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 2 おなかがすいた

 身が軽いのが嬉しくて、塀に上ったり茂みを駆け抜けたりと動き回っていたら、おなかがすいてしまった。もとから何も食べていなかったのかもしれない。異常なほどの空腹だった。

 これは大変なことだ。私はもともと人間なので、お金を出してご飯を手に入れる以外経験したことがない。

 猫が食べるものといったら、虫や鳥やねずみ……なのだろうか。

 そんなの絶対無理だ!考えられない!絶対嫌だ!と私の中に残った人間部分が、全力でそれらを否定した。しかしそれらを思い浮かべながらぐぅとおなかがなってしまった。気づかないふりをしてみる。

 ああ恐ろしい。とにかく無理なものは無理、なのだが、でもどうしたらいいのだろう。

 ごみを漁るか草花を食うか、こうするしかないのだろうとは思うのだが食指が動かない。ごみを漁る行為は迷惑がかかる。そういうのはなんだかやっぱり気が引けてしまうのだ。草花はまだ食べることができそうだが、人間の食べ物をやっぱり基準にしてしまうので、まだ私には難しい。

 さっきまで楽しかったのに、おなかがすいて哀しくなってきた。私は猫になって初めてつまらない気持ちを味わい、とぼとぼ歩いた。

「猫だ、かわいい!」

 しょんぼりした私の耳にはしゃいだ声が飛び込んできた。制服を着た若い女の子二人がちょっと離れた場所からこちらを見ている。

 髪の短い女の子はちっちっと舌を鳴らしたり猫の鳴き声をまねたり、どうにか私をおびき寄せようと必死な様子だ。二人は少しずつ近寄ってきた。人間は怖いのだが、猫としてかわいがられてみたいという好奇心もある。でもどうしよう。おなかがすいて判断がつかない。

 この子たちなら危険はないだろうと考えて、そのまま座ってぼんやり宙を見つめた。正直歩く元気もなくなっていたのだ。

 女の子二人は大人しくしている私に近づいて、かわいいかわいいと私の周りをぐるぐる回り、写真をたくさん撮り、私の頭をなでてとなんだか忙しそうで見ていて疲れが増す思いがした。

「そうだ、食べ物あげてみようかな」

 なんと。目の覚めるような発言だった。嬉しくて心が躍る。喜びをおさえられない。私は二人をなにか喜ばせたくなった。

 私は猫好き人間だったから、人間の喜びそうな行動はだいたいわかっているつもりだ。

 まず手で顔を洗ってみる。

「きゃー、かわいい!」

 好評である。

 次に寝転がり目を細めごろごろと転がってみる。

「きゃー、かわいい!」

 好評である。

 次に鳴いてみることにする。

「ぐるぬわぁあ」

 にゃお、とかわいい声をだそうとしたのに、力みすぎて怪物のような声になっていまった。恥ずかしくて涙目になる。

 「残念な鳴き声」髪の長い女の子は率直な意見を口にして、髪の短い女の子は「変な声」とけらけら笑っている。なにか少々傷ついたが、めげている場合ではない。

 ちょこんと座り首をかしげて、お嬢さんを見てみた。二人はかわいいね本当にかわいいね、と繰り返している。

「ねえ、なんか食べ物あげようよ」

 髪の長い女の子がそう言ってがさがさとバッグをあさりだした。よし、と心の中でがっつぽーずを決めた。しかしそううまくはいかないのだ、私の人生ときたら。

「やめたほうがいいよ。猫に食べ物を簡単にあげるのはよくないって、自分で食べるものを探せなくなるって、本で読んだことあるよ」

 髪の短い女の子が止めにはいったのだ。

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