第17話「魂を喰らう怪物」
ある夜、黒い影が動いていた。
魂を操る女の禍霊・魂縛と謎の眼鏡の男。
魂縛たちが向かっていたのは大分。
大分行きの特急列車で乗客全員が魂縛に殺された。
そして魂縛たちは蒼馬たちを探す旅へと出たのだ。
数日後――深夜。蒼馬は眠りについていた。
だが夢で祖父に蒼馬は警告を受ける。
「蒼馬。起きて、一階に行け。今すぐだ。大変なことになるぞ。じゃあな。」
そう言われた蒼馬は目を覚まし、一階へ向かう。
謎の咀嚼音の元をたどり、体育館の扉を開ける蒼馬。
鼻に伝わる、血の匂い。空気を震わすオーラ。
蒼馬は震え、冷や汗をかいた。
そこにいたのは人を喰らう魂縛の姿だった。
「お前…何者だ…?」
「あらあら声が震えてるわよ。わかる。貴方は怖がっているのよ。」
蒼馬は槍のB級業具・未穿を抜き、立ち向かう。
「かかってこい…!」
「あらあらやるのかしら?天城蒼馬だったかしら業臨を2連続で出した天才。お手並み拝見といきましょうか。」
――その時、立ち向かう蒼馬を影から見るものがいた。
「天城蒼馬…。彼にはあまり興味がないんだが、まあ私はゆっくりと見させてもらおうか。」
アジトで魂縛と話していた――謎の眼鏡の男。
そしてやつらが蒼馬たちの日常を赤く染めていく…。
蒼馬は魂縛を見つめていた。
(俺とやつとの実力差は明確だ…。むやみやたらに動けば…一瞬で殺される…!正面からじゃだめだ…!考えろ…!攻略しろ…!動け…!)
それを魂縛は察していた。
「あらあら突っ込んでこないのかしら。思いのほか賢いのね。どうせ戦っても一瞬だし、そうね。少しお話しましょうか。」
「…話だと?」
蒼馬は考える。
(慧さんたちはまだ気がついてない。なら多少なりとも時間は稼いだほうがいい。)
「…いいだろう。で、何の話だ?」
「フフ…。」
それを眼鏡の男は見ていた。
「なるほど…。恐らく氷室慧たちが来るための時間稼ぎといったところか。真正面から突っ込まないあたり、意外にも賢いね。
――ほんの少し興味が湧いてきたかもしれないな。」
魂縛は話し始めた。
「貴方。この一般人が何者かわかるかしら?」
「一般人…?」
「よーく見てみなさい。」
魂縛は床に転がる“それ”を指さした。
「あっ!?」
蒼馬は思い出す。
あの子は慧を怒らせたウルトラマンが好きな男の子だ。
「あの男の人木刀振り回しててかっけー!ウルトラマンべリアムみたい!」
鍛錬する慧に彼がそういうとそれを聞いた慧は「ウルトラマンのような幼稚な話ではない。」と怒っていた。
「この子がいきなり下に降りてきたのよ。貴方はなぜだと思う?」
蒼馬は察した。
恐らく、男の子は好奇心から下に行ってしまったんだ。
「この子は最期、なんて言ってたと思う?」
「もう…いい…。」
蒼馬が小さくつぶやくが魂縛は無視して続ける。
「男の子はね!
『ヤダーッ!ママーッ!ウルトラマン助けて!』だって!
フフフ…!思い出しただけで面白い…!最高の傑作よ…!」
蒼馬は未穿を強く握りしめた。
血管が張り裂けんほどに隆起し、目は血走っていた。
「もういい…お前は…もう黙れ…」
「ん?なんか言ったかしら?」
蒼馬の目の光が消えた。
「お前は…もうその人たちのことをしゃべるな…。お前は…存在してはならない生き物だ…。」
魂縛はそれを見ても尚、笑う。
「あらあら!怒らせちゃったかしら!ごめんなさいね。……嘘よ。最高に楽しいわ。」
蒼馬は地面を踏み込み、飛び出していた。
魂縛は悪魔の笑みを浮かべる。
(何の策もない特攻…!やはり激情型…!いける…!一撃で勝てる…!)
だがその時、蒼馬が制服の上着を投げる。
その黒い布は魂縛の視界を完璧に塞ぐ。
(ここで搦手…!面白いわ…!)
「魂改…!」
魂縛は自らの体に魂改を施す。
すると魂縛の魂が変形し、腕が刃になる。
その刃が制服を切り裂く。
「まっ、こんな搦手切り裂けば…。」
魂縛がそういいかけるも制服の先には蒼馬はいなかった。
(いない…!どこだ…!?)
その時、魂縛は第六感から振り返る。
(ここか…!?)
だがそれは間に合わない!
激しい突きが魂縛の首に向かう。
だが魂縛の首は固く、蒼馬の槍は通らない。
「首を鍛える。基本中の基本よね!さあ終わりよ!」
そういって魂縛は刃を蒼馬の体に向ける。
その時、蒼馬の足が跳ね上がる。
「うおー!」
蒼馬の蹴りが魂縛の腹を貫く。
「業臨…!」
赤い花火が散り、魂縛は吹き飛んだ。
「いい攻撃ね。でもこの程度じゃ。私は…。」
だがその時、魂縛は血を吐く。
「ゴフッ…!あれぇ…?おかしいわね…?なんで魂に響いてるのかしら…?」
その言葉を聞いた蒼馬は分析する。
("魂に響く"…。そういえば黒瀬さんが腕を破壊しても、一瞬で再生したと言っていた…。
俺の業臨だけ、さっきより“効いてる”。
――肉じゃない、もっと奥だ。)
その時、蒼馬は大きな声で言った。
「魂への攻撃以外は無効…!? 肉体は全部、再生するのか!?」
それを聞いた魂縛は口をハンカチで拭きながら言う。
「よくわかったわね。賢い男子は大好き。」
それを見た眼鏡の男は蒼馬に目を奪われていた。
「ほう…多彩な搦手であの魂縛にダメージを与え、そしてこの短時間で攻略法を理解した。加えて、恐らく魂を無意識に知覚している。天城蒼馬…思いのほか、面白いじゃないか。」
「まっ、それがわかったところであなたにはどうしようもない。もう搦手は全部出したでしょう?私の勝ちよ。」
事実、蒼馬は搦手を全て使い切っていた。蒼馬は必死に次の一手を考える。
(クソ…!考えろ考えろ…!!)
その時、魂縛は口から何かを吐く。
「オエッ…!」
漆黒をまとった宝石が、何十個も吐き出された。光を吸うように、黒い。
(宝石…!?何かまずい…!?)
「さてといってらっしゃい。お人形さんたち。」
魂縛がそういうと宝石は禍々しい化け物の姿へと変化した。
蒼馬に化け物たちが突っ込んでいく。
(大丈夫だ…!恐らくこいつらは量産型の雑兵…!業臨と未穿のコンボで倒せる…!)
蒼馬の拳が化け物のうちの一人を殴る。
「業臨…!」
紅い花火が散り、化け物のうちの1人を破壊した。
「よし…!次…!」
その時、化け物が喋った。
「ママ…アソボ…」
「えっ、」
蒼馬の手が止まる。その隙に魂縛は後ろに回っていた。
「それ私が特急列車で殺した子供よ!怖がってて面白かったわ!」
蒼馬は振り返る。
(まずい…!やられる…!)
(今なら出せる…!)
そう心の中で叫ぶと魂縛は拳を握りしめる。
「いける…!業臨…!」
魂縛が業臨を放つと黄色い花火が散り、蒼馬は吹き飛んだ。
「ゴフッ…!」
蒼馬は壁に突き刺さり、血を吐いた。
肋骨が折れる鈍い音が体内に響き渡る。
既に折れていた肋が、衝撃で内側を抉った。息ができない。
魂縛はゆっくりと歩み寄る。
「あれね。私の術式で魂を改造した改造人間よ。元々は人間だけど、私の魂改で禍霊みたいな“形”に変えられるの。
――貴方は優しいから人は殺せない。やはり私の予想通りだったわ。」
眼鏡の男はそれを名残惜しそうに見ていた。
「天城蒼馬。逸材だと思ったが、こんなに早く負けるとは、少し残念だね。まあいいか。」
「さあおしまい。」
そういって魂縛は蒼馬に触れようとした。
その時、扉が激しい音を立て、暴風と共に切り裂かれる。
魂縛は振り返る。
「あらお客さんかしら?」
その男は魂縛へ向かい3本の苦無を投げた。
そのうちの2つが魂縛に突き刺さる。
(早い…!一呼吸で3つ…!でも魂には響いてない…!いける…!)
「天城蒼馬ぁ!トドメだぁ!」
強引にトドメを刺そうとする魂縛の声が体育館に響いた。
だが後ろから魂縛を刀が貫く!
「刀…!?何者…!?」
「おらぁ!」
そして魂縛は凄まじい衝撃とともに雷を纏った打撃で吹き飛んだ!
魂縛の頭から血が出る。
「へぇ…。さらなるチャレンジャーと言ったところかしら?」
そこに現れたのは神代刀花、問馬鹿之助。
――そして氷室慧だった。
「蒼馬。すまん遅れた。」
「まだ終わってへん。自分の力が必要や。立てるか?蒼馬。」
「蒼馬!まだいけるよな!?全員でボコそうぜぇ!」
それを見た蒼馬は安心した表情を浮かべ、3人の手を借りて立ち上がる。
「ありがとう…みんな…!」
「4対1…!面白い展開になってきたわ…!」
ついに仲間全員が揃った。
――だが眼鏡の男は不気味に笑っていた。
「来たか。氷室慧、神代刀花、問馬鹿之助。だが4人集まったところで私たちには敵わないだろうね。
――さあ実験を始めようか。」
この夜、蒼馬たちの運命は大きく別れた。




