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「気休め、でしょうけどネ」
アケミは薄く笑い、遺骸を清めた。そして邪魔にならないように、と端に寄せる。
「情報料だ――」
ゲルハルトは金貨を一枚取り出し、男の脇に放る。
キィンッ
金貨は下に落ち、悲しい音を立てた。
「行く――か」
ゲルハルトは独白し、前へと進む。ギルバート以下四人もそれに続き・・・
そこには、物言わぬ男の躯だけが残った。
「どうする? このまま先に進むのか」
ギルバートは言った。
ここは五階。階段を上りきったところからつづく回廊を過ぎ、その奥にあった正方形の小部屋。その中に五人はいた。
「この血のあとは、間違いなくあの男を殺した化け物への最短距離だ。そして――六階への階段にも、近いはず」
ゲルハルトは床に点々と続く血のあとを見ながら言った。その血のりは、開け放たれた扉を過ぎ、奥へと続いている。
「だが、血の臭いに引かれ、ほかの化け物も襲ってくるぞ」
ギルバートは部屋を見回し、言った。この部屋には四方に扉があり、二つ――五人が入ってきた扉と血が点々と続くもう一方とが開いている。
「違うところを通らねえか。せっかく五階まで来たんだ。もっと慎重にやったって」
アレースが独り言のように呟く。
そこにいくばくか、沈黙の時が流れ――
「このまま・・・血のあとをたどっていきたい。私はそう思います。あの方の残した、唯一のものですし。
名も知らない人、ですよね。――だけど・・・」
薄く漂う血の臭いの中、静かなリーグラシェンの声が流れた。彼女は一度言葉を切り、視線を赤黒く固まりつつある血の上へと、さまよわせる。
「あの人の生きていた証――それを踏みにじりたくない。行きずりの人ですけど、末期の水を取った一人として。
気休めとか、偽善とか。・・・そういうんでしょうけど」
リーヴは悲しげに微笑んだ。
「まったく。お人好しにもほどがあるぜ。
だが、お嬢にここまで言われちゃあ、行かないってわけにはね」
ゲルハルトが微苦笑する。
「目は離せねぇし、手はかかるし。危険だってわかってるのに進むんだよな、この嬢ちゃんは。
危なっかしいったらありゃしねえ」
ギルバートの目が和む。
「ホントに、ネェ。
目を離した隙に、なんてコトがあったら、目も当てられないじゃないノ。
心配するのもバカらしいから、ついていってあげるワヨ」
アケミも、いつもの笑みを浮かべていった。その眼の奥には、相手を心配している色が垣間見える。
「アレース、お前は?」
一人沈黙を守っていた軽戦士に、ゲルハルトは声をかけた。
「一人突っ張るわけにもいかねえだろ。
それに、俺がいなきゃあ、困るんじゃねえの?」
まったく・・・と舌打ちしそうな様子で答える。その応えは、リーヴの笑みを引き出し。
「いくか」
ギルバートの声に、先導するアレースが走る。
つづくギルバート、中ほどリーヴとアケミ。殿はゲルハルト。
いつものように、彼らは先へと進んでいった。




