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な・・・にっ―――
アレースは絶句した。
扉の中。そこは今までにない広さを持つ部屋だった。その中には、人間の2倍くらいの大きさを持つ3体の巨人が。しかも、驚くべきことに牛の頭部を持つ・・・。
その、牛頭の巨人ゆっくりと得物を構えた。アレースの思考が回転し始める。
「牛頭の巨人が3体。
前に手斧を持ったヤツ。後ろ2体は巨大な弓を」
アレースには長い、だが他の者には短い一瞬の後、彼は叫んだ。その自身の声に、アレースの加速された精神が元に戻る。
ドヴァッ
ギルバートとゲルハルト、それぞれに弓が命中した。だが攻撃を予期し、構えていた盾に、それは阻まれる。
俺は後ろから、だ――
ガランッ
覚悟を決めたギルバートが、盾を投げ捨てた。さっさと行かないと後ろに攻撃を通すことになる。背中に負う両手剣をぐいっと抜き放ち、そのまま奥へ、弓を構える巨人の方へと駆けていく。
「ちっ」
気にせずいけ、死ぬんじゃねぇ――と、短く舌打ち。走るギルバートへの援護か。ゲルハルトは構えたクロスボウを手前の巨人へドウッっと打ち放つ。
矢は、あたわず巨体に命中するも、相手に少しも変わった様子は見られない。
ゲルハルトは焦る様子も見せず、直ぐさま片手剣を抜き放ち、そのまま手前の一体へと肉薄した。
「リーヴ、後ろは任せるワ」
背後を示し、扉の外にいたアケミもまた、獲物を手に戦場へと駆けつける。
あそこに、盾があるよな――アレースは扉の影に身を潜め、頭を働かせる。後方の、牛頭の巨人の持つ弓は、その巨体から見ても結構な大きさである。弓を引くのには多少時間がかかるであろう。けれど、ゲルハルトとアケミが射線を外すまで、一射はできる。一体はギルバートが押さえるだろう。が、もう一体は・・・。
俺は、仲間を、駒としてなんて、見ちゃいねぇ――
気づいたときには、アレースは扉の影から飛び出していた。床に転がる盾に手を伸ばし、体を半ば隠しながら装填したクロスボウを打ち放つ。
矢は最奥の巨体をかすめ、見咎めたそれが、装填した矢を打ち返す。
ガツッ
「へへっ、当たんねぇよ、んなカス」
俺ができるのは、援護。頼むぜ、ギルさんよ――
そこには覚悟を決めた男の顔があった。
キィィ
部屋の中へと進んだリーヴは、そうっと後ろ手に扉を閉めた。完全には閉まらないよう、10フィート棒を挟んで。
味方は、誰もが敵に相対している。今なら、見咎められずに戦場の端に入ることができる。
「アレ・・・は――」
リーヴの声が驚愕に揺れた。ぐっと握りしめられた手は色を失い、白く染まる。
「奥の扉が開いて・・・」
増援、だ。
部屋の奥。三体の巨人が背にしていた扉から、新しくまた、牛頭の巨人が姿を現したのだ。
「リーヴィ、下がって」
視界に入ったのだろう、アケミから叱責の声が上がった。
「私、行かなきゃ」
前を見据えたまま、リーヴは言った。
「リーヴ=ラシェン、わかって言ってるワケ?
相手は、今までの敵とは違う。フォーメーションを作り、協力してアタシたちに向かってきているワ。
それでも――?」
モーニングスターを振り下ろし、アケミは言った。ゲルハルトと協力して、1体は倒せる。アレースが牽制に徹しているなら、ギリギリ3体はどうにか。増援の4体目は正直荷が重い。だが、守り手のいない魔術師が戦線に出ても魔術を施行するまえに――倒される。




