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 戦いの最中は、いつも身のすくむ思いがする。

 得手ではないのだ、本当は。どちらかというと研究室にこもって研究しているほうが、性に合っているような気がするのだ。

 それに。

 魔法の使い手というのは、盾がいないと、十全に力を発揮できない。ということは、だ。必然的に、戦い、血を流している仲間を、後ろから見ていることとなる。

「皆さん、がんばって・・・!」

 両手を組み、唇を白くなるほどかみしめ、祈るようにリーヴラシェンはつぶやく。

「ホ~ラ、あんたがそんなに緊張してちゃ、ミンナがびっくりするよ。前はあたしらに任せておきなって」

 アケミが軽く、リーヴの肩を叩いた。その利き腕は腰から下げたモーニングスターに伸び、彼女もまた前へと進む。



「アレース、ぬかるんじゃねぇぞ」

 盾を構え、剣を背負うように前方のオーガに肉薄するギルバート。

 ズシャ

 剣はオーガの肌を浅く薙ぎ、黒い血がパッと飛び散る。

「気をつけろ、少々これは厄介だ」

 二体同時の特攻を受けるわけにはいかない、と、ゲルハルトも飛び込んでいく。

 バシュッ

 そのオーガを狙い、アレースがクロスボウを打ち放つ。

「みんなッ、しっかりネ!」

 場違いな明るい声。いつも余裕を失わないアケミは、口元に笑みをたたえたままモーニングスターをふるう。

 オーガがドスッと棍棒を振り下ろした。だが難なくギルバートはその腕を避け、お返し、とばかり下から剣を突き上げた。

 グィッ

 手に伝わる硬い手ごたえ。オーガは気にすることもなく棍棒を振り回す。

「奴は不死身かっ」

 ゲルハルトが吼えた。両腕の力の乗った剣が、オーガの足を強かに打ちつける。

 バシュッ

 そのオーガを狙い、アレースがクロスボウを打つ。だが、こめかみを掠め、かなたへと消える。

「ギルバートっ」

 リーヴが悲鳴を上げた。回り込んだオーガの棍棒が、狙い済ませたようにギルバートの左肩に命中し、方ひざを付かせる。

「ったく。しつこいヤツだ」

 ギルバートはふらつく足を踏みしめ、上段から剣を一閃させる。

ズシャッ

 骨を断つ、そのゴリッとした手応え。オーガがドゥッと倒れる。

「いけッ」

 アレースが放った矢が、綺麗な軌跡を描き、オーガの胸に吸い込まれていく。



 ゴウゥ

 うなりをあげ、オーガが振り下ろす棍棒を、紙一重でかわし、あるいは盾で受け流し、戦士達は戦う手を止めることはない。

 魔術師足るもの、戦況を見極め、味方の消耗度も計りつつ、最悪な状況下も考慮に入れて魔術を行使しなくてはいけない。

 敵を、倒し終わるまで。

 いや、あの扉を、もう一度出るまでは。

 ここは、確かに戦場なのだ。



 やがて、敵は血に沈み・・・

 戦士達は血糊を拭った。



「ギルバートさん、その腕・・・」

 オーガの横。アレースが最後の止めを刺しているのを視界に入れつつ、リーグラシェンが駆け寄ってくる。

「心配無い。

 それよりゲルハルト。見せ場、盗っちまってすまんな」

 ギルバートは冗談めかせて言った。--だが左腕はだらりと力無く垂れ下がり、かなりの傷のように見受けられる。

「ギルバート、ちょっといいか」

 ゲルハルトは、はぁぁっと溜息をつきながら言った。そしてつかつかと歩み寄り、ギルバートの腕をぐいっと持ち上げる。

「・・・ぅぐっ」

 ギルバートはくぐもった呻き声を上げる。

「まったく。痩せ我慢もほどほどにするんだな。かえって迷惑だ。

 アケミ。看てやってくれ」

 ぶっきらぼうに言い放ち、ゲルハルトはアケミを呼んだ。

「はーい。ちょっと待ってネ。

 ふぅ~ん。まったくよく我慢してるワネ」

 金属鎧の一部分がかなりひしゃげており、手甲の先からゆっくりではあるが血が染み出している。アケミはとりあえず座るよう促し、左肩の金属鎧を取り去った。両手で腕を捧げ持ち、真顔になって上を仰ぐ。

 その手から、暖かい力が流れ込み、--ギルバートは痛みが和らぐのを感じた。

「今はこれだけ、ネ。あとでまた必要になるといけないから」

 冗談めかしてアケミは言った。神の奇跡も魔術と同様、乱発できるようなものではない。その手はすでに包帯を巻いており、出来上りにぱんっと患部を軽く叩く。

「どうも。だいぶ楽になった」

 ギルバートは不器用な笑みを浮かべた。

「本当に、大丈夫ですか?」

 立ち上がり、手甲のみを着け直しているギルバートに向かい、リーグは言った。身長差がある為、上目遣いで下から見上げているリーグの髪を、ギルバートはいつものように掻き回す。

「ああ」

 傷の痛みは少し和らいだにすぎないが、ギルバートは冷や汗一つ浮かべず言い切った。その様子に、ゲルハルトは浅く笑みを浮かべる。

「それはいいんですけど・・・。

 ギルバートさん、それされると髪の毛がぐちゃぐちゃになって後が大変なんですよぅ」

 リーグラシェンは甘えるような、情けないような声を上げた。その声に、四人の顔が和む。

「行く、か」

 ぐっと視線を先に向け、ゲルハルトは言った。

「そうだな」

 ギルバートもそれにうなずき、前を向く。

 そして、五人は先へ。塔の奥へと進んでいった。



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