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小人の靴屋(1)

 俺は何とか正体不明の不法侵入者に会いたいと望んでいた。会うのが駄目なら、せめてコンタクトを取りたいと思った。何度かメモ書きを残しておいた。見たという返事の代わりにか、それはゴミ入れに入っていたが、相手からの返信はなかった。ここまでしてもらったのだからと、掃除代金として多少封筒に入れて置いたりした。しかし、当然のように封筒には手は付けられなかった。善意から来てるとしても、ここまで来ると薄気味悪くなる。止めてくれるように頼んだが、それでも状況に変化が無かった。

 どうやら相手は俺と係わる気がまるきり無い、というのがわかった。無理強いしても無駄なんだろうと、半分以上諦めた。

 で、その後すぐにこの状況というのは……。

 俺は困惑しながら、目の前のソファの上で、実に安らかな顔で眠っているの人物を見下ろしていた。


 今日、仕事を始める前に必要な書類を忘れた事に気付いた。要るのは午後からだからと、昼休みに取りに戻った。

 扉を開けてすぐ、見た事の無い腐ったスニーカーが目に入った時、不法侵入者が来ているのだとわかった。

 なるべく音をたてないように静かに扉を閉めて、そーっと中へ入って行った。

 ――妙に静かだ。部屋の中できっと何かをしているだろうと思ったのに、何の音もしない。

 リビングに通じるドアを細く開けて、中を伺った。自分の家なのに、泥棒に入っているみたいで物凄くドキドキする。

 動いている物の気配が無いので、不思議に思いながらリビングに足を踏み入れると……いた! ソファの上で誰かが横になっている! 状況からすると、どうやら会いたいと望んでいた不法侵入者と思って間違いないだろう。顔を確認するために近づいて、ソファにいる人物を見て、俺は困惑した。――確かに彼なら鍵を入手できるが……。

 ソファで眠っていたのは男性で、俺の知っている人物――俺がよく寄るコンビニの店員だった。落とした小銭を拾ってくれた彼だった。鍵はその時に本当は一緒に拾っていたか、あるいはその後で拾ったか。眠っている彼が鍵を握りしめているから、そのどちらかだろう。

 拾い主がわかって、俺はホッとした。今まで何も取らなかったからとか、掃除をしてくれているからとじゃなく、拾ったのが彼だとわかって安心した。彼の事を信用できるというほど知っているというわけではなかったが(俺は彼の名前すら覚えていない)、店での誠実な対応知っているから安心できた。

 そして俺が家にいる時に現れない理由もわかった。俺は仕事に行く時、必ずコンビニの前を通るからだ。店の前を通らない日は、仕事が休みかどこか他へ出掛けている事になるからだ。仕事に行けば終業まで帰ってくることはほとんどないが、それ以外だといつ帰ってくるかわらないから鉢合わせる可能性がある。だからここで待ち伏せしていても会えなかったのだ。

 疑問がいくつか解決して、逆に別の疑問が増えた。

 ほぼ毎日顔を合わせているのに、なぜ彼はその事について何も言わなかったのか? なぜここで寝ているのか? 部屋の掃除やゴミ出し、洗い物をしてくれるのはなぜか?

 今すぐ起こして、理由を訊けばすぐに解決する。でも、あまりにも幸せそうな寝顔を見ていると、起こすのが忍びなくなってくる。それに昼休みもそろそろ終わる時間だ。

 俺は取り敢えず必要な書類だけ手に取ると、静かに部屋を出た。不法侵入者の正体がわかったのだから、詳しい理由は後でも訊けるだろうと思ったのだ。


 仕事帰りにいつものようにコンビニに寄った。

「いらっしゃいませ」

 いつもと変わりなく彼が声を掛けてくる。俺はいつものように雑誌コーナーへ行くと、適当な雑誌を手に取り読んでるふりをしてレジの様子を伺った。

 彼はいつもと変わりなく、テキパキと客を捌いていた。俺が今日彼の秘密を知った事に気付いてないらしい。

 今日一日仕事をしながら考えていた。

 彼に家で眠っていた事を訊くのは難しい事じゃない。ただその事を言ったが最後、彼は鍵を返して理由を言わないで俺の目の前から消えてしまうような気がする。俺が鍵を探しているのを知っていて、それを隠していた理由も、部屋の掃除をしてくれた理由もわからなくなってしまう。

 俺が立ち読みするふりしながらそんな事を考えていると、バックヤードから一人店員が出てきて、彼がもう一人の店員に声を掛けて奥へ引っ込んだ。今日は早く上がるらしく、交代の時間らしい。

 俺はしばらく時間をつぶして彼が帰ったと思われる時間になってから、雑誌と弁当を持ってレジは向かった。

「いらっしゃいませ」

 店員は雑誌のバーコードを読み込みながら挨拶した。俺は何気なさを装って、

「この前ここの店の前で落とし物したんだけど、届いてるかな?」

「どんなものでしょうか?」

「鍵なんだけど。一緒に落とした小銭は返って来たんだけど、鍵がまだでさあ。届いてない?」

「少々お待ち下さい」

 店員はレジの下を調べて、

「届いていませんね。お急ぎですか?」

「いや、そうじゃないけれど。同じとこに住んでる隣の部屋の人が、今日の昼にもう一人の店員さんの方を近くで見たって言ってから、てっきり鍵が見つかって家を訪ねて来たのかと思ったんだけど」

「すみません。明日出勤してきたら訊いておきます」

 その店員は恐縮して言った。俺はダメモトで、

「いや、今から訪ねて行ってみたいんだけど、住所わかる?」

「すみません、個人情報になるのでお教えできないんです。それにあいつ多分次のバイト先に言ってると思いますし……」

「掛け持ちしてるの?」

 店員はしまったという顔をした。俺が続きを促すように待っていると、

「ここだけの話にしておいてくださいね」

 念を押して、

「あいつ加藤って言うんですが、ここの他に三か所バイト掛け持ちしてるんですよ。アパートには寝るだけに帰っているって言ってました」

「三か所? すごいね」

「だからできれば邪魔してやってほしくないって言うか……」

 言いにくそうにそこまで言った時、もう一人の店員が、

「あれ、加藤さんアパートに帰れなくて友達のとこ泊まり歩いているって言ってましたよ」

「どういう事? 家出でもしてるの?」

「おい!」

「詳しくは知らないですけど、アパートを追い出されたらしいです。」

 反射的に訊いた俺に、先輩店員の制止より早くその店員はさらりと個人情報を漏らした。

「ダメだろう! そう言う事を第三者に言ったら!」

「そうなんですか? すみません、先輩が話していたのでいいのかと思って」

 悪びれるふうも無く言う後輩に、苦虫をかみつぶしたような顔で「次からは気をつけろよ」と先輩店員は注意した。

「訊いたこっちが悪かったんだから、あんまり強く叱らないでやってよ。じゃあ明日、その加藤君に確認しておいてもらえるかな?」

「はい、わかりました。すみません、お役に立てなくて」

 恐縮する先輩店員に挨拶をして、俺は店を後にした。

 どうやら彼(加藤というらしい)が、俺の部屋で寝ていた理由がわかった。アパートを追い出されて住むところが無かったからだ。同僚には友達の所を泊り歩いている事にしてあるらしい。なぜアパートを追い出されたかとか、掛け持ちでアルバイトしている理由とか、家族はどうしたのかとか、他にも疑問はあるけれどそれは彼のプライバシーになるのだろう。俺が踏み込んでいい話ではないと思う。

 俺に直接関係のある事は、部屋の掃除をした事だ。

 こっそりと部屋を利用しているのなら、部屋の掃除なんてしなければいい。そうすれば俺は気がつかなかった。わざわざ掃除をするから、俺が不法侵入者に気付いてしまったのだ。しかもその後コンタクトを取ろうとした俺を無視し続けた。コンタクトさえ取らなければわからないと思ったのだろうか?

「……本人に訊くしかないかな」

 明日になれば、加藤は俺が彼の事に気付いたという事を知るだろう。俺はなんとか直接会って話を訊きたいと思っているが、今まで無視し続けて来た彼は果たして話しをするチャンスをくれるだろうか? どうしたらいいだろう?

ミステリーと銘打ったのでそれっぽくしようとしてますが、書き方が難しいです。書いては消し、書いては消しの繰り返し、すでにくじけそうです。まだ始めの方なのに……。


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