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「んでさあ、弱っちいヤツがパラパラと出てきてくれると、オレの活躍が目立っていいんだよね」

 リーヴにむけてウィンク一つ。軽い口調でアレースが言った。

「オレ様のこのナイフで止めをぶすり、と」


『――お嬢っ!』

 アレースとゲルハルトの声が重なる。リーヴはぐっと手を引かれ、ゲルハルトの鎧に額を強打した。その背中、ふわりと風をはらんだマントを何かがかすめ、びたん、と、落ちてくる。

「うげっ」

 蛙を踏みつぶしたような声を上げたアレース。

不定形生物(スライム)か・・・。面倒だな」

 ふにふにと動く、ゼリー状の物体。中には宝石や金貨がぷかぷか浮いているように見える。それにつられて手を出すと、手痛いしっぺ返しにあう。強酸の掃除夫とか、下手物食いとか呼ばれている軟体生物である。

「捨てておけ。先を急ぐぞ」

 じわじわと血のあとを這い進むそれを一瞥し、ギルバートは言った。不意打ちさえ食らわなければ逃げるのは容易な化け物である。誰かが食いつかれているわけではないのだ。わざわざ戦いづらい相手に戦いを挑む必要はない。

 一行はギルバートの勧めに従い、足早にそこを去っていった。



 血のあとをたどり、五人はある扉の前まで来ていた。

 その、扉――握りにはべっとりと血が付いており、赤黒く、ねっとりとした光を映している。力を振り絞って閉めたのであろう、何箇所も付いた赤い手のあと。扉から床へと伸びる血溜まり。どれもが、あの男を思い起こさせる。

「鍵はかかっていない、な。

 オレが扉を開けるから、ギルバート、いつもと同じでいいよな」

 鍵穴を覗き込みながら、アレースは言った。その、軽い口調がギルバートの神経を逆なでする。

「オイ、アレース。お前わかって言ってるのか?

 これまでの扉は、すべて開いていた。あいつは、瀕死の重傷を負っていたんだ。閉める余力がなかったのもうなずける。

 だが、な。この扉は閉まっているんだ。

 瀕死の重傷を負った男が、ここまでして閉めた。いや、閉めなくてはいけなかった。それが何を意味するのか、お前、わかっていっているのか?」

 ドンッ

 ギルバートの拳が、壁に打ち付けられる。

「それとも――

 お前は俺達をただの駒としてしか、見ていない・・・とか?」

 ギルバートの目がすっと細められた。あたりの空気が急に冷え込み、アレースの背筋は凍りつく。

「ギルバート、止めろ。何突っかかってんだ。

 アレースが考えなしなのは確かだが、ここで割れたってしょうがないだろう。

 アレース。お前も、もっと頭を使え。これだけ血溜まりがあるんだ。ここにあの男の部隊を全滅させた化け物がいるだろうってことくらい、見当付けてもいいはずだぞ」

 ゲルハルトの冷静な声がそこに響いた。ギルバートはふいっとそっぽを向く。

「この扉の向こうには、とんでもない化け物がいるってことはわかってる。だが、引き返すってのは性に合わん。

 まず、アレースが扉を開け、俺とギルが盾を構え、中に飛び込む。防御に徹しているから、アレース、お前が敵の様子を教えろ。扉のカゲに隠れていりゃあ、攻撃なんて当たりはしない。

 そして然る後、攻撃に移る。お嬢とアケミは状況に応じて援護を。ま、ここらはいつもの通りだな。

 生き残るため、だ。

 ギルバート。これでいいな」

 淡々とゲルハルトは語った。その、冷静かつ的確な物言いに、ギルバートは肩をすくめる。

「いく、か」

 ギルバートは盾を構え直し、告げた。

 こくんっとつばを飲み込み、アレースが扉に手をかける。

「開ける、ぞ」

 アレースの手に、くっと力がかかり。


 バンッ


 音と共に、戦士たちは中に飛び込んでいった。

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