-- : 最期の夏の始まり
珪素生命体を守ろうと決めてから、ずっとオレの腹の底に座り込んでいる重みが、決断を急かしている。
この重みこそが、覚悟と呼ばれるものなんだろう。
夙夜と銀狐を伴って夜闇を往く、オレは本当に道化師なのか。
「俺の家、狭いよ? それでもお泊り会する?」
お泊り会、という単語が気に入ったらしい夙夜はご満悦だ。
「マモル、どこにいくのかな?」
ノアは相変わらず楽しそうだった。
自分の知らないところへ行くのも、知らないモノに触れているのも、根本的に好きなのだろう。
そうだ、梨鈴だってシリウスだってそうだった。
「……しっかし」
自分の中にこれだけの行動力があった事に驚いた。
それでも、『サトル』に会いたくないという感情だけは本物だった。
ノアの言うサトルと、オレの知るサトルが同一人物だろうという妙な確信がある。会わなくても分かる。
そして、ノアがそのサトルに懐いている。
今、全員がサトルに会ってしまったら、何もかもが壊れそうな気がして怖かった。
オレが覚悟した事、夙夜さえもみんな連れて行かれそうな気がした。
ほとんど記憶にない父親に、オレは恐怖していた。
「オレは一般人でいる事に満足してると思ってたんだが……」
夙夜に関わり、白根に関わり、『特別』になりたかった。
珪素生命体に近づくことの出来る自分を誇っていた。
そして今、その地位を脅かそうとする『サトル』には決して会いたくなかった。
明日から始まる掃討作戦にも背を向けた。
桜崎に集まる珪素生命体と稲荷の戦闘員が明日から神楽山で衝突するはずだが、オレたちには関係ない。
何もかも破壊するノアを遠ざけただけでも良しとしてくれ。
珪素生命体と共に居るだけで非日常。
オレは、すべてから逃げ出した。
ケモノと道化師と銀狐の珍道中。
追い来るは芙蓉と白樺。
祈り残るは伯楽遊戯。
雨を含んだサイプレスが、オレたちの行方を見守った。
梅雨が終わろうとしている。
何もかもを巻き込んだまま――夏休みが、始まる。
高校生最後の夏。
オレの人生を大きく左右することになるこの夏は、無慈悲にも瞬く間に差し迫り、大口開けてオレを待っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
サイプレス終了です。4年越しで……orz
あまり動きのない、設定説明会でした。
もっとうまく書ければよかったけど、3年越しではこれが限界(´ω`;)
「無関心の災厄」は次章ヒガンバナでクライマックスを迎え、終章のガンライコウで完結です。
次章をはじめるのはもう少し先になると思いますが、またのんびり書く予定です(*´ω`*)
また、どこかでお会いしましょう♪