e.06 簡単なクエストと初共闘
無心で書いてると、いつの間にか4000字ぐらい行ってたりする。
そんな書いたつもりはないのにいつの間にか書いてるんです。不思議。
「黒いローブに巨大な鎌…死神か」
「はい。そう呼ばれ、恐れられています。森に薬草を取りに行った人が、いきなり後ろから襲われたとも聞いています」
成程…おそらく、PKだ。このゲームは、他のVRMMOと同じようにセーフエリアである町や村の中以外、フリーフィールドではPC同士の攻撃が可能だ。
それを防ぐために、敵と認識していなければ攻撃がヒットしてもダメージも衝撃も入らないようになっている。
逆に…敵だと認識すれば、ダメージを与えられるわけだ。それを利用すれば、容易くPKができる。
まあ…私には関係のない話だけどね。
「そうなんですね…。あ、情報売ってもらってもいいですか?」
「久しぶりのお客さんですね。どの情報をお求めですか?」
「この街についての情報をできるだけたくさん。まだ来たばかりだから分からなくて」
「この街についてですね」
情報が大量に追加される。現実でこんな一気に情報を覚えたら、おそらく卒倒する。
まあ、一気にこんな情報量を覚えるなんて完全記憶と完全視察がないと無理だろうけど。
「以上が私の扱っている情報となります」
「ありがとう。助かりました」
「料金は、700Fです」
700Fぴったり支払う。Fはこのゲームの通貨の単位で、フォムの略である。
面白い単位だけど、ありきたりなものとは違うあたり、このゲームの面白さだよね。
「ありがとうございました」
そしてシステムギルドを後にする。
次は冒険者ギルドだ。
さて、それまでに情報を纏めておこう。
まず、ここは総人口32万人ほどの都市。毎年その20倍の人がここに訪れるという商業都市に相応しい賑わいのある場所だ。
ここを拠点とするプレイヤーが多いためか、施設が色々と充実している。料金とかは他の町と比べないとわからないね。
周辺はそこまで難易度が高くないフィールドで、さすがは始りの町といったところか。海も隣接していて、特産物は魚介類と。
この周辺じゃあまりいい素材はとれないけど、様々な町や村と交易しているから、色々な品物が集まってきてはいるね。とはいえ、本場に行けば質や量はここと比べ物にならないだろうけど。
まあ、こんなところか。次は、冒険者ギルドに入る。
あ、ちなみに精霊の二人は服の中に隠れてもらってる。たまにくすぐったい。
「失礼します」
「おう、いらっしゃい。ん?見ない顔だな」
「今日この街に来たんですよ」
「そうかい。冒険者か?」
「ええ。まだ駆け出しですけど」
冒険者ギルドの受付の人は、体格のいいおっちゃんと言ったところか。
なんか、斧とか振りまわしながら戦う姿が想像できる。
「そうかい。で、何の用だい?」
「簡単な採取系のクエストはありませんか?」
今回は、ついでだからクエストを受けてみようと思う。
今までのとは違うタイプの奴をね。こういうのも一応やっておかないと、データ集めにならないし。
「なら、こういうのはどうだい?」
クエスト、薬草採取
すごく簡単なクエストだ。薬草を採ってきて、納品するだけの。
これなら、腕試しにはちょうどいいだろう。場所は南方向の森か。あの噂を聞いた後だけど、運よく遭遇するとは限らないし大丈夫だろう。
「じゃ、このクエストを受けます」
クエスト、薬草採取を受注しました。
「そういえば、最近死神と呼ばれる人が出てくるって話を聞いたのですが」
「ああ…どうやら魔物ではないらしい。あいつは、生半可な覚悟で相手できるやつじゃねぇ。あんたも気をつけな」
「…わかりました」
まあ、会っても近づきはしない。たとえ不意打ちを受けても、死なない自信はある。
…多分、だけど。
「それでは、行ってきます」
「ああ。気ぃつけな」
冒険者ギルドを出る。しかし、やはりプレイヤーが多いな。ほとんどは生産職みたいだけど。
パーティやギルドのメンバーを募集している人もいるな。賑わってる。
「そこの貴方、よかったらパーティに入りませんか?」
薬屋にいく途中、男性プレイヤーの人に誘われた。
…これってナンパみたいなもんだよね。
「私はソロプレイヤーですので。他を当たってください」
ソロプレイヤーってのは嘘だ。現に私は、精霊の二人とパーティを組んでいる。
でも、私が天使だということ、そして精霊がいることがばれたらどうなるか…語るまでもない。私はもうここにはこれない。
それはさすがに不便だ。しかも、プレイヤー全員に終われる立場になるし。
「それは失礼。ご武運を」
潔い人で助かった。
…ま、何かしようとしても私に勝てる人はいないと思うけどね。
「あ…あの…」
…と思っていた矢先に、別の人が話しかけてくる。今度は女の子か…私と同じぐらいだな。
「どうかしましたか?」
「これから森に行くんですけど…一人だと心細くって…一緒に来てくれませんか?」
…心細いって…まあ死神の噂も出てるから無理はないか。まだ若いみたいだし。
私は他にも色々やってるから慣れてるけど、おそらくこの子はVRMMO初心者だ。
ふむ、パーティを組むとは言っていないし、ついていくだけなら構わないか。
「構いませんよ。ただし、私はソロなのでパーティは組みませんが」
「あ、ありがとうございます!」
そして、少女を連れて薬屋に入る。念の為、回復アイテムがほしいからね。
HORの回復アイテムは、種類が結構多い。
カード系の回復アイテムは、何の動作もなしに使用出来て回復量はかなり低め。値段は安いけど消耗品である。
ポーション系の回復アイテムは、『飲む』動作が必要で回復量はそこそこ。値段はカードより少し高めで、ポーションの入っていた瓶は手元に残る。二回目以降は同じ瓶を使うことで値段を抑えられる。
グラス系の回復アイテムは、範囲回復ができて動作も短けど回復量は低い。ただし、使用方法を間違えると敵まで回復してしまう。値段も高い。
メール系は自分には使えないが、味方一人を大きく回復できる。回復量は高めだけど、値段がかかるし自分には使えないし消耗品だ。しかも同じパーティかギルドの人にしか使えない。
回復アイテムは大体こんなものだ。一長一短、状況に応じて、どれが有効かは変わる。
アイテムにもランク…等級があって、高いほど回復量も増える。腕のいい人が作れば、それだけいいアイテムになるわけだ。武器防具も、ステータスや特殊効果が変わるらしい。
「ライフカードとマジックカード…等級Ⅰを両方三つかな」
一番安いやつを買っておく。合計90Fと。
一枚あたり15Fだから安いだろう。ただ、もうお金があんまりない。チートを貰ったのはいいんだけど、お金については自分で稼げってことらしい。
まあ、別に構わないけど。それもデータ集めの一環だもんね。
「そうだ、貴方の名前は?」
「私はアイシャです。弓使いをやってます」
「アイシャね。私はミレニア。火魔術師をやってるの。よろしくね」
…嘘です。私は天使です。
言える訳ないでしょ?ね?
【フィールド:ライナーフォレスト】
ライナーフォレストは、ファランから南方向に展開している。難易度は周辺の中では二番目に高い。北方向の山道は、ここよりさらに難易度が上がるらしい。ちなみに一番下が東の海岸。つぎに西の平原。
たまに思うのだけど、どうして少し離れるだけで地形に差が出るのだろうね、こういうゲームって。
「ファイアバレット」
ここに出てくる魔物は、狼のウェアウルフ、兎のファイラビット、熊のバンダーベアの三種類。レアな魔物で、ウィスプという魔物が出てくることもある。ただし結構強いので、レベル8以下の人は手を出してはいけない。
狼と熊はアクティブだけど、ラビットとウィスプはノンアクティブ。つまりこちらか攻撃しない限りは攻撃してこない中立の魔物だ。なので、基本的に無視しても問題ない。
で、私は今出てきた熊を頭に一発のファイアバレットを撃ち込み倒していた。ダメージは…1700。この熊の体力は760と高めなのだけど、私の敵ではない。だってチートだし。
「す、すごい…」
「今のはクリティカルの効果もあるから。生物の急所である頭と心臓には、クリティカル判定があるのでそこを狙えばこんなものです」
実際、頭を狙わなかったらダメージは半分以下だ。倒せるかは怪しい。
「アイシャは弓使いだし、急所を的確にい抜けばダメージはさらに高くなるでしょ。前衛の人と一緒にいれば、安全だと思うよ」
「私初心者だから、迷惑ばかりかけてしまって…以前所属していたパーティの人達も、動きにくいって…」
動きにくい…それは違うだろう。実際、彼女の狙いは結構正確だ。初心者とは思えないほどよく攻撃が当たる。
大体、パーティを組んでいるのであれば、合わせてもらうだけではなくて自分も合わせなくてどうするというのか。それで動きにくいとか言うのであれば、それは自分の責任だ。
「そんなの気にしなくていいのに。私はソロでやる時よりも、楽で助かってるよ」
「でも…私、ミレニアさんに当ててしまって…」
確かに、アイシャの放った矢は一度、私の右肩に刺さった。というか今も刺さってる。
でも、ダメージも衝撃もないのだから問題はない。多少動きにくくなるだけだ。
「自分を責めないでよ。誰だって最初はそんなもんだよ。私だって、別のゲームで他の人に魔法当てて怒られたし、動きが合わなくて後衛の邪魔しちゃったこともあるんだから。それに、自分が合わせるだけ
じゃなくて相手に合わせてもらうのが連携では大切だからね」
「そう…なんですかね」
うーん、この子はネガティブ思考なんだな。
「と、この話は一回中止ね」
目的の薬草がある場所まで来た。この辺は、薬草やお花が群生している場所だ。
集める数は、五個。そんなに大変なクエストではない。
採取用のナイフを使って、薬草を手に入れる。触れるだけで手に入るあたし、やはりゲームだ。
で、世界樹の枝で作った槍を持って首を守る。まさか、本当に会えるなんてね。運がいいのか悪いのか。
「!」
防がれたことに驚愕し、私から距離を取る死神。
「あんたが死神か」
「え?え!?」
アイシャは戸惑っているようだ。そりゃ、いきなり死神が現れて、それを私が防いで、今対峙しているのだから無理もない。
「あんた、PKでしょ?どんな目的かは知らないけど、私を狙うとはいい度胸じゃない」
「…」
無言で鎌を構える。こいつは…狩る者だな。懐にはナイフ、短剣を持っている。
「やる気?あんたじゃ、私には勝てないわよ。さっきので分かるでしょ?」
こいつは、気配を遮断するタイプのスキルを所持している。ご丁寧に、魔力まで遮断するほどだ。
だけど、私のSENステータスはそんなスキルも十分カバーするぐらい高い。他のステータスだって、ATK以外は全て規格外なのだから。
しかし、やはり鎌を下げることはない。しょうがない、やるしかないか。
「(ミレニア…こいつ、キャンサーを襲った奴だよ)」
対峙していると、リィナが小声で囁いてくる。しかも聞き捨てならん情報を。
「(キャンサーがさっきから震えてる。敵討、お願い)」
「(それを言われたら、ますますこいつに腹が立つわ。いいわ、必ず私が討つ)」
死神、Player Killer(綴りあってるかな?)の登場ですね。
フラグは回収しないとね。