。特に反対があった訳ではなかったが智紀は、もう少し普通にしてあげればと鈿女が産まれた時には思ったものだった。
「えー全然だよ。まず忘れられないからインパクト大だよね」
それはお前の性格あってだなと智紀は思った。
「それに、あの天照大御神を岩戸から出した…笑の神様だっけ?」
「あながち間違いじゃないが、芸事の神様だな」
「まあどっちでもいいんだけど、そんな人から戴いた名前だからね」
「ちゃんと名前の由来については勉強したみたいだな」
「私だって、神社の娘よ。それぐらい勉強するよー」
「そういえば、学校が近くって言ってたけど、どこに通ってるんだ?」
「平成女子大の付属だよ」
「全然近くないよな。池尻あたりじゃなかったか、そこ?」
「自転車通学の私にとっては智兄の家は、もはや近い部類だね」
「お前はそう思いそうだが、都義姉さんがそう思ってるのがなあ」
「都叔母さんはどっか抜けてるからねー」
「お前は叔母さんに対して、そういう事を言うんじゃない」
智紀はゲンコツを軽く鈿女にする。鈿女は不満そうな顔をした。
「だって本当の事じゃんか」
「それはそうだか、お前が言っていいもんじゃない」
「ところで智兄って何の仕事してるんだっけ。なんかマニアックな事してそうだよね」
「鈿女、お前ね叔父さんに対しても失礼じゃないか」
「えー、そんなつもりじゃないよ。智兄は普通の人と違うって言いたいんだよ」
「それもほぼ失礼だな。お前、友達に嫌われたりするだろう」
「うーんと、好き嫌いはハッキリしてるかな。友達になれる子となれない子」
「それは、お前が選んでるんじゃなくて、友達の方が選んでるんじゃないか?」
「えー、そうなの!」
智紀は天井を見上げて、この天然さはと鈿女の将来を嘆いた。
「そういえば友達って言えば、この前転校してきた子がね。変なんだよ」
「多分お前に勝る変な人は、そうそう居ないと思うけどな」
「智兄、乙女に向かって失礼だぞ!でもね、本当に変なの。すごい美人なんだけど、生きて無いっていうか、人じゃないみたいなんだよね」
智紀は一瞬動きを止めた。そして思い出した。鈿女は小さい頃から清音が認めるほどに力があるのだった。
「鈿女、その子の話すこし聞かせてくれるか?」