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すべてを諦めたら溺愛ルートが待っていました。  作者: すず


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3/3

知らない場所

 目を覚ますと、私はふかふかのベッドの上にいた。

 試しにほっぺたをつねってみると、ここが夢でも天国でもないことがわかり、不安が胸に広がった。

「お目覚めかな、お嬢さん」

「っ……!」

 まさか横に人がいるなんて思わず、変な行動を見られてしまった。

「驚かせてしまったね。森の中で眠っていたから連れてきたんだけど、迷惑じゃなかったかな」

「いえ……迷惑なんかじゃありません。こんなふかふかなベッドで寝かせていただいて、ありがとうございます」

「それならよかった。あそこは危険だから、入っちゃいけないよ。……そういえば、自己紹介がまだだったね。僕はハルト・フィランド。君は?」

「わたしは、マリア……といいます」

 名乗ると、ハルトと名乗った青年はじっと私を見つめて黙り込んだ。

 名前しか言わなかったのが、不自然に思われたのかもしれない。

「そうか……一度、診察をさせてもらってもいいかな。医者を連れてくるから、そこで待っていて」

「は、はい」

 怪我は特にないし、よく眠れたから体調も問題ないはずだ。危険な森にいたから、一応の検査だろう。

 それにしても、ここは一体どこなんだろう。待っている間、窓から外の景色を見渡してみる。

 窓の外を見た瞬間、私は理解した。

 ここは王宮だ。写真で見た街並みと、外観の雰囲気がまさに一致している。

 さっきの青年の姓はフィンラント……フィンラントといえば、首都の国王と同じ名前だ。

 どうしよう。王宮のベッドで眠ってしまった。私なんて身分が違いすぎる。しかも森の中で寝ていたのだから、汚れているに違いない。

 ベッドの汚れを気にしようとしたその時、ハルト様がお医者様と一緒に部屋へ戻ってきた。

「こんにちは、マリア様」

「こんにちは……」

 挨拶をすると、医者はためらうことなく診察を始めた。一通り診察が終わると、医者はハルト様に小さな声でささやいて部屋を出ていった。

 するとハルト様の顔色が急に曇る。どうやら何か問題があったらしい。

「あの……」

「マリア、君はしばらくうちで療養したほうがいい」

「そんなわけにはいきません。迷惑をかけるだけですから……。そんなに結果が悪かったんですか?」

「そういう訳ではないんだが、とても疲れているように見える」

「でも私は部外者ですし、これ以上お世話になるわけにはいきませんので、すぐに帰ります」

「あんなところで寝ていた君に帰る家があるとは思えないけど?」

「そ、それは……」


 言葉に詰まった私を見て、ハルト様は小さく息を吐いた。

「責めているわけじゃない。ただ、無理をしてほしくないだけだ」

「ですが……」

 俯くと、ふかふかのベッドに落ちる影が揺れた。王宮の一室にいる現実が、じわじわと胸を締めつける。

「帰る場所がないのなら、なおさらだ」

「で、でも……身分が……」

 そう口にした瞬間、ハルト様は少し困ったように笑った。

「ここでは、そんなものは気にしなくていい。少なくとも、僕は対等でいたい」

「……ハルト様」

 その声は、意外なほど優しかった。

「医者の話では、君の体に大きな異常はない。ただ、長い間、不安を抱えて生きてきたみたいだと言っていた」

「……」

 なんだか落ち着かなくて、視線を逸らすと、ハルト様は窓の外へ目を向けた。

「森で眠り込むほど、追い詰められていたんじゃないか?」

 そうなのかも、しれない。

 ゆっくりと自分の気持ちを振り返ると、胸の奥にしまい込もうとした寂しさが溢れ出してくるのを感じた。

「しばらく休めばいい。城には空いている部屋もあるし、使用人たちも口が堅い」

「そんな……そこまでしていただく理由がありません」

 するとハルト様は、私をまっすぐに見つめた。

「理由ならある」

「え……?」

「僕が、君を放っておけないと思ったんだ」

 一瞬、時間が止まったように感じた。心臓が大きく跳ねて、耳まで熱くなる。

 ハルト様は、とても優しい方なんだろう。


「……わかりました」

「本当かい?」

「ご迷惑にならないよう、できるだけ大人しくしています」

 そう言うと、ハルト様はほっとしたように微笑んだ。

「今日のところは、ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます、ハルト様」


 彼が部屋を出ていくと、静けさが戻った。

 ベッドに再び寝転んで天井を見上げる。

 まさか王宮で過ごすことになるなんて思いもしなかった。ただ、ずっと居られるわけじゃないから、この後のことを考えないとね。


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