後ろ
掲載日:2026/08/21
金曜の夜、佐伯はテレビをつけたままスマートフォンをいじっていた。台所では炊飯器の小さな駆動音が続いている。
キッチンカウンターに置いたスマートスピーカーが、不意に光った。
「聞き取れませんでした」
佐伯は顔を上げた。誰にも話しかけていない。テレビの中で、出演者たちが賑やかに笑っている。ああ、テレビの音を拾ったのだろう。佐伯はそう思い、スマートフォンに視線を戻した。
スピーカーは黙っていた。テレビはそのまま流れ続けている。佐伯はソファの上で少し姿勢を変え、脚を組み直した。
しばらくして、スピーカーがまた光った。
「聞き取れませんでした」
さっきと同じ言葉。佐伯は今度は少し気になって、リモコンでテレビの音量を下げた。番組の音声がほとんど聞こえなくなった。
それでも、スピーカーは何かに反応し続けているようだった。青い光が、消えては、また灯る。何かを探しているようだった。
佐伯はテレビを完全に消した。
部屋が静かになった。炊飯器の音だけが、かすかに続いている。
スピーカーが、また光った。
「後ろの方がお話しされています」
佐伯は振り向いた。




