第六話 「戦えなくても」
蒼馬は教室で刀花と鹿之介から禍霊について教えてもらおうとした。
しかしその教室の中は既に赤一色で染まり、未来を奪われた生徒たちの姿があった。
それを見た蒼馬はあの日の夜を思い出し、胃の中身が逆流した。
刀花と鹿之介は生徒たちを弔い、改めて授業を始めた。
この世界の基本を知った蒼馬は刀花と鹿之介と共に体育館へ戻るはずだった。
だがまたしても禍霊の襲撃を受ける。
戦おうとする蒼馬を刀花が静止する。
刀花と鹿之介は、教室で禍霊と対峙した。
戦えない少年、蒼馬は走った。
――"戦えなくても"とにかく"自分にできること"をしようと。
「さあかかってこいや。禍霊。」
禍霊は刀花の挑発にのり、襲いかかりに行く。
刀花の刀と禍霊の手刀が火花を散らしながら噛み合う。
(こいつ…カマキリの禍霊かい。さっきB級をカマキリに例えたからタイムリーやわ。)
その禍霊は両手がもはや鋭い刃物である。
もう片方の腕で刀花を襲う。
(あかん…防ぐことも避けることもできん…!)
だがここで鹿之介も動く。
「おらぁ!」
怪力で机をまるで小石のように持ち上げ、投げつける。
それは禍霊の背中に当たった。
それにより禍霊に隙ができる。
「今や!」
刀花の刀が禍霊の中心を刺し、そのまま一撃で決めるはずだった。
「ちっ、優秀やなこいつ。」
しかし禍霊は腕でそれを防いでいた。
「面倒なやつだぁ〜ぜぇ〜!轟雷一閃!」
しかしカマキリは鹿之介の雷を躱し、それを刀花に当たるように動いた。
その隙にカマキリはまたもや斬撃を飛ばし、刀花を切り裂いた。
「痛いやんけぇ…!」
直後、鹿之介が後ろから迫る。
「フルスイングだぁ!」
鹿之介のフルスイングがカマキリの頭をとらえる。
カマキリは吹き飛び、黒板にヒビがはいる。
「やったか!」
しかしカマキリはまだ生きていた。
「仕方ねぇ。本気出すぜぇ!」
「最初から本気出しとけや。」
一方、蒼馬は走っていた。
(クソ…俺は…)
その時、蒼馬の脳裏に宿ったのは刀花のあの言葉だ。
「戦えんなら無理に戦わなくてええ。」
「無茶すんな。みんなお前に死んでほしくないんや。」
(俺は弱い……認めるよ。
俺は、あの人たちとはちがう。
ただの田舎に生まれただけの高校生だ。)
家族が殺されているのに、何もできなかった。
右目をえぐり出された、あの夜の屈辱。
慧が負け、禍霊に立ち向かった。
それでも、一歩も届かなかった。
死体を見て、吐いてしまった。
そして今回の戦闘でも――
蒼馬は、何一つできなかった。
(俺は……戦えない。
でも――
知らせることは、できる。)
そして蒼馬は体育館へ戻った。
そこには木刀を持ち、鍛錬する慧の姿があった。
「ハァハァ…!まだだ…!俺は…!強くならなくては…!」
よく見ると慧の手は使い古した人形のようにボロボロで皮が剥けていた。
周りの一般人は冷たい視線でそれを見る。
「あの男の人。あんなに鍛錬するなんてマトモじゃないわ。頭おかしい。」
「あの男の人木刀振り回しててかっけー!ウルトラマンべリアムみたい!」
慧はそれを見て、子供に言う。
「貴様…ウルトラマンべリアムだと…?ウルトラマンのような幼稚な話ではない。これは戦争なのだ。舐めた発言をするな。殺すぞ。」
子供の母親は嫌悪を抱きながら慧に反論した。
「貴方子供に対して大人げないと思わないんですか!?頭おかしい!貴方もなんかいいなさい!」
怒る母親をそばに父親は無関心だった。
「あっ、そう…。」
きっとこの惨劇に思考をやめてしまったのだろう。
そこいたもう一人の男が言う。
「あの。貴方鍛錬ずっとしてて邪魔で荷物おけないんだけど。どけて。」
慧はそれを聞いてさらに怒る。
「貴様…俺のことを何も知らないくせに…!」
そしてその男に平手打ちをした。
「いって…!」
「叩いた!?頭おかしい!」
母親が驚き、子供は泣いた。
だがその時、蒼馬が入る。
「やめてください!」
そして慧をおさえた。
「貴様…また邪魔をするのか。」
覇気のような凄まじい圧をかける。蒼馬の心拍数は上がった。
(なんだこの覇気…でも…俺はひけない…!)
「やめてくださいと言ってるんです!相手は一般人だ!やりすぎです!」
すると慧は力ずくで蒼馬の拘束を解く。
「こいつらは俺のことを何も知らないのに俺を…いや俺の人生を馬鹿にしたのだ。ならば当然の仕打ちだろう。」
慧はその冷たい言葉と共に蒼馬を殴った。
立派なB級隊員の成人男性の拳…。少し前まで一般人だった蒼馬には威力が高すぎる。
(痛い…!なんて拳だ…金剛石のように固く…大砲のような威力…!でも…!)
そして脳に浮かんだのはやはり刀花の言葉。
「お前には死んでほしくないんや。」
(なら…死なないように…!
刀花さんと鹿之介さんに心配かけないように…!逃げられない…!
禍霊はもっと強くて、容赦がない…!
この先もっと危険な目にあう…!
だからこれくらい…乗り越えないと…!)
そしてゆっくりと蒼馬は立ち上がる。
「ペッ!」
口から赤い塊が吐き出された。
既に蒼馬の口の中は慧の拳で傷つけられていたのだ。
「氷室さん…。
貴方に何があったか…何故あなたがそこまで怒っているのか…俺にはわかりませんよ…。
それはあなたを馬鹿にした一般人たちも同じです…!でも…!」
蒼馬は体育館中に響くほどの大きな声を張り上げる。
「禍断隊なら…!
人より強く生まれたなら…!
『弱きものを守る…!』
これがあなたの"やるべきこと"だ…!
殴ったり、攻撃に巻き込んだり、見捨てたりしたりしては絶対にならない…!
俺は"貴方の考え"を絶対に許さない"!
そんなことをするなら…!
――禍断隊なんてやめえしまえ!」
その言葉を聞いた慧はかつての恋人の言葉を思い出す。
「慧…。禍断隊はやめて…。
慧は優しくて真面目だから…。
慧は…普通の男の子の幸せをつかんで…。」
「禍断隊をやめろだと…ふざけるな…。」
慧は震えた小さな声でつぶやく。
そして大声で怒鳴った。
「黙れ…!!!」
その迫力に蒼馬は震え上がる。
(怖い…痛い…さっき口の中切れてるのに大きな声だしたから…口の中が痛い…。
でも…!絶対負けられない…!)
「かかってこい!氷室慧ぃ!」
そして蒼馬と慧は向き合う。
信念と意地が、真正面からぶつかろうとしていた。
――この瞬間、二人はもう引き返せなかった。
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