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紅の闇祓  作者: 青空ボーロ
第一章
8/10

第8話 扉の向こう側

体育館で殴り合う蒼馬と慧。


決着がつく直前、刀花と鹿之介が割って入った。


勝負は――無効試合。


体育館の床に、殴り合いの痕跡が残っていた。


蒼馬は息を整える間もなく、散らかった避難所を見回す。


その横で、刀花が腕を組んだ。


「……ほな、説教や。」


蒼馬は頭を下げた。


だが刀花は微笑む。


「って言いたいところやけど。蒼馬が喧嘩売るわけないわ。

どうせあの厨二病男に喧嘩売られたんやろ。あいつ感じ悪いし、何があったかワイらに話してみ。」


すると蒼馬は頭を上げ、説明した。


「……氷室さんが一般人に手を出しました。」


蒼馬は唇を噛む。


「止めたら、俺が殴られて……気づけば、殴り合いでした。」


直後、刀花は激怒した。


「あのアホンダラ…!家の可愛い蒼馬に何してんねん!」


鹿之介も怒りをあらわにした。


「あいつムカつくと思ってたけど、ここまでやばいとは思ってなかったぜぇ〜!」


「そもそもそんな安い挑発に乗って一般人傷つけるとかアホかあいつ。一般人と蒼馬が可哀想や。」


蒼馬は何も言えなかった。これは何処からどう見ても慧が悪いからだ。


「あのアホ。後で起きたらしかったるわ。

…でも蒼馬。お前すごいなぁ。」


「えっ…?」


急に褒められた蒼馬は驚く。


「正直、自分のこと舐めてたわ。

惨劇とか禍霊見て、蒼馬が吐いてるの見て『この子は戦えんから。ワイらが責任持って守らんとあかん。』と思っとった。

でも今は違う。あの慧に立ち向かったんや。勇気ある行動や。誇ってええ。」


硬かった蒼馬の表情が少し緩む。


「…ありがとうございます。」


「あと蒼馬。自分、業臨ごうりん決めたやろ。」


業臨ごうりん…?そういえば氷室さんが言ってたような…?」


蒼馬がある拳を慧に当てた時、紅い火花が散った。


そして慧は言っていたのだ。


「なぜお前のような弱者が『業臨ごうりん』を決められる…!?」


と。


「その…?業臨ごうりん…?ってそんなにすごいことなんですか…?」


「当たり前や。これ結構すごいで。狙って出せるもんやないしな。」


刀花は業臨について説明しだした。


業臨ごうりんはな、狙って出すもんちゃう。


業と業がぶつかる、ほんの一瞬――0.01秒くらいの摩擦で起きる。


その瞬間だけ、業の流れが淀まん。逆流もせぇへん。


ほんで恐怖か怒りか覚悟…どれかが限界まで振り切れてる時だけや。


だから『出そう』って思った時点でたいてい失敗する。


前提として簡単に出せるもんではない。


初心者の蒼馬がこれを出すってのは才能がある証拠なんよ。」


「俺に…才能…?」


蒼馬は少し嬉しかった。


「業臨を出すと、通常攻撃 の数倍の威力を出すことができる。


ただし「技そのもの」が強化されるわけじゃない。“業の密度”が異常に高いだけや。


発動後、術者は業の流れが“見える”感覚を得る。無駄撃ちが減る。


術式の燃費が一段階良くなる。新しい応用を『理屈抜きで理解する。』


つまりレベルアップ演出ではなく、視界が開ける感覚や。」


「すごいですね…じゃあ連発できれば最強じゃないですか…!!」


「いやでも万能ではないで。

連続発動はほぼ不可能。

発動後は強烈な疲労 or 業の乱れ。

再現しようとすると失敗する。

心がブレると二度と出ないこともある。

つまり強者ほど『出せる』でも『頼らない』という立ち位置や。」


鹿之介は目を輝かせる。


「なんかよくわかんねぇけどかっけー技だぜ!俺も出してぇ〜!」


「まずはアホを治すことからやな。」


刀花は蒼馬に向き直る。


「蒼馬。業臨を出したものは業や術式の理解が深まる。

つまり術式が蒼馬の体に既に刻まれてて、蒼馬がまだ使い方をわかってない場合。

これなら業臨を発動させたことで術式を使えるようになる可能性がぐんと上がった。

炎とか水とか出せるかもしれへんぞ!ワクワクしてきたやろ!」


すると鹿之介は大声で騒ぎ始める。


「すげー!蒼馬がカメカメハとか螺旋丸出すとことか見てぇ〜!」


「蒼馬じゃなくてお前が騒いでどうするんや。」


だが蒼馬は微笑んでいた。


「あのとき…業臨をだして、少し強くなれた気がする。俺も戦えるかもしれない。なんだかうれしいです。」


喜ぶ蒼馬を見て、微笑む刀花と鹿之介。


しかし刀花の表情が曇った。


「……せやけど蒼馬。

業臨はな、“才能”とかいう軽い言葉で片付けたらあかんやつや。

一回だけ扉が開く。そしたら戻れん。

お前、もうこっち側に片足突っ込んだで。」


蒼馬は嬉しさの反面、刀花の言葉で恐怖を感じた。


「……戻れない、って……」


刀花は静かに一言言う。


「怖がってええ。けど誇ってもええ。」


業臨は誇ることであると同時に戻れなくなることでもあった。これを蒼馬は理解した。


「そういえば業臨を出す少し前、未来のようなものが見えたんですが。あれも業臨の効果だったりするんですか?」


「ん?なんやそれ?聞いたことないで。」


「なんだぁ〜!?未来見えんのか!かっけー!」


「えっ、じゃあ…」


「恐らくその未来視と業臨は別物や。蒼馬のなかで隠された能力が覚醒しとるのかもしれんな。」


「俺の…隠された力…」


「……せやけど、ひとつだけ言える。

“業臨の時”に見えたんなら、お前の業が何かに反応した可能性はある。」


「業が何かに反応…。」


未来視…その力は蒼馬の鍵になっていく。


――その時、突然慧が起きた。


「うっ…俺は…確か…そうか寝ていたのか。」


起きた瞬間、慧の腹に刀花の拳が突き刺さる。


「ガッ…!貴様何をする…!死にたいのか…!?」


「『貴様何をする…!死にたいのか…!?』じゃないやろ!蒼馬から聞いたで!蒼馬を殴った!?一般人も殴った!?……お前、禍断隊の看板に泥塗った自覚あるんか!?」


後ろで鹿之介も賛同する。


「そうだぜ!」


「お前…起きてそうそう…その行動…俺に喧嘩を売っているのか。ならばその喧嘩買ってやろう。殺す。」


「やめてください!」


蒼馬はそれを止めた。


「クソガキ…お前だけは許さん…!二人まとめて潰す!」


「あかん!ちょっと誰かこいつとめろ!」


「クソ…!また結局喧嘩か…!」


その時、鹿之介が後ろから慧を拘束する。


「やめろだぜぇ〜!」


「邪魔だ!怪力男!」


慧は暴れるが、パワーならば圧倒的に鹿之介のほうが上。完全に抑えつけられる。


「お前…なんでそんなに暴れるんだよ…!俺たち仲間じゃねぇのか!?」


鹿之介の言葉は純粋無垢だが核心を突いていた。


「仲間…ふざけるな…!お前らのようなやつらを仲間だとは思わん!」


刀花は迷ったが、ついに決断を下す。


「やむおえん!蒼馬!こいつロープで縛るで!」


「はい!」


「くっ!離せ!」


そして蒼馬と刀花は慧をロープで縛り、刀を取り上げた。


「刀…返せ…!」


慧はそういうが、刀花と蒼馬は巍然とした態度で答える。


「嫌や。今のお前に刀は危険や。禍霊じゃなく、人を斬る目しとる」


「…そうですよ。俺だって貴方のせいで全身怪我してますから…。」


暴れる慧を前に刀花は冷静だった。


「そもそも自分。なんでそんなことで怒るんや。

挑発された内容も子供に『ウルトラマンべリアム』とか言われて『ウルトラマンのような幼稚な戦いではない!』ってキレたんやろ?しょうもなすぎやろ。」


刀花の言葉に慧は怒りのまま叫んだ。


「……見られた……見下された……また……!あのガキは…!俺の戦いをヒーローごっこ扱いしやがったんだ…!」


「……あぁ、そういう怒りか」


察する刀花に慧は続ける。


「…それだけじゃない!

女に『あの人ずっと鍛錬してて頭おかしい』と言われ、男に『ずっと鍛錬してて邪魔で荷物おけないんからどけて』と言われた!」


「まあおばはんはちょっとあれやけどおっさんの方は正論やんけ。

おばはんに対してもちょっと注意でよかったんちゃうんか?何がそんなにいらつくんや。」


「うるさい…!俺は…!」


何を言っても怒るだけの慧に刀花は諦める。


「もう話にならんわ。一旦放置するから頭冷やせ!ほんじゃあな!」


「お、おい待て!」


「刀花!向こうでゲームしようぜ!」


「いいなぁ!スマブラでもやるか!蒼馬も来いや!」


だが蒼馬はいかなかった。


「いや…俺は…もうちょっとここにいます。」


「そうか。終わったらこいよ!」


そして刀花と鹿之介は過ぎ去った。


蒼馬と慧は二人っきりになった。


慧はまだ怒っていた。冷たい口調で蒼馬に言い放つ。


「お前…さっさと向こうにいけ。」


だが蒼馬の心は変わらない。


「いや…俺は貴方と話がしたいんです。」


その態度を気味悪がり、慧の怒りが更に増した。


「チッ…!なんのつもりだ…!」


刀花と問馬の声が遠ざかる。


体育館に残ったのは、慧の荒い息と、ロープの軋む音だけだった。


蒼馬はしゃがみ込む。


「………話しましょう」


蒼馬は、慧を見上げた。


「……だって貴方は、俺の命の恩人だから」


そして真面目な少年と冷たい男の対話が始まる。

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