第6話.不愛
二人を一緒に外に出して、次の部屋に入る。
先ほどと同じ、何の変哲もない部屋。
日常があふれている部屋。ごく普通の部屋。
今まで道理の順番で回ってゆく。
まずは主寝室。
入口からではコンセントが見つからない。どうやら前にサイドテーブルを設置しているようだ。
間を覗くとコンセントが見える。サイドテーブルを横に退かす。
足元に紙?サイドテーブル上にあったものではないだろう。
「『第一回更生社会参画支援拒否受理証明』?あぁ、あれか。」
──この施設、特にこの棟で生まれた子供に基本的に自由はない。
大人にも自由はないのだが、単独で生活しているかしていないかで大きく扱いが変わる。
外出も保護者を通して申請しなければならなかったりと大変だ。
自分で責任をとれないからと申請も受理されづらい。
殺人を犯した人から生まれたからって、これは酷だと思う。
そんななかでほとんど無条件で外出できる唯一の選択肢。それの拒否を行っている。
──どうやらここも普通の家庭ではないらしい。
紙をテーブル上に置いて、コンセントに爆弾を刺す。
リビングにも設置し、ドアの前に移動する。
先ほどまでのパターンでいえば、この部屋の中に子供がいる。
ドアを押す──……開かない。この感じは……おそらく前に人がいるだけだ。
「出ておいで~?悪い人じゃないよ~?」
「いやだ。ここから出て行きたくない」
あれを拒否するくらいなのだ。一回で「はい行きます」とは言わないと分かっている。
「ここ、危険だよ?」
「私、知ってる。外の世界の方が危険なんだって。」
これはなかなか過激な思考を持っている。
「ほら、でも犯罪だって──」
「犯罪率が低い?なんだそれ。──同調圧力で形作られた治安が安全?あほらしい!薄氷の上に私を投げ出そうとして、なにがしたい!」
──彼女だってこちらに害を加えようとしているわけではない。ここで諦めて、巻き込むわけにはいかない。
「少なくともここにいれば確実に死ぬ。」
「死んだほうがましだ。───ねぇ、殺してくれない?」
別に快楽殺人犯ではないのだ。頼まれても無駄に殺しはしない。
「いやだ。」
「自分だけ頼みごとをして、相手に頼まれても何もしない?自己中心的だね。」
確かに、自分の中の正しさを人に押し付けている。自己中心的であることは認めるしかない。
「犯罪者軽視で、人権無視が常套化してる。プロパガンダのために犯罪者と、その家族までに利用されている。こんなところに縛り付けられて、一生を終えるだなんていやだ。国のために消費されてる────」
「──ねぇ、それってあなたの持論?」
彼女の意見には芯を感じない。正しさはある。だが、ほとんど個人を感じない。
そして唯一個を感じた「縛り付けられて」という一言。……先ほどの紙と合わせると、保護者が一方的にに外に出る機会を奪っているのだろう。そして反社会的な思想を植え付けたのだろう。
「──あれだけ啖呵切って、失敗しました、ハイ終わりって虫が良すぎるんじゃないの?」
──へぇ?あの時の事、知ってるんだ。
うん。でも今は関係ない。
じゃあ、幻想を見せてまでこの子をこの世界に縛り付けるべきか?
本当に、それが正しいのか?また、後悔することにならないか?
「………………」
「………………」
──やめよう。
「うん、わかった。」
────無闇に、希望を与えるのはやめよう。
「世界を、変えてあげる。まだ負けていないってことを証明してあげる。」




