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 ギルバートはごくりっと息を呑んだ――扉を開けたそこにある、血の池を目の前にして。

 そして視界の端に映る。妙に重かった扉の横手に倒れている、一人の男。

「まだ、息はあるようだ。とりあえず下に運ぶぞ」

 一瞬、止まっていた時が、ゲルハルトの声によって動き出した。ギルバートはその男を階段の下までそっと運び、促されるまま、半ば呆然とアレースはその扉に鍵をかけた。

「・・・ひどい傷」

 階段の下で待っていたリーヴはきゅっと眉根を寄せ、泣きそうな顔でつぶやいた。

「――ダメ、ね。ワタシの力じゃ助けるコトなんて出来ないワ」

 その男の傷を見て、アケミは言った。それもそのはず。男には無数の傷がつけられており、致命傷となったであろうそれは、肩を砕き、腕を半ば以上断ち切っていたのだ。

「どうした。何があったんだ?」

 命の炎が消えかかっているその男に、ゲルハルトは尋ねる。

「あいつが・・・化け物が、仲間を――

 オレ、は・・・オレだけが、逃げられた・・・んだ」

 荒い息のした、お子とはかすれた声を絞り出した。

「何か、伝えたい人はいるか?」

 ギルバートは耳元で元気付けるように、声をかけた。しかし、なぜか男の目に悲しみがはしり。

「だれも・・・いない。もう、だれも――」

 ゴホッ

 男はこみ上げてきた熱い血をのどに詰まらせ、咳とともに吐き出した。

「気をつけろ・・・。奴は、・・・まるで――そこに、居る。ことが当然のように――」

 命の炎が、ふっと揺らめいた。男の瞳が急速に力を失っていく。

「待ってっ、名前。あなたの名前は?!」

 あわててリーヴが男の手をぐっと握り、意識をつなぎとめるように叫ぶ。

 男はぎゅうっとてを握り返した。が、それもつかの間・・・何かがすり抜けていくのを彼女は感じた。

 くたんっ

 唐突に、彼女は理解する。

 もう、逝ってしまったのだと。

 男の手から、徐々に力が抜けていた。苦痛に彩られた眼も、今は光をなくし、宙を虚ろに眺めている。命をつかさどる赤い血だけが、力の抜けた肢体からゆっくりと流れ出していた。

「・・・・」

 アケミの口から流れたのは、死者への手向けの言葉。道先の光。地上を足掻く者たちへの慰め。

 ポンッ

 いつものようにおかれたギルバートの手の重みに、リーヴは彼の優しさを感じ――

 潤んだ瞳をそのままに、魔術師は前を見据えた。



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