表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辞訣  作者: 白空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9話.絶縁

 次の部屋に入る。


 天井から縄が垂れている。

 途中で切れてはいるが、輪っかが途中で切られていることが推測できる。

 輪っかの長さは……ちょうど両手で円を作った時と同じぐらいだ。



 明らかに、今までの部屋とは違う。



 もうすでに、ほとんど確定しているといってもよいだろう。

 だが、すぐに決めつけるのはよくない。落ち着いて爆弾を設置し始める。


 寝室は全く生活感がない。

 埃は少し積もっていたが、しっかりと布団は整えられている。カーテンは閉め切っており、空気は淀んでいた。

 窓から入ってくる光を頼りにコンセントを探す……とはいっても、家具の配置以外ほかの部屋となんら変わりはないのだが。


 リビングにも設置し、もう一つのドアを開ける。

 ここの住人は勉強部屋として使用していたようだ。


 唯一ここだけ少し生活感がある。おそらく書いた()()も警察が押収したのだろう。


 机の上に積まれているだけの本と、きっちり並べられている本。

 内容も、系統もバラバラだ。情報系、経済学、心理学。文庫本も、ライトノベルもある。


 椅子を引いて机の下に潜り込む。

 間接照明のコンセントを抜いて代わりに差し込む。

 机の下から出るときに頭をぶつける。痛い。


 ぶつけた痛みと、一人でこんなことをしている恥ずかしさに悶えながら立ち上がる。


 机の引き出しから何かが書かれた紙が見える。先ほど頭をぶつけた時に開いたのだろうか。


 少しくしゃっとしているが、読めないほどにびりびりに破かれているわけではない。

 そもそも読むべきではない……とは思わない。どうせ爆破されるんだ。最後に読んでおくべきだろう。


『2月26日 生前 お世話になった皆様へ』


 数週間前の日付と、丁寧なな書き始め。ここだけ見れば自殺の遺書だと言われても信じることはないだろう。もっと、命日が分かった病人が、という事なら納得する。


『とはいえ皆様と言えどもこの世には誰一人ともすでにいませんでしたね』

『だって私が殺したんでしたっけね』

『でもあなたがたは親としてどうかしていた』

『殺されて当然だった、この世にいてはならなかった』


 先ほどまでとは違う。明らかに字が崩れている。気分が乱れているのを字からでも感じられる。


『制限された生活、馬鹿みたいにバカにはなるなと教えられた日々』

『交友関係がなかった、頼れる人ができなかった』

『あなた方は親ではなかった、完全に孤独だった、』


 少し落ち着いたように見える。


『だから殺した』


『それでも呪縛から逃れることはできなかった』


 明らかにここから文字が震えている。


『あの時にはもう親子関係ではなかった』

『血のつながりよりも強い呪いが私を縛った』

『いつまでたっても耳に残り続ける』

『幻覚や幻聴となり健康を害する』


 ここら辺を起点に紙にしわがある。ひどい苦痛に苛まれていたのだろう。


『だから、凶行に走ろうとした』

『国家転覆を、自由な社会を、と』


『革命を起こそうと』


『そのためにまた勉強をした』

『いつしか気づいた、手段と目的が逆転していると』


『追い詰められた果ての危険思考』

『後の事を考えない目的を持たない革命の計画』

『日本という国の破滅を引き起こせる技術と激情』


 ここからは震えた文字とははっきり違う丁寧な文字で書かれていた。


『ここまでの文章を書いてから数日が経ってようやく決心できた』

『私は死ぬべきだ、だから死ぬ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ