第10話「静寂の宝物」
蒼馬と慧。
真面目な少年と冷たい男の対話が始まった。
これまでの慧の行動を振り返り、「貴方は優しい」と主張する蒼馬。
蒼馬は慧を決して見捨てなかった。
その姿がかつての恩師、黒瀬太三と重なった慧は涙をこぼし、蒼馬に感謝した。
「これからは仲間だ…!」
そういう慧に蒼馬は「これから"も"ですよ。」と優しく微笑んだ。
そのあと蒼馬が向かった先は刀花と鹿之介の元だった。
そこには楽しそうにゲームをする2人の姿があった。
「アホー!相手隙だらけなんやから通常攻撃じゃなくて横スマ打てやぁ!」
「横スマ?なんだそれ?」
その時、蒼馬が部屋に入る。
「あの…!」
刀花と鹿之介は振り返る。
「おぉ!蒼馬やっときたか!ちょうど鹿之介が横スマわかっとらんから教えてやってや!」
「蒼馬!横スマってなんだぁ〜!?」
「…ごめんなさい。ゲームは後です。」
「ん?なんでや?スマブラの気分ちゃうかったか?フォトナに変えるか?」
「いやそういうわけではなく…。先程のことなんですが――」
すると蒼馬は慧との対話の内容を伝えた。
「あいつ…嫌なやつやと思ってたけどそんなことあったんか…。可哀想なやつやな…。」
「なんかよくわからねぇけど…可哀想なやつだぜ…。それだけはわかったぜ…。」
2人は慧に同情した。
「慧さんはとても反省していました。もう大丈夫だと思います。拘束を解いてあげませんか…?」
蒼馬の提案に2人は賛成した。
「せやな。蒼馬が言うんやから間違いないやろ。ええよ。拘束とくで。」
「応!ロープほどいてやるぜぇ〜!」
そして3人は慧の元へと向かった。
「慧さん。」
「蒼馬!」
「連れてきました。刀花さんと鹿之介さんです。2人から許可を得たので拘束を解きます。」
そういって、蒼馬は拘束を解いた。
「蒼馬…本当にありがとう。」
刀花は慧の変化に驚く。
(コイツ…さっき暴れてた時とは空気が明らかにちゃう。
コイツの口から「ありがとう」やと…?ほんまに変わったんやな…。
――蒼馬。この男を変えるなんてやるやんけ。)
鹿之介は手を慧の肩においた。
「慧!お前雰囲気変わってるぜぇ〜!
なんかこう!あれだよ!あれ!『ドカーッ!』って感じでよ!」
「ど、どういう意味だ?」
「すまんな慧。コイツアホすぎて説明下手くそやねん。」
「だぁ〜ぜぇ〜!」
「あとこれ大事なんやろ。返すわ。」
刀花は慧に刀を返した。
「ありがとう。刀花。」
「ええんやで。」
慧の目が震え、唇を噛み締める。
重々しく、ゆっくりと慧の口が開く。
「あの……3人とも……!」
慧は膝をつき、深く頭を下げた。
「あんな態度をとって、本当にすまない……。
蒼馬のおかげで、俺は大切なものを思い出せた。
——仲間として、受け入れてくれないか」
刀花は息を吐き、肩をすくめた。
「しゃあないな。完全に許すのはもうちょい先や。
でも——今は一歩でええ。」
鹿之介は笑う。
「ん?俺は最初から仲間として受け入れてたぜぇ!これからもよろしくだぁ〜ぜぇ〜!」
すると慧は頭を上げた。
「本当に…ありがとう…。」
その時、学校に誰かが来る。
「お届けもので〜す!」
それは禍断隊の連絡員だった。
「お届け先は氷室慧さんですね。黒瀬太三さんから届いています。」
「黒瀬さんから…?」
「では私はこれで。」
そういうと連絡員は過ぎ去って行った。
「あの人…外は禍霊だらけなのに大丈夫なんですか…?」
「ああ。彼も禍断隊の関係者だ。
その辺りは覚悟しているだろう。
それにあれが連絡員の任務だからな。
それより…黒瀬さんだと…?何が届いた…?」
慧がゆっくりと箱を開けた。そして中には手紙と新品の光り輝く槍と刀があった。
「これは…!?」
鹿之介が騒ぐ。
「おぉ〜!かっけー!これなんだ!?」
慧は説明する。
「これは『業具』と呼ばれる武器だ。」
「『業具』?」
「業具とは、業を宿すことで禍霊に干渉できる武器だ。業を扱えない者でも、最低限のダメージは通る。」
中にあった手紙を慧は手に取る。
「黒瀬さんからの手紙…。」
蒼馬もそれを見る。
(黒瀬太三…。慧さんの師匠だ。)
黒瀬からの手紙にはこうかかれていた。
「慧。久しぶりじゃのう。元気か?
ワシもそっちにいこうかと思っとるんじゃが、上層部に止められていけんくてのう。
でもワシは慧のことを信じている。
そして必ず慧には死んでほしくない。
じゃから戦利品を送ったぞい。
ワシの部屋の倉庫にある業具を選んで送っておいた。上手く扱うんじゃ。幸運を祈るぞい。」
そして手紙の裏には詳しく、送られてきた2つの業具について説明が書かれていた。
「黒瀬さん…。こんなに丁寧に…。」
慧はそういうと業具の説明を読んだ。
「以下、贈った業具の説明をざっくり書いておくぞい。
まず刀の方から、これは『静断』というA級業具じゃ。
効果は業のブレを抑え、感情が荒れるほど切れ味が落ちるぞい。
ヒントは『怒りでは斬れない』じゃ。
以下に感情を沈め、落ち着いて切るか。これが鍵になるぞい。」
「次は槍の方。
これは『未穿』というB級業具じゃ。
意味は『まだ穿たれていない』という意味じゃ。
効果としては特殊能力は特にないんじゃが、
業臨を起こした瞬間だけ“異常に貫通力が増す”ぞい。
ヒントは『まだ届かない。でも、いつか必ず届く』じゃ。」
「あと慧。たまには手紙を送ってくれてもいいんじゃぞ。
何かあったらすぐ頼りなさい。
――ワシはお主のお父さんじゃ。」
そして手紙の文末には黒瀬の現在の住所がかかれていた。
慧は「たまには…黒瀬さんに手紙送ってやらないとな。」と小さく呟いた。
その時、蒼馬はこの未穿という業具に目を奪われていた。
触れた瞬間だけ業がスッと整う。
更に蒼馬は槍の“まだ届かない”が蒼馬の生き方そのものだと感じた。
「…なんだろう。よくわからないけど。
この未穿という…槍の業具にとても引き寄せられるような…。そんな力を感じます。
…これ俺が使ってもいいですか?」
3人は頷いた。
「いいだろう。俺は刀が折れていて、新しい刀が必要だ。この静断とやらをもらうぞ。」
そして全員がやっとそれぞれの武器を手に入れた。
禍霊が侵入してこない静かな時間。
蒼馬たちにとってはこれがとても大切な時間だった。
禍霊がいない世界なら、静けさは当たり前なんだろう。
でも禍霊に"当たり前"を奪われた蒼馬たちには、これが宝物だった。
――だからこそこの"静寂"が心にしみるのだ。
「慧さん。今度、黒瀬さんの話。もう少し聞いてみてもいいですか?」
「ああ。いいぞ。とても優しい人だ。蒼馬にも会ってほしい。」
「なあその黒瀬ってやつ俺にお菓子くれるのか!?」
鹿之介の無邪気な言葉に慧は笑った。
「あの人はお前みたいなタイプ好きそうだしな。くれるかもな。」
「まじか!?お菓子ほしいぜぇ!」
束の間の平和、だがそれは突然の災害によって絶たれる。
体育館の外から一際、異様な爆音がした。
「グオーッ!」
その鳴き声は凄まじい威圧だった。全員が震え上がる。空気そのものが悲鳴を上げていた。
「外を確認するぞ!」
「いくで!」
「応!蒼馬も来い!」
禍断隊として戦ってきた3人はある程度、威圧に耐性がある。
だが蒼馬は違う。少し前まで一般人だったからだ。
(クソ…なんて威圧だ…。足が動かない…!でも…!戦うと決めたなら…!)
なんと蒼馬は震えを止めてみせた。
――「はい!いきましょう!」
そして未穿を持って、走った。
「貴様…何者だ…!」
慧が刀に手をかけ、禍霊に声をかける。
――そこにいたのは山のように大きな大きな禍霊だった。
「なんやこれ…デカすぎやろ。」
「デケー!かっけーなぁ!」
「いや鹿之介…関心してる場合ちゃう…。これかなり"本物"やで。」
その禍霊はドラゴンの禍霊。
体育館より大きく、天井に背が擦る。
皮膚は鎧のように重厚で、A級とは比べものにならないほどの業の密度。
蒼馬は近づくだけで息ができない。
(クソ…なんて威圧だ…!近くで見るとなるとその威圧は咆哮の何倍にもなる…!でも…!)
蒼馬は今までの戦いを思い出す。
あの夜、蒼馬は何もできなかった。
「なんだお前!」
「キャーッ!」
両親も右目も奪われる。それでも見ることしかできなかった。
A級禍霊と戦おうとしたら、トラウマで胃の中身が逆流し、慧の足を引っ張った。
教室にカマキリの禍霊が入ってきた時も戦えなかった。
――でも今は違う。蒼馬はこの期間で確実に成長した。
(守るんだ。それだけでいい…!)
刀花は心配し、いいかける。
「蒼馬…お前吐く前に早く――」
しかし蒼馬は叫び、槍を抜く。
「……まだ届かない。
でも——今度こそ届かせる!」
それを見た刀花の口角が上がる。
「成長したやんけ…。ワイらも負けてられんな!」
続くように鹿之介と慧も獲物を抜く。
「蒼馬かっけー!俺もかっこつけさせてもらうぜぇ〜!」
「ここにいるものには手を出させない。さあどこからでもかかってこい。」
そしてここから脅威の禍霊との死闘が始まる。




