第11話「覚悟の一撃」
和解した蒼馬、慧、刀花、鹿之介の4人は改めて仲間として動き始める。
和解はまだ完全とはいえない。
それでも一歩ずつ蒼馬たちは前に歩いていた。
そして避難所に荷物が送られてくる。
宛先は慧、送り主は慧の師匠である黒瀬からだった。
中に入っていたのは2つの業具。業を持たぬものでも禍霊に攻撃を与えることができる特殊な武器だ。
それは刀の業具である「静断」と槍の業具である「未穿」だ。
静断の効果は業のブレを抑え、感情が荒れるほど切れ味が落ちるというもの。
未穿の効果は業臨を起こした瞬間だけ“異常に貫通力が増す”というものだ。
未穿は蒼馬が持ち、静断は慧が持った。
それぞれが武器を手にしたその時、空気を震わすオーラを纏う禍霊が現れる。
今回の蒼馬は吐かず、震えず、立ち向かった。
「……まだ届かない。
でも——今度こそ届かせる!」
そして始まる命懸けの試練。
「グオーッ!」
禍霊が咆哮を挙げると同時に炎を放つ!
蒼馬たちはそれを躱すべく散らばった。
周りに凄まじい熱気が飛ぶ。
(なんて熱気…!肺が焼けそうだ…!)
足裏が焼ける感覚。空気が重く肺に沈む。
その時、慧が冷静に敵を分析する。
「策なく突っ込むわけにはいかんな。近づけばあの鋭い爪と巨大な尻尾で死ぬぞ。」
「じゃあどうするんだぁ〜ぜぇ〜!?」
「鹿之介。確かお前は雷のビームを放てたはずだ。
俺も風で遠距離攻撃ができる。やつを遠距離で錯乱させ、隙を見て蒼馬と刀花で攻めろ。」
蒼馬と刀花は返事をする。
「はい…!やらせてもらいます…!」
「やったるわ!任せときぃ!」
そして慧は前に出る。
「化け物!こっちだ!」
「キエーッ!」
禍霊は慧に向かって、凄まじい咆哮を放ち、その鋭い爪を振り下ろす。
(早い…!受けるしかない…!)
激しい金切り音と火花と共に慧はそれを受けた。
だが慧の顔がこわばる。
(なんて力…!まずい…!)
「キエーッ!」
禍霊の尻尾が慧に迫る!
「しま――」
慧は終わりを悟った。
「オラァーッ!」
しかし鹿之介が間髪入れずにそれを受けとめた。
「鹿之介…!お前…!」
「慧!その武器!心を落ち着かせればスパーッっていくんだろ!それでズバッとやっちまえ!」
「!?」
慧は鹿之介の言葉で黒瀬からの手紙の内容を思い出す。
「効果は業のブレを抑え、感情が荒れるほど切れ味が落ちるぞい。
ヒントは『怒りでは斬れない』じゃ。
――いかに感情を沈め、落ち着いて切るか。これが鍵になるぞい。」
(そうか…逆を言えば…怒りを抑えれば切れ味は増す…!俺は怒っていたのか…!)
思えば慧は禍霊とたたかう時、いつも怒りがあった。
禍霊をみるたび、家族や百花の死を思い出し、怒りのままにやつらを切り捨てた。
(怒りを抑える…深呼吸…。)
「フゥー…」
慧は呼吸を整え、刀に業を込めて技を放つ!
「竜巻神速斬り(たつまきしんそくぎり)…!」
慧は疾風と共にそれを斬る。
するとそれはやつの鋭い爪を切り裂き、足を裂いた。
「キエーッ!」
禍霊は痛みに思わず、叫んだ。
それにより鹿之介の方の尻尾の力も弱まる。
「今だ!雷魂滅撃!」
鹿之介のバッドが雷を纏い、激しい一撃が尻尾を野球のボールのように吹き飛ばす。
「やるじゃねぇか!慧!」
鹿之介は笑いながらそういった。
「やるやんけ!慧!」
「今がチャンスです!」
それを見た刀花と蒼馬が飛び出す。
その時、禍霊は鋭い目つきで蒼馬を見つめる。
蒼馬の心拍数が上がった。背中がかすかに震える。
(やっぱり怖い…!でも…!)
「今の俺はあの時とは違うぞ!禍霊!
もう怖がらない!」
蒼馬は真っ直ぐと禍霊を見る。そして覚悟と魂を込め、一言叫ぶ。
「――戦うと決めたから…!」
蒼馬は禍霊へ槍を突き刺す。
刀花も刀を突きだした。
「うおー!」
「一発で沈めたる!」
だがやつの硬い鱗はその2つの突きを押さえた。
「くっ…!通らない!」
「硬すぎやろ…!バケモンが…!」
――禍霊が口を大きく開けた。
(まずい…!俺たちを食べる気だ…!どうする…!?)
無論、慧と鹿之介も向かっていた。
「クソ!やべぇ!雷鳴一…」
「やめろ!」
雷のビームを放とうとする鹿之介を慧は止めた。
「なんでだぁ〜ぜぇ〜!?」
「今撃てば蒼馬たちを巻き込む。やつめこの角度を狙っていたんだ…。優秀だ!」
「ちっ…!でもどうすんだ!?距離遠いぜ!?」
「くっ…!蒼馬ぁ!」
その時、蒼馬は心の中で叫んだ。
(なら…!一か八か…!)
直後、蒼馬は槍を捨て、拳を握りしめる。
「うおー!」
次の瞬間、その拳が禍霊の歯に当たる。
激しい鈍い音が響く。
(蒼馬…!なんのつもりや…!)
蒼馬の拳と禍霊の歯の間に激しく紅い花火が散る!
「業臨…!」
なんとこの局面で蒼馬は業臨を放った!
それは禍霊の歯が一瞬で壊れた。
「あの歯を…!?」
刀花は驚く。
慧と問馬も驚いた。
「蒼馬…あの威力の業臨は初めてみたぞ…!」
「蒼馬すげぇー!かっけー!」
禍霊は白目をむいた。
「やったかいな!?」
「やったか!?」
全員は勝ちを確信した。
――まだ終わらない、禍霊は最期の抵抗を見せる。
「ぐおおおぉ!」
そう叫びながら喉奥から炎を放とうとする。
「クソ…!あかん…!」
しかし蒼馬はその時、"世界"が見えていた。
(やっぱりだ…業臨を放つと…業の流れが見えてくる。いける…!)
刹那、蒼馬は禍霊の鼻を殴る。
「業臨…!」
またもや痛みで禍霊が怯み、炎の攻撃の発射が遅くなる。
「まだ炎の攻撃は止まってない…!まずい…!やられる…!」
かわそうとする蒼馬だが業臨を2回出したツケがここで回る。
(やばい……視界が白い。業が乱れて、手が痺れる……!次はもう出ないかもしれない)
だが刀花は笑っていた。
「ナイスや!蒼馬ぁ!後は任せときぃ!」
そのまま禍霊の口を触る。
「逆相縫合…!」
刀花が叫ぶとともに禍霊の口が縫われる。
刀花の口が鉄の味で満たされる。
「ゴフッ…!このでかい口縫ったんや…!そりゃこうなるわ…!」
「刀花さん!」
「気にせんでいけぇ!今しかない!」
蒼馬は未穿を拾う。そして黒瀬の手紙を思い出す。
「効果としては特殊能力は特にないんじゃが、業臨を起こした瞬間だけ“異常に貫通力が増す”ぞい。
ヒントは『まだ届かない。でも、いつか必ず届く』じゃ。」
(今の俺なら…!この槍の効果を引き出せる…!乗せろ…!全身に…!)
「うおー!」
蒼馬が禍霊の頭に未穿を突き刺す!
禍霊は暴れ始める。そして残った3つの爪が蒼馬に飛ぶ。
(まずい…!対処できない…!)
だがその時、3つの金切り音が蒼馬の耳にひびく。
それは禍霊の攻撃を防ぐ。慧、刀花、鹿之介の3人だった。
「蒼馬!俺等が抑えるやれ!」
「蒼馬!はよやったれ!」
「蒼馬ぁ〜!かっこよく決めちまえよぉ〜!」
「みんな…!ありがとう…!」
蒼馬は考える。
(腕の力だけじゃだめだ…!
――頭から爪先まで…!全ての筋肉を使え…!)
「うおー!!!」
蒼馬は魂から叫んだ!禍霊の頭に槍が食い込む!
その槍は紅の炎を纏っていた。
鈍い音を立て、ついに禍霊の頭を貫いた。
禍霊は口を縫われている。叫び声もあげられずに祓われた。
「ハァハァ…ハァハァ…」
蒼馬は息切れが止まらなかった。
心臓の音と呼吸の音がうるさい。視界も霞む。
――でも霞む視界でも確かに見えた。消滅していくやつの姿が。
消えていく禍霊を見た慧、刀花、鹿之介は喜んだ。
「勝った…!」
「やったでぇ〜!」
「おっしゃ!やったぜぇ!蒼馬ぁ!って蒼馬?」
鹿之介の言葉に蒼馬は返事をしなかった。なぜなら力尽きて寝ていたからだ。
「蒼馬ぁ!?」
「蒼馬!死んじまったか!?」
慧が脈を図る。
「…いや生きている。恐らく疲労で倒れているだけだ。」
刀花と鹿之介は安心する。
「よかったー!」
「蒼馬が死んだらどうしようかと思ったわ!」
「うぅ…よかった…。蒼馬が死んだらやばかったぜぇ…。」
刀花は蒼馬の額に手を当てて、ふっと笑った。
「……熱い。ほんまによう頑張ったな。」
刀花は鹿之介と慧の肩を組んだ。
「まっ!とにかく生きててよかったがな!今回も生き残れた!それだけで十分やで!」
「フッ…そうだな。」
「応!次もみんなで勝つぜぇ〜!」
そして3人は蒼馬を連れて、体育館に戻った。
その3人の背中はいつにも増して大きくなっていた。




