第7話.全知
外に送り届けて一階にある最後の部屋に入る。
ドアを開けると、中には少年が佇んでいた。
数十秒、あるいは数分、少年との間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは少年だった。
「ねぇ、これからどうなると思う?」
少年の抽象的な質問に戸惑う。しかし、答えは決まっている。
「未来なんて誰にも分らないよ?」
「──へぇ。やっぱり、そういう答えしか──」
「──でも、あの時の約束は果たす。全力を尽くす。死んででもやりきる。」
あの時の覚悟は変わっていない。でも、覚悟したってどうにもならないことのほうが多い。
今回に至っては一人で革命をしようとしているようなものだ。成功率は限りなく低い。それでも一度、成功するという事に賭けた。ならば、振り切らなければ不誠実だろう。
少年が、初めてこちらを向く。
「へぇ、なんだ。覚悟ある────」
なんかふざけたことを言い始めた少年の額をデコピンする。
あと、先ほどからの発言が、自分はすべてを見透かしているんだ、っていう意図を感じて鼻につく。
「……で?これでナイフ持ってたら君は死ねたわけだ。──わかったら、ふざけたこと言うんじゃないの。」
「いったぁぃ……。……手伝ってあげなぁあ!?いたいよぉ……」
追撃だ。慈悲はない。
「ごめんだけど、お荷物にしかならない。」
「ちゃんと、全部わかってるよ!荷物にしかならぁああ!?!ひょっと!ほぉ!ひぎえる~」
やっぱり、危険だ。
自分が全てを知って、何でもできると錯覚している。
「殺す隙ならいくらでもあった。でも殺さなかった。なんでかわかる?味方だからだよ。」
「僕だって味方だって知ってたから抵抗しなかったんだもん!」
初めてあった人に対する毅然とした態度。これはこれからの社会を生きていく上でとても有用なものになるだろう。
「じゃあ、今からに相手を殺せる状況を作ったほうが勝ち……っていうことににしようか。君が動き出したらスタートね?」
「──わかった。」
自分の優位性を信じてやまない。自信がある、と言い換えてもよい。
「よーい、スタート。」
自分が強者である前提で動いている。せめて、無予告で動き出すぐらいの勝利への貪欲さが欲しかった。
ノータイムで銃をこめかみにあてる。
「じゅ、じゅう!?卑怯なんじゃ──」
「負け、認める?」
ルールの穴、その二。負けの基準が明確でない。
「────わかった。僕の負けでいいよ。」
安全装置は外しているが、引き金に指はかけていない。
「やっぱり君には覚悟がない。」
「そんなことはない!」
……ここに時間をかけてもしょうがない。
さっさと少年の手を取って玄関の方へ進む。
「黙ってついて来て。本当に死んでも知らないよ。」
クリアリングだけはしっかりとしながら、出入り口まで進む。
外を見ると、大量の警察が集まってきている。
「自分の立場は弁えて、でも、芯は強く持つんだぞ。少年。」




