e.07 死神さんとパートナー
お気に入り登録が10件達しました。ありがとうございます!
そして申し訳ないのですが、今後おそらく更新ペースが落ちると思います。
いや、今までのペースが以上だったんです…俺は悪くない!
*Side アイシャ*
それは突然だった。
ミレニアさんが槍を持ち、首元に振り下ろされた鎌を防いだ。
鎌を振り下ろした人、死神が見えたのと、ミレニアさんが槍で鎌を防いだのは同じタイミングだった。
ミレニアさんは、この人がいるのを知っていたのだろうか…?
死神も、それには驚いたらしい。驚愕している。
「あんたが死神ね」
と、ミレニアさんが言い放つ。それと同時に、服装が変わった。
「え?え!?」
今までの魔法使いっぽい服装ではなく、少し軽装で露出の強い、機動性を重視した服装。
「あんた、PKでしょ?どんな目的だか知らないけど、私を狙うとはいい度胸じゃない」
確かにミレニアさんは強い。多くのプレイヤーが苦戦している森を、殆ど一人で進めるのだから。
火力1700を見た時は、もしかして違法かとも思ったぐらいだ。
「やる気?あんたじゃ、私には勝てないわよ。さっきので分かるでしょ?」
槍を死神へ向けて宣言するが、死神も構えを解くことはない。
先に動いたのは、死神の方だった。
後ろに下がりながら、ナイフをミレニアさんへと投げる。しかし、あっさりと槍に防がれて砕け散る。
…砕け散る…?
「次はこっちの番。ファイアショット!」
ミレニアさんが使ったのは、初級の中では難易度の高いショット系の魔法。バレットが単発なのに対してショットは複数同時に撃つ散弾タイプ。
「くっ…」
死神はそれを避けようとするけど、全てを避けることは出来ずに三発ほど被弾する。それだけでも、かなり体力が削られている。
「陰縫い」
ステップで距離を取った死神は、それ以上動くことは出来なくなった。
陰縫い…名前からして、陰を縫いとめて動きを止める魔法だろうか。そんな魔法、聞いたことがないけど。
「別にあんたをPKするのは簡単なんだけどね。でも、どうやら冒険者ギルドに連れて行けば懸賞金がもらえるらしいのよ。だから、一緒に来てもらうわよ」
「…好きにしろ」
男性の声で、死神は抵抗意思がないことを伝えてきた。
運がなかったとしか言えない。ミレニアさんを相手にした時点で、勝ち目はなかったんだ。
「ちなみにアイシャ、ロープとか持ってたりしない?」
「うぇ!?も、持ってますけど…」
突然話しかけられて吃驚した。アレを見た後だから、尚更である。
「よかったら貸してくれないかな?後でちゃんと返すから」
「は、はい」
アイテムからロープを取り出して、ミレニアさんに渡す。
元々は別のクエストで使う予定だったものだけど、私一人では無理だったので諦めてロープはそのまま放置していた。
「さて、じゃあ帰りましょうか。あ、ちなみにアイシャの方はクエスト大丈夫?」
「えーっと、一応終わってます」
私の受けてたクエストは、ウェアウルフの討伐クエスト。何度か私も戦闘に参加させてもらっているから、その時に終わっている。
…もしかしたら私、凄い人に会ってしまったかもしれない。
【フィールド:人間都市 商業都市ファラン】
*Side ミレニア*
死神を連れて戻ると、やはり注目を浴びた。
黒伊ローブに巨大な鎌。誰だって、見た瞬間に死神だと気付くだろう。
ちなみに、この死神はナムタルという名前のプレイヤーだ。何故PKをしていたのかは、聞いていないし聞くつもりもないから知らない。
私はお金が欲しいだけである。
「マスター、クエストアイテムの納品に来たよ」
「おう、あんたか…って、そいつは」
マスターも、私の連れてきた死神に驚いている。
「懸賞金がかかってるって聞いてね。で、受け取ってくれるの?あとお金はくれるの?」
「そいつは受け取ろう。あと、懸賞金もやる」
「で、こっちが採取してきた薬草ね」
「お前は何者なんだよ…」
そんな目で見るなっての…私だって好きでやってるんじゃない。
「冒険者だよ。ちょっと特殊なね」
お金を受け取って、依頼達成の報酬も受け取る。
クエスト、薬草採取を達成しました。
300F受け取りました
まあ、最初ならこんなもんでしょ。ちなみにこの値段じゃ、武器も防具も最低レベルのものしか買えない。
アイシャも、同じくクエスト報酬を受け取っていた。
さて、もうここには用はない。あとは街中を視察してみるか…ある程度情報が集まらないと、リーグ様にも報告できないし。
「それじゃアイシャ、私はもう行くよ。これからやることもあるし」
「え?もう行っちゃうんですか?」
「まあね。ま、きっとまた会えるよ。そのうちね」
おそらくいつかは、再び戦うことになるさ。共闘ではなく、敵対でね。
外が騒がしい…まあ目立つことしたのは自覚してるし、しょうがないけど。ここは素直に外に出ないでおこう。
「死神、いや、ナムタル。よかったら今度は、敵じゃなくて味方としてあんたと会えることを祈るよ」
「ミレニアと言ったか。面白いやつだな。俺と味方になりたいなんて奴、お前ぐらいだろうよ」
「それはどうも。あんたも、早く出てきなさいよ。その実力、放っておくのは勿体ないわ」
別れの挨拶をして、ギルドの裏口から外へ出る。さすがにこっちから出れば、運よく見つからないか、逃げられるだろう。
…と思ったけど甘かった。
「あ!見つけました!」
「いたぞ!あの人だ!」
「可愛い!ねえ、私のパーティ入らない!?」
…囲まれてしまいましたよ。
その後、何とかその場を凌いで私は世界樹へと向かった。
…まあ、力技で逃げてきたんだけどね。
【フィールド:精霊都市 世界樹】
「はぁ…疲れたぁ」
「まったく、人間というのは…」
「本当に、人間なんていなくなっちゃえばいいのに」
二人が物騒なことを言っているが、それについては私も思っていた。少しだけね。
ナムタルは、別にそこまで腕の立つプレイヤーではない。気配遮断や魔力隠蔽のように自分の存在を消すスキルこそ持っているが、それだって看破できないものではないのだから。
第六感は両方に対応できるし、気配察知は気配遮断を中和、魔力探知は魔力隠蔽を中和できる。術者より高レベルなスキルを持ってれば、その効果は無効化されるのだから。
なので、別にあの人は勝てない相手ではない。それに、ステータスのSENが高ければ問題なく見抜ける。
「まずはリーグ様に報告に行かないとね。案内してくれる?」
「勿論」
そういえば、世界樹の主精霊はまだ終わってないんだよね。
あと四人、風と水と暗と光の四属性の主精霊にも会えば達成となる。
そのうち会えるかな。まあ、急ぎではないしいいけど。
【特殊フィールド:世界樹 樹精霊の主リーグの部屋】
「お疲れ様」
入った瞬間、リーグ様から労い?の言葉を掛けられる。
「これ、報酬。ありがとう」
ピュアスピリットを受け取りました。
経験値を7000受け取りました。
リーグの好感度が10上昇しました。
クエスト:リーグの頼みごと を受注可能になりました。
「この情報でよかったのでしょうか?」
「問題ない。敵を知ることは、戦場において重要なことだから。どんな情報でも力になる」
リーグ様はいい指揮官になりそうだな。戦争は武力だけでは制することはできない。知力による戦略と戦術は、それが力になるからね。
「リィナとキャンサーもありがとう」
そういえば、ここでリィナとキャンサーはお別れになるのかな。
まあ、精霊には精霊の役割があるし、天使には天使の役割があるからしょうがない。だったら何で精霊使役なんてスキルを作ったのかは謎だけど。
でもクエストが発生してるから、しばらくは一緒にいられるかな?
「ミレニア、お願いしたいことがある。聞いてくれるなら、話しかけて」
特殊フィールド:樹精霊の主リーグの部屋 への入室が許可されました。
どうやら、リィナ達の手を借りなくてもここに来れるようになったらしい。報酬としてはありがたい。
あんまり来る機会はなさそうだけど。
さて、どうせ暇だから早速クエストを受けるか。
「お願いしたいこととは?」
「ん。キャンサーのこと。しばらく面倒を見てあげてほしい」
…?キャンサーの面倒をみる…?
「ミレニアのこと、キャンサーならサポート出来ると思う。十二星座の精霊だから、実力も保証する」
「でも…キャンサーにも仕事があるのでは?」
「問題ない。十二星座は、元々仕事を持たない精霊。自由に動けるから」
「そうなんですか…じゃあ他の精霊も?」
「十二星座の十三人以外にも何人かいる。風と月と陽が多い」
キャンサーの方を見ると、笑っている。照れてる?
…そんな顔を少し紅めながら微笑まないでよ。こっちまで恥ずかしくなる。
「…キャンサーもレミリアに懐いてる」
「私は猫ですか。慕ってると言ったください」
「…慕われてるのでしょうか?私は」
「それは保障する。キャンサーは貴方をパートナーとして認めてるから、貴方がキャンサーをパートナーとして認めれば成立する」
パートナーね…ん?
パートナーって確か、このゲームのシステムの一つで『一心同体』のことだったな。
色々とメリットが付くことで有名だ。パートナーの得た経験値の一部がこちらに入ってきたり、連携が成功するとダメージにボーナスが発生したりするらしい。
スキルで〔一心同体〕が追加され、連携を取ることで強化されていく。一心同体が強くなると、お互いのスキルを使用できるようにまでなるとか。あと強力な連携スキルも出るらしい。
元々はPC同士で組むのが前提だけど、精霊とか天使とか悪魔とも組める設定になっている。まあ敵対しているハンターとランナーが組むなんてあり得ないだろうけど。
「今後の事を考えると、お互いに味方が多いほうがいい。人間と戦うには、少しでも戦力がほしいのは天使も精霊も一緒」
「確かに…連携すれば、人間を容易く迎撃できる」
「そう。だから、ミレニアにはそのかけ橋になってもらいたい。どう?」
なるほど…私はプレイヤーを的に回すことになるのは明白だし、他のランナー勢力である精霊と繋がりを持つのは私にとっては大きなメリットだ。
「分かりました」
正式にパートナー登録をしようと思っていた矢先である。
「ちょっと待ったー!」
突然の来訪者が現れた。