第9話.絶縁
次の部屋に入る。
天井から縄が垂れている。
途中で切れてはいるが、輪っかが途中で切られていることが推測できる。
輪っかの長さは……ちょうど両手で円を作った時と同じぐらいだ。
明らかに、今までの部屋とは違う。
もうすでに、ほとんど確定しているといってもよいだろう。
だが、すぐに決めつけるのはよくない。落ち着いて爆弾を設置し始める。
寝室は全く生活感がない。
埃は少し積もっていたが、しっかりと布団は整えられている。カーテンは閉め切っており、空気は淀んでいた。
窓から入ってくる光を頼りにコンセントを探す……とはいっても、家具の配置以外ほかの部屋となんら変わりはないのだが。
リビングにも設置し、もう一つのドアを開ける。
ここの住人は勉強部屋として使用していたようだ。
唯一ここだけ少し生活感がある。おそらく書いたものも警察が押収したのだろう。
机の上に積まれているだけの本と、きっちり並べられている本。
内容も、系統もバラバラだ。情報系、経済学、心理学。文庫本も、ライトノベルもある。
椅子を引いて机の下に潜り込む。
間接照明のコンセントを抜いて代わりに差し込む。
机の下から出るときに頭をぶつける。痛い。
ぶつけた痛みと、一人でこんなことをしている恥ずかしさに悶えながら立ち上がる。
机の引き出しから何かが書かれた紙が見える。先ほど頭をぶつけた時に開いたのだろうか。
少しくしゃっとしているが、読めないほどにびりびりに破かれているわけではない。
そもそも読むべきではない……とは思わない。どうせ爆破されるんだ。最後に読んでおくべきだろう。
『2月26日 生前 お世話になった皆様へ』
数週間前の日付と、丁寧なな書き始め。ここだけ見れば自殺の遺書だと言われても信じることはないだろう。もっと、命日が分かった病人が、という事なら納得する。
『とはいえ皆様と言えどもこの世には誰一人ともすでにいませんでしたね』
『だって私が殺したんでしたっけね』
『でもあなたがたは親としてどうかしていた』
『殺されて当然だった、この世にいてはならなかった』
先ほどまでとは違う。明らかに字が崩れている。気分が乱れているのを字からでも感じられる。
『制限された生活、馬鹿みたいにバカにはなるなと教えられた日々』
『交友関係がなかった、頼れる人ができなかった』
『あなた方は親ではなかった、完全に孤独だった、』
少し落ち着いたように見える。
『だから殺した』
『それでも呪縛から逃れることはできなかった』
明らかにここから文字が震えている。
『あの時にはもう親子関係ではなかった』
『血のつながりよりも強い呪いが私を縛った』
『いつまでたっても耳に残り続ける』
『幻覚や幻聴となり健康を害する』
ここら辺を起点に紙にしわがある。ひどい苦痛に苛まれていたのだろう。
『だから、凶行に走ろうとした』
『国家転覆を、自由な社会を、と』
『革命を起こそうと』
『そのためにまた勉強をした』
『いつしか気づいた、手段と目的が逆転していると』
『追い詰められた果ての危険思考』
『後の事を考えない目的を持たない革命の計画』
『日本という国の破滅を引き起こせる技術と激情』
ここからは震えた文字とははっきり違う丁寧な文字で書かれていた。
『ここまでの文章を書いてから数日が経ってようやく決心できた』
『私は死ぬべきだ、だから死ぬ』




