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紅の闇祓  作者: 青空ボーロ
第一章
14/17

第14話 「蛍の夜、交わした約束」

蒼馬たちは大分の風呂に入っていた。


疲れを癒す。安らぎの一時。


だがこの平和もずっとは続かない。


蒼馬たちはその幸せを噛み締めた。


「ほな。電気消すで。おやすみ。」


就寝時間になると刀花はそういって電気を消した。


蒼馬たちは寝ていた。


ゆっくりと眠りに落ちていく。


蒼馬は夢を見ていた。


夢の中で蒼馬は走っていた。


「ここが…俺の家…?」


蒼馬は赤く染まった自分の家にたどり着いていた。


「父さん!母さん!雪!おじいちゃん!」


蒼馬は扉を思いっきり開ける。


そこにいたのは赤に塗れる家族だった。


祖父が蒼馬に盃を投げつける。


「えっ、」


蒼馬は驚いた。痛かった。


「この馬鹿野郎が!テメェだけ生き残りやがって!俺たち死んだやつらの気持ち考えろ!」


祖父が激しく怒鳴る。他の家族も怒っていた。


「蒼馬…!お前だけは許さない…!」


父が蒼馬を睨みながら怒る。


「なんで私が死んだ時、助けてくれなかったの?なんで?」


妹の雪はそういいながら蒼馬の服を引っ張る。


「蒼馬……そんな顔、しないで……」


母は泣きながら首を振った。


「そんな…みんな…!」


「うわぁぁぁ…!」


蒼馬は叫んだ。


――何も聞こえない。


そして蒼馬は飛び起きた。


「…あれ?」


蒼馬は混乱するが、状況を理解する。


「そうか…。今のは夢か…。」


そうつぶやくと布団を握りしめる。


扉が開く音がする。


「蒼馬。いきなり叫んでどうした?」


現れたのはランタンを持った慧だ。


「慧さん…。すみません。悪夢をみてしまって。飛び起きてしまいました…。悪夢のせいで眠気が吹き飛んで、眠れそうにもありません。」


「…そうか。俺も中々眠れなくてな。少し話すか。」


そういって慧は蒼馬の部屋のベランダを開けた。


ベランダには机と椅子があった。


観葉植物もあり、とても美しい場所だった。


田舎の夏の夜の冷たく、心地よい空気が蒼馬を包む。


外にはたくさんの山と川、蛍が光っていた。


「綺麗ですね…。」


「ああ…。田舎の夜景も悪くない。」


「慧さんはどこで育ったんですか?」


「俺は元々福岡に生まれ、育った。


都会だが自然が近い場所だった。


だが大分ほど自然にはあふれていなかったな。


…俺は今まで任務ばかりだった。


――蒼馬に会うまでずっと禍霊を狩ることばかり考えていた。


だから旅行なんて家族が死ぬ前の幼少期にしかしてない。大分なんてはじめてだ。


――だが唯一…家族以外で旅行にいったとすれば…あの時だな。」


「あの時…?」


「ああ。まだ百花が生きていたあの日、特別に休みをとって、黒瀬さんと百花と旅行にいったんだ。

その時の旅行は本当に楽しかった。

だから今も旅行に来てるみたいで少し楽しい。」


蒼馬は少しこれを聞くか迷った。


触れにくい話題だからだ。


だが蒼馬の考えの根底には「思い出さないと死者が可哀想」という考えがあった。


それに加え、それを慧に話している。


なら聞いてもいいと考え、蒼馬は慧に聞いた。


「――百花さんってどんな人だったんですか?」


「百花は…美しい少女だった。

優しくて思いやりに溢れていた。

俺の誕生日や黒瀬さんの誕生日は絶対に忘れずに毎回、丁寧にお祝いしてくれた。

――あと、水族館が大好きだったんだよ。」


「水族館?」


「ああ。2人でよく水族館にデートで行った。そのことを少し思い出してきたよ。」


慧は語り始めた。


任務がない休みの日、2人は水族館へ言っていた。


「綺麗だね。」


「そうだな。」


「私ね。魚が大好きなの。自由に海を泳いで、『いいなー』って思うの。楽しそうに魚が泳ぐ姿を見ると私も嬉しくなる。」


百花が水族館が好きな理由はこれだった。


「特にね。熱帯魚が好き。鮮やかで綺麗だから。」


それを聞いた慧はいった。


「そうか。なら熱帯魚いつか飼うか。」


「えぇ!?いいの!?お金かかるよ!?お世話も大変!慧も仕事で忙しいし!大丈夫!?」


「ああ。大丈夫だ。なあ百花。もし俺が一人前のS級術師になったら。

――俺が好きなだけ魚を飼わせてやる。

S級になれば給料も高いしな。水族館並の大きさの水槽も買えるだろ。

S級になって、一生2人で暮らせる金を貯められたら。

――その時は禍断隊はやめて一緒に魚でも飼って静かに過ごそう。」


その言葉に百花は笑った。


「慧。ありがとう。大好き。」


「俺も百花が好きだ。」


その話を聞いた蒼馬は微笑みながら言う。


「百花さん。やっぱり慧さんが選ぶんですからとても素晴らしい人だったんでしょう。」


「そうか?俺、そんなに人を見る目があるように見えるか?」


「ありますよ。それに基本、いい人にはいい人しかくっつきませんから。」


「蒼馬。お前は本当に精神が成熟している。ここに来てから成長したな。」


「…そうですかね?」


「ああ。こうして話してると最初に会ったときのことが昨日のことのように思い出されるよ。」


蒼馬と慧の出会いははっきりいって最悪だった。


「グアーッ!」


蒼馬が右目を失い。叫んでいた時に慧がそれを助けた。


「禍霊ってなんですか?」


「これだから無知は面倒なんだ。理解できないならば黙っていろ。」


初対面からこの調子だった。最初の蒼馬と慧は最悪の仲だった。


だが蒼馬の言葉と行動が慧を変えた。


「これからは…仲間だ…!」


「これから"も"ですよ。」


あの殴り合った後の対話が終わった瞬間、慧は泣いた。


それほど慧の心に蒼馬の道徳が響いた。


そしてやはり蒼馬が一番変わったのはまさに「覚悟」だ。


「オエッ!」


戦おうとすると蒼馬は胃の中身を出したり、足が震えて戦えなかった。


それを慧は冷たくあしらった。


「引っ込んでろ…!」


蒼馬を投げ飛ばし、足手まといとし、拒絶した。


だが蒼馬は前を向いて、少しずつ成長した。


今ではあのドラゴンの禍霊に立ち向かえるほどに勇敢な少年になった。


「蒼馬…。最初お前を見たとき『コイツは戦えないな。』と思った。

――お前がここまで戦えるようになるなんて。俺も予想外だったよ。」


「俺も最初は慧さんのこと

『なんて冷たい人なんだ。』とか『この人とは会話が通じない。』と思っていました。

――でも心のどこかでは優しさを持ってることは知ってましたよ。」


「流石だ…。実はな蒼馬。

俺がお前に冷たい態度をとって、投げ飛ばしたりしたのは、お前に『死んでほしくなかった』からだ。

戦えないのに前に出たら、死ぬに決まってる。

――俺はこれ以上、『守れなかった』という虚しい思いはしたくなかった。」


「知ってましたよ。

――だって慧さんは本当は優しい人ですから。」


それを聞いた慧は大きく笑った。


「蒼馬。本当にすごいよお前は。」


「ありがとうございます。」


蒼馬も微笑んだ。


「蒼馬。もしもこの戦いが終わったらお前は何を望む?」


「そうですね…。

――俺は医者になりたいんですよ。」


「ほう。だがそういう仕事は危険が伴うぞ。」


「わかってますよ。医者になったら、手術を失敗したりして、人を死なせてしまうかもしれない。

そのたび、俺は『救えなかった』という虚しい気持ちをするかもしれない。

…でも、俺は妹がいたんですよ。」


「妹…。言っていたな。『雪』だったか?」


「はい。俺がまだ小さかったころに生まれて、ともに過ごしてきたんですが、死んでしまったんです。


今でも理由はわかりません。両親は知っていたのかもしれない。


でも幼い子相手でしたから、あえて話さなかったんだと思います。


両親が亡くなった今、雪の死の真相は本当に闇の中です。


その時の両親の顔はわすれられません。とても悲しんでいた。


禍霊だけじゃない事故や病気で…なんらかで人が死んだら、残された人たちは悲しいんですよ。


俺も雪や両親、祖父が死んだ時、とても悲しかった…。


だから俺はそういう人の命を救いたい。だから医者になりたいんです。」


「…そうか。医者になるなら勉強しなきゃだめだろ。なのにこんな意味の分からない戦いに巻き込んで申し訳ない。」


「いいんですよ。慧さんのせいではないです。それにこの戦いが終わったら勉強すればいい。

――その時は医者になってたくさんの人を救いたいです。」


「ああ。その未来を待ってるぞ。未来の名医。」


「はい…!」


2人はグータッチを交わした。


その後、蒼馬はもう一度眠りについた。


だが慧は少しだけ蒼馬より長く起きていた。


慧はペンと紙を持ち、机に向かった。


「さてと…折角だから黒瀬さん宛の手紙でも書くか。」


そういって手紙を書き始めた。


「黒瀬さんへ。


お元気ですか。しばらく会えてませんね。


黒瀬さんの元を離れるのは親の元を離れたようで少し寂しいです。


向こうで天城蒼馬という少年と禍断隊の増援の神代刀花と問馬鹿之助に出会いました。


最初の蒼馬との出会いは禍霊により家族と右目を失った状態でした。


その禍霊の首を俺が苦無で貫いて、彼を保護しました。


最初の蒼馬は敵を見て、吐いたり、震えたりしてまさに『戦えない少年』でした。


俺はそんな蒼馬を戦力外と判断し、彼の『禍霊』や『禍断隊』に関する質問を全て無視し、『戦わなくていい』と何度も伝えました。


今思えば3つも下の子供に対し、冷たい態度だったと反省しています。


俺はA級禍霊に敗北し、限界が来て、倒れました。


その時、確かに見たんです。A級禍霊に立ち向かう蒼馬の姿が。


その戦闘で蒼馬は右腕と左手の指を失いました。


そして『痛い』や『死にたくない』と叫びました。


――それでも彼はA級禍霊に立ち向かいました。


結局、歯が立たず、増援の刀花と鹿之介がそれを倒しましたが、あの時点で彼の心には僅かに立ち向かう覚悟の炎が灯っていました。


俺は刀花と鹿之介にも冷たい態度をとり、一時期、俺たちは分断されていました。


戦えない蒼馬、冷たい俺、まともに戦えるのは刀花と鹿之介くらいでしたから。


それからしばらくした時、俺は一般人に挑発され、恥ずかしいことに手を出してしまいました。


その時、蒼馬が止めに来たんです。


結果、蒼馬とは殴り合いになりましたよ。それもお互い血塗れになるほどの。


俺はその時、蒼馬に見捨てられたと確信しました。


でも彼は俺を見捨てませんでした。俺に向き合い。俺と話をしてくれました。


その時、彼の亡くなった妹の話を話してくれて、蒼馬は言ったんです。


『別れはきっと出会いのための過程です。別れから学ぶこともある。だから別れを噛み締めて、新しい出会いを大切にしたいんです。ここに来て、たくさんの仲間に出会えました…。刀花さん、鹿之介さん、そして慧さん!』


そう彼は俺のことを仲間として認めてくれていた。


『これからは仲間だ…!』


俺がそういうと蒼馬は


『これから"も"ですよ。』


と言ってくれました。


そう、こんなに冷たい態度をとった俺を最初から仲間だと思ってくれていた。


蒼馬はとても優しい心の持ち主です。


まるで百花のような…。


だから今度、黒瀬さんにも会わせたいです。


勿論、刀花と鹿之介も。


また生きてたら会いましょう。黒瀬さん。


氷室慧より。」


手紙を書き終えると慧は眠りについた。


眠れない悪夢を見た夜、されど慧との対話の夜。


その夜はどこまでも儚く、美しかった。

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