第13話 「湯けむりの夜」
蒼馬、慧、刀花、鹿之介の4人はドラゴンの禍霊と戦闘になり、力尽きて倒れた蒼馬を保護していた。
蒼馬が目を覚ますとそこには焚き火の火で上裸で傷を焼く慧と鹿之介の姿があった。
そこで蒼馬は慧たちに2連続で業臨をだしたことを賞賛された。
そこで業臨の色と強さが炎色反応とほぼ同じということを慧から教わる蒼馬。
そして黒瀬太三は白い業臨を5連続出したことと一条凌駕という男がトライデントという業臨が出にくい武器で紫の業臨をだしたことを知らされた。
…そしてその一条凌駕は完全に味方ではない。
ただし敵ともいえない。
いつ凌駕が蒼馬たちを襲ってくるかはわからない。
だが最凶の敵を前にしても蒼馬は言った。
「もしその上層部が罪なき人を苦しめているなら…俺は…必ずその上層部を潰します…!業術は、業を背負わない人間を守るためにある。俺は業を力として悪用する奴を、絶対に許さない…!」
その覚悟を慧たちは認めた。
慧は焚き火の火を消す。
だがそのとき、鹿之介の行動と刀花の一言で蒼馬たちはずっと風呂に入ってないことに気がつく。
そして刀花と鹿之介に引っ張られ、蒼馬たちは風呂に入る。
蒼馬たちは気がつけば服を脱ぎ、湯船に浸かっていた。
「全員裸だぁ〜ぜぇ〜!これが『裸のド付き合い』ってやつだぁ〜ぜぇ〜!」
鹿之介のアホな言葉に慧はツッコミを入れる。
「それを言うなら『裸の付き合い』だ。殴り合ってどうする。」
「そうだったぁ〜ぜぇ〜!まあどっちでもいいぜぇ〜!
それじゃあ!俺もはいるぜぇ〜!」
そういって鹿之介は風呂に飛び込んだ。
「プハッ!水しぶきが!」
「鹿之介…ゆっくりはいれ。プールじゃないんだ。」
「おぉ!すまんすまん!」
鹿之介は頭をかきながらそういった。
「てかよぉ!ここって俺たちしかいねぇんだよな!?」
「はい。貸し切りですよ。」
「じゃあ泳ぎ放題じゃねぇか!泳ぎまくるぜぇ〜!」
鹿之介は海のように風呂を泳ぎはじめた。
「ったくあいつは小学生レベルだな。」
しかし慧は意外にも笑っていた。
「フッ…。だがそれも悪くないかもな。」
泳ぐ鹿之介を傍に蒼馬と慧は静かに疲れを癒していた。
「疲れが癒えるな。しばらく入ってなかったせいかいつもより気持ちよく感じる。」
「そうですね。」
「ここは大分県だ。温泉が名物だからな。
お前も大分で育ったはずだ。別府温泉なんかにいったとこはあるんじゃないか?」
「…よくいきましたよ。
――そのときは家族と一緒に。」
それを聞いた慧は謝った。
「…すまん。思い出させないほうがいいことを思い出させてしまった。」
「いえ。いいんですよ。
――寧ろ思い出さないと家族が可哀想ですから。」
「…どういうことだ?」
「以前、祖父からよく聞いていたのですが、『人が死ぬ瞬間は二度ある』という話です。
一度目は『肉体的に死を迎える』こと。
二度目は『その人を覚えてくれていた人たちに忘れられてしまう瞬間』。
思い出してあげないと忘れてしまう。
そのときは『絶対に忘れない』と思っても、10年、20年、30年…と時が経てばその人に関する記憶はどんどん薄れていきます。
その人の仕草、口癖、声、顔…徐々に忘れていって、やがてその人の全てを忘れてしまう。
――だから思い出してあげないと家族が可哀想なんです。」
それを聞いた慧は目を見開いた。
慧が最初に思い浮かんだのは禍霊により殺された家族のことだ。
「慧!生まれたわ!この子は私たちの宝物よ!」
「パパー!ママー!」
「ハハッ!慧!こっちにおいで!」
そして次に思い出したのはかつての恋人、百花だ。
「慧君。これからは家族だよ。」
慧は今まで彼らのことをできるだけ思い出さないようにしていた。
思い出すと悲しくて、悔しくて、どうしようもない気持ちになるからだ。
だが蒼馬の今の言葉で慧の考えは変わった。
「お前はすごいよ。蒼馬。俺の考えを二度も変えた。勿論、いい意味でな。」
それを見た蒼馬は優しく微笑んだ。
「当然ですよ。貴方は俺の命の恩人ですから。」
慧も微笑んだ。そこはどこまでも優しい空間だった。
そのとき、刀花も1人で女湯にいた。
湯気の向こうに、誰もいない。
「フゥ…しみるわぁ。ホンマに疲れがとれるなぁ。これ。普通の温泉とはやっぱちゃうわ。大分田舎だと思って舐めてたけどホンマすごいわ。」
安らぎの一時、刀花も静かに疲れを癒やしていた。
一方、男湯では鹿之介が騒ぎ出す。
「泳ぐの飽きたぜぇ〜!サウナいくぜぇ〜!蒼馬たちもこいよ!」
鹿之介は勢いよくサウナに入った。
「サウナか。俺も父とよくいきましたが、整いますよ。いきましょうか。」
「ああ折角大分に来たんだ。楽しまないとな。いこう。」
そういって蒼馬と慧も鹿之介についていった。
「サウナあったかいぜぇ〜!」
蒼馬と慧がサウナに入ると、そこには騒ぐ鹿之介がいた。
「おっ、テレビニュースやってんのか!?アニメに変えられねぇか!?」
「無理に決まっているだろう。」
「なんだよ。ニュースつまんねぇ。」
「今起きていることを知ることも大事だ。特に今は禍霊が大量発生しているからな。状況把握は命に関わるぞ。たまにはニュースを見ろ。」
「慧は本当に真面目だぁ〜ぜぇ〜!あと話がムズいぜぇ〜!」
するとニュースの画面にアナウンサーが現れる。
「ニュースです。大阪府・大阪市に現れた大量のA級禍霊が全て祓われました。
祓ったのは黒瀬太三さん。88歳。大きなハンマーで禍霊を破壊し、その場にいた全員を助けたということです。VTRをどうぞ。」
それを見た3人は驚いた。
「黒瀬太三…慧さんの師匠。」
「黒瀬?前、慧が言ってたやつか。これってそんなにすげぇーのか?」
鹿之介はそういうが、次の瞬間に流れた映像により、鹿之介はそれを思い知ることになる。
「フン!」
黒瀬が地面を踏み込むと同時、ほぼ一呼吸に10体の禍霊を破壊した。
蒼馬は初めて彼の動いている姿を見た。
(早すぎる…!全く目で追えない…!これが黒瀬太三…S級業術師の実力…!)
鹿之介も関心する。
(舐めてたぜ…どうせ爺さんだからって…。でもバケモンじゃねぇか。なんだこの動き。意味わかんねぇ…。)
そして黒瀬が出したのはやはり業臨。
「業臨…!」
青い花火が激しく散る。空気を切り裂く轟音が響き、灼熱のような熱が発生した。
それにより大阪の禍霊たちは祓われた。
「……青か。黒瀬さん、ついに“青”を安定させてるのか」
慧はそうつぶやく。慧の言う通り既に黒瀬は青い花火を安定させていた。
「…慧さん。A級禍霊って俺が右腕と左手の指を失った時の禍霊と同じ等級ですよね。」
そう蒼馬はここにきたばかりの時、A級禍霊と体育館で戦闘になった。
そのとき、慧は腹を貫かれ、致命傷を負い。蒼馬は右腕と左手の指を失い。残り2本の指の拳もやつには全く届かなかった。
「…そうだ。あとあのA級はA級のなかでは弱いほうだ。
A級とはいえ所詮田舎のA級。大阪のA級とは比べものにならん。
地方で観測されるA級と、都市部で膨れ上がったA級は“質”が違う。
同じ等級でも“密度”が違う。」
「じゃあ黒瀬さんからしたらあんなA級禍霊なんて一瞬で…。」
「やべぇ…。あの爺さん強すぎるだろ。」
鹿之介と蒼馬は黒瀬との実力の差に圧倒された。
蒼馬は業臨を出して、自らが天才だと少し図に乗っていた。
だがそれは井のなかの蛙。
所詮、それは大分という狭い田舎の中での話だった。
「……俺、まだ何も届いてない。」
蒼馬の脳裏に、あの槍…未穿の重さがよぎった。
手に取ったときの、業が整う感覚。
——だが今、手の中には何もない。
「……俺、まだ何も届いてない。」
蒼馬はそういってテレビへ向かい、拳を突き出した。
それはまるで目の前の黒瀬というまだ届かない存在を目指すかのように。
「よく見ておけよ蒼馬、鹿之介。もしも凌駕さんたちを相手にするならこれくらい目で追えるようになるのが最低ラインだ。」
「…はい!」
「応…!」
2人は覚悟した。「必ず強くなる」と。
そして3人はサウナをでて、水風呂に入る。
またもや鹿之介が水しぶきをあげながら飛び込む。
「プハー!整うぜぇ〜!」
「プハッ!鹿之介さん!水しぶき!」
「体が冷たいのに水しぶきで顔まで冷たくなったぞ。」
「冷てぇぇぇ!!」
そういって鹿之介は水風呂からすぐに出た。
「ったくうるさいやつだ。」
その声は、意外なほど柔らかかった。
水風呂を出た3人は体を洗う。
「蒼馬!背中洗ってくれよぉ!」
「えぇ!?背中ですか!?まあいいですけど。」
「俺も蒼馬の背中洗ってやる!背中洗っこだぁ〜ぜえ〜!」
「い、いや俺はいいです!」
「遠慮すんな!蒼馬!」
結局、2人は背中を洗いあった。
風呂を出ると既に刀花が待っていた。
「遅いなぁ自分ら。」
「寧ろ刀花が早いだぁ〜ぜぇ〜!」
「ワイは早風呂なんや。さてと牛乳でも飲むか!」
そういって4人は自販機で冷たい牛乳を買った。
「プハーッ!整うぜぇ!」
「やっぱ風呂終わりはキンキンに冷えた牛乳に限るでぇ!」
「…うまいな。体に染み渡る。」
「ですね。」
刀花は鹿之介の肩をたたく。
「さっ、部屋戻ってゲームでもしようや!」
「まだストーリークリアできてないぜぇ〜!いくぜぇ〜!」
そういって刀花と鹿之介は走る。
それに蒼馬と慧はついていく。
「全く騒がしいやつらだ。」
「でもいいチームですよ。俺たちは。」
「…そうだな。」
その日は禍霊は現れなかった。
「蒼馬たちもやろうや!」
「そうだぜぇ!やろうぜぇ!」
「ゲーム普段あんましないからわからないかもな。」
「大丈夫です!俺たちが教えますから!やりましょう!」
4人はその日はずっと楽しくすごした。
今までの残酷を忘れられるほどに。
――朝が来ればまた戦いが始まる。
蒼馬たちはこの束の間の幸せを噛み締めた。




