第2話 「正しい死に方」
禍霊と氷室慧は向き合っていた。
この禍霊には知性がない。故に目の前のものを狂犬のように破壊し続ける。
「グオーッ!」
獣のような唸りとともにやつはエネルギー波を放つ。
それは一般人たちへ向かい放たれる。
本来ならば慧はそれを守るべきだ。
(防ぐか…いや…あれを防ぐのはリスクが高い。ならば安全なほうを選ぶ。)
だが慧はそう考え、それをかわした。
だが蒼馬は違った。
「危ない!」
そう叫ぶと蒼馬はエネルギー波の向こうにいた一般人を掴み。それをかわさせた。
「貴方…!一般人を守る組織の方じゃないんですか!?」
蒼馬の言葉を無視し、慧は禍霊へ刀を振り下ろす。
禍霊は慧の斬撃を太い腕で受けた。
(このまま腕を斬る…!)
慧は自らの刀へ力を込めた。
しかし禍霊はもう片方の腕で拳を放つ。
(まずい…防御…!いや…間に合わん!)
その拳は慧の腹を捉え、激しく吹き飛んだ。
「ゴフッ…!」
慧は血を吐いた。体の中までダメージが言っていた。
(この禍霊…強い…。恐らくA級相当だ…。今の俺には荷が重い。)
蒼馬はそれを見ることしかできなかった。
(氷室さん…あの傷…まずい。何か俺にできることはないのか…)
蒼馬はそう思うが、あの時のトラウマをおもいだし、足が固まる。
(だめだ…さっき一般人を助けたときは動けたけど…あの禍霊に立ち向かおうとすると…足が動かない…!)
それを慧は察していた。
(あの少年…俺を助けようとしているのか…)
「少年。お前は何もしなくていい。見てろ。」
慧は冷たくそう言い放つと独特の構えを見せる。
「木嵐・削ぎ!(こがらし・そぎ)」
すると慧の刀から真っ直ぐ突風が表れ、禍霊を切り裂いた。
風の攻撃の流れ弾が一般人に当たり、一般人に傷を与えた。
蒼馬はそれに歩み寄る。
「大丈夫ですか!?みなさん!あの化け物からは離れて!巻き込まれますよ!」
痛がる一般人を蒼馬は奥へと誘導した。
(氷室さん…。なぜ一般人を巻き込むんだ…。薄情なやつめ…!とにかく俺にできることを…!)
蒼馬はそう思い。一般人を守ることに徹した。
先程の突風により、辺りは白煙に包まれていた。
(少しは効いたか…?)
だが白煙が過ぎた中に一つの影が現れる。
「チッ、」
慧の命懸けの突風はあの禍霊には届かなかった。
「グオーッ!」
やつはまたしてもエネルギー波を飛ばす。
それは禍霊の最大火力…一気に決着をつける気だ。
(まずい…ならばこちらも…!)
慧も刀を鞘に収め、構えをとる。
(あれは…!居合か…!)
「疾風居合斬!(しっぷういあいざん)」
そう言い放つと共に慧の刀は鞘を虎のような勢いで走り、火花を散らしてエネルギー波とぶつかる。
だが無情にも刀は折れ、慧の腹をエネルギー波が貫いていた。
慧の口の中が鉄の味で満たされ、体が限界を迎えた。
(クソ…完全にやられた…こんな田舎にこんなに強い禍霊がいるとは…想定外だった…)
ついに最後の砦…氷室慧が敗れる。その場にいた全員が絶望した。
「クソが!どけ!」
男が荒々しく他の一般人をおしのけ、窓から飛び出そうとする。
「だ、だめです!やめてください!」
外はもっと危険な禍霊がいるに違いない。蒼馬はそう思い。逃げようとする彼らを引き止めるが、彼らは蒼馬の忠告を無視し、目を血走らせながら飛び出していく。
(どうする…!?あの人たちが外にでたら絶対まずい…!外にはもっと沢山の禍霊がいるはずだ…!でも…あんな人数は俺じゃとめられない…!)
そんなことを考えているうちに禍霊が蒼馬へ歩み寄る。
A級の禍霊を見た蒼馬は背中に氷を突っ込まれたかのような寒気に襲われた。
(動け…動け…動け…!)
そう思い。蒼馬は震える足で立ち上がる。
周りを見ると逃げた一般人の鞄から僅かに包丁がでていた。
(これしかない…!今の俺がやつに一矢報いるには…!)
蒼馬はそれを拾い。やつへ向かい合う。
「うおーっ!」
蒼馬の渾身のフルスイングが禍霊の首へと向かった。
(いける…!首を狩る…!)
禍霊の首に刃が食い込む…!そしてここから蒼馬の逆転が始まる…!誰もがそう思った。
だが腕に力が入らない。
包丁が床に転がる音が、やけに大きく響いた。
「……あれ?なんで、右腕がこんなに軽い?」
蒼馬は数秒、何が起きたのか理解できず、声にならない声を漏らした。
そして数秒して状況を理解する。
「うあーっ!」
理解したあとに来るのは凄まじい激痛と喪失感。蒼馬は叫んだ。
慧は致命傷だがうっすらと意識があった。
「おい…お前…」
慧は絞り出すかのような声で蒼馬に語りかける。
「逃げろ…このままだとお前も死ぬ…!」
蒼馬は自分の服を破り、自らの腕を縛りながら言う。
「嫌です…!外にでてももっと強い禍霊がいる…!戦かっても逃げても死にます…!なら少しでも俺が時間を稼いで…!」
「無理だ…!現実的に考えろ!増援が間に合う可能性は低い!お前だけでも逃げろ!」
「じゃあ指くわえてみんなここで死ねってか!?そんなのいやだ…!俺は…!」
その時、蒼馬が思い出したのは亡くなった祖父の言葉。
「蒼馬。よく聞け。お前の人生はこれからまだまだ長い。人生とは選択の連続だ。故に数え切れないほど後悔を経験するだろう。だがこれだけは覚えとけ、どんなに惨めな死に様でもいい、逃げてもいい、隠れてもいい。ただ生き様で後悔すんな。正しく死ね。天国の俺に見せれるような"正しい死に方"をしてから死ね。」
「こえぇよ…いてぇよ…!死にたくねぇよ…!できれば家族とみんなと過ごしかたかった…!こんな痛い思いせずに過ごしたたかった…!逃げ出したい…!楽になりたい…!でも…!」
その時、蒼馬は拳を握り、その拳に力を込める。
「それでも…!」
そして蒼馬は禍霊へ拳を放つ!
「俺は俺としての"使命"を果たしてから死ぬ…!」
禍霊のエネルギー波と蒼馬の拳が絡み合う!
だが蒼馬の指の3本の感覚が消え、残った2本の指の拳が禍霊へぶつかった。
それは禍霊の顔面を捉えたが、禍霊は岩のようにびくともしなかった。そして禍霊は蒼馬の頭を掴む。
「ウーッ!」
視界が揺れて、世界が上下にひっくり返る。衝撃だけが何度も来る。
「あいつ…あのままだと死ぬ…!」
そう思うが、慧にはもはやどうすることもできない。
慧は、倒れたまま天井を見ていた。
――俺は、ここで終わりか。
そんな言葉が、頭をよぎる。
そして、意識が遠のく。
次の瞬間、慧の脳裏に浮かんだのは――“あの日の夜”だった。
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