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連投
楓華はその話に半信半疑だった。和人は自分が楚から落ちた分隊だと知っている。それなのに、獅子風神に来ないかと言ってくれた。内心嬉しかった。だが、内心不安でもあった。館戦での恐怖が舞い戻ってくる。和人は見る限り拳銃しか持っていない――軽装兵だろうと思う。彼を死なせたくない。
軍隊に入ることを了承すると和人はこう言っていた。
1週間後に採用試験をする。採用試験次第で入隊できるかが決まるそうだ。内容はまだわからないが、実戦に近い形になるらしい。
(頑張らないとね……!)
そう、心の中で呟き目の前にあるXM8に触れた。
「お願いね……」
そう願い、またベッドに横になった。
「失礼する」
和人は目の前にある、木造のドアをノックしドアノブを回し室内に入る。室内は意外と殺風景で、どこかの会社の社長が座るような椅子と机があるそれだけだ。ただ、違うのは壁にかけてある物だ。かけてあるのは銃だ。しかも対装甲車用ライフルだ。こんな厳つい物を飾っている部屋は勿論の如く軍総司令官の部屋だ。
部屋は空爆されないよう、地下に造られた避難用シェルターより奥の、最高軍事基地と呼ばれるいわゆる最終拠点の最奥部に設置されている。外に出るのが大変だろうといつも思うが何と秘密裡にエレベーターが設置されているらしい。そのエレベーターがつながる所はなんと一般の民家だ。まぁその民家には守備兵が設置されていて用意には近づけないよ
うになっているけどな。
「今日は何の用だい?」
和人を見ると、いつもの軽快な口調で問いかけてくる。
「採用試験についてなんだが……」
「その件なら心配ないよ。1週間後我が軍が拠点公園を攻めるからそれに同行してもらうだけの簡単なことだ」
「彼女は部隊墜ちだ! 幾らなんでも無茶があるだろ!」
「決定したことだ。変えられない」
「だが…………!」
「別にその件自体を無にすることもできるんだが?」
幾らなんでも無茶すぎる話だ。つまり、簡単に言うなら採用試験が初陣でしかも経験したことないような大戦争だということだ。
拠点公園と呼ばれるそれは、神奈川県にある公園だ。国境を跨ぐような公園で、その公園を巡って獅子風神と日本政府と戦争が起きた場所だ。今まで何人もの兵士がそこで死んだ。それに彼女を同行させようと言うのだ。
公園の地形はかなり複雑である。公園の側面に木の生えた斜面があり公園を挟んで睨み合う形になる。
さらに話を聞いてみると動員する兵力は5000。今までどの戦いでも最高動員兵力は2000程だった。それを優に超える兵力だ。そんな大戦争に彼女を同行させる、つまりそれは死を表している。
彼女は俺の指揮する公園東方面の部隊に所属することになった。東部隊の兵力は1000。
彼女だけは絶対に守って見せる。もうあのような過ちは繰り返さない。絶対に……。
それからあっという間に1週間は過ぎた。
部隊の調整等でかなり忙しく、見舞いに行くことが出来なかった。楓華も3日後に退院しリハビリや訓練をしていた。だが、採用試験の内容はまだ伝えていない。伝えているのは、午前9時半に地上にある軍事基地に来るようにとだけだ。悪い気もするが、伝えて戦意喪失なんてなられては困るからだ。
そして、午前9時半。
「和人」
自分を呼ぶ声。それに反応し後ろを向く。
「着たけど……どうするのよ?」
軍服を着て、防弾チョッキを着こなしXM8を背中に提げた少女――楓華は言った。
「えーとな……。話づらいんだが……試験内容は言うと実戦なんだ。お前も拠点公園って知ってるよな?」
此処らへんの地域なら一般常識として知識化されるであろうその名前を知らないはずがない。
「知ってる気に決まってるでしょ。何度も戦いが起きてる場所でしょ?」
「今日、そこに攻め込む予定なんだ。つまり、その戦いに同行することが試験内容なんだ」
それを聞いたとき一瞬、宇宙人を近くで目撃したかのような驚きの表情をする。そこから続く数十秒の沈黙。
「本当にごめんな。こんな事実誰も受け止めれない」
「また仲間を失うんだわ……」
小さなか細かな声でそう呟いた。
「あの時みたいに戦ってきた仲間を失うんだわ……」
目には大粒の涙が灯っている。
「大丈夫さ。俺がついてる。俺がついてるから」
どこの恋愛物語だろうか。実際恋愛なんてないのだろうけど、そう思えて仕方がない。この慰め方は「怖がってる彼女に付き添う」という、ゲーム内でのシチュエーションを真似ているだけなのだからだ。この日のために徹夜でゲームに没頭したかいがあった。おかげで妹や彼女という言葉を聞くといけないシーンが連想されてしまうようになった。悪い癖だ。
「とにかく、絶対に大丈夫だ。安心しろ」
その時、先頭の方から集合と整列の合図がかかる。
「並ぶぞ」
メンテナンスを急いで終え、ホルスターにしまい整列する。和人の後ろには、楓華が並ぶ。
そして作戦の確認等をして、午前10時となった。
「進行!」
前列の隊長が叫ぶと共に列が進軍を開始した。