第4話.玩具
手短に必要なことを教えてもらい、部屋を出る。
廊下にはコンセントがないため部屋の中に入る必要がある。
ここの住人は不用心なため大抵は鍵がかかっていない。爆破に巻き込まないかの確認も含めて入るので、不法侵入という事実には目を瞑ってほしい。
ノック……は危険なので、静かにドアを開けて中を伺う。
中に気を取られすぎて後ろからやられたら元も子もないので、状況を確認でき次第さっと入る。特に荒らされた形跡も見られないし安全だと判断した。
内装は――自分の部屋よりもきれいだ。よく見ると壁が若干へこんでいたりするが。間取りも若干異なるように感じる。なんというか……ちょっと広い?
玄関あたりにあるコンセントにまずは一つ爆弾を設置する。靴はもうないためおそらく中に人はいないだろう。すごく嫌な感じはするが、何かあったときにすぐに外に出られるように靴を履いたまま中に入る。
リビングは比較的まとまっているな、という印象だ。ローテーブルの上にはテレビのリモコンと、エアコンのリモコン。キッチンには調理器具が壁に掛けられているという何ともインテリ系を感じる室内となっている。
……インテリ系というには小さな観葉植物が足りない気がする。無駄が少ないからどちらかといえばミニマリストの方が近いような気がしないでもない。
うーんでもミニマリストというには生活感に溢れすぎている。正確に言うならばテレビに出るために片づけた後のような部屋、だろうか。生活感はありつつも、汚くはない。
そこにあった小さめのテレビの線を抜いて爆弾を設置する。なるべく、何も残らないように丁寧に設置する。――ここが残ったって誰の幸せにもならない。
ダブルサイズのベッドのある寝室にも一個。
最後の部屋も開ける。……暗い。ここに住んでいた人はすべての部屋のカーテンを開けるほどマメな性格ではなかったようだ。
というか埃っぽい。おそらく物置代わりに使っていたのだろうか?それにしては物が少ないように感じるが。
最後ぐらいカーテンを開けておいてやろう――という建前の元、カーテンを開ける。
電気をつけてもよいのだが、起爆するときに電力が足りなくなるかもしれない、とのことなのでなるべく家電類のコンセントも抜いて行っている。曰く電力遮断が行われて、バッテリーで動いている状態かもしれない、とのこと。
……最悪ここら辺の電力制御自体をもぎとると言っていた。最近の子は機械に強いようだ。
カーテンに手をかけてカーテンを開けようとする……が、動かない。カーテンレールが錆びているのだろうか。もう少し強く引っ張ってみる。……動かない。
諦めた。カーテンごと切り落としてしまおう。
照らされた室内を見渡してコンセントを――って、え?
気にも留めていなかった角に、人影――子供の姿があった。
「……え?……人?」
誰もいない、物置部屋だと思っていた部屋に子供がいた。……爆発音に驚いて奥の部屋に来たんだと、そうだと思いたかった。
気配に聡いから大体同じ部屋に入れば人がいるかどうかわかると高を括っていた。もしも敵だったらと考えると怖い。
……別に無害な人間を殺したくて爆破するわけではない。ましてや子供なのである。意味もなく、何も知らずに巻き込まれるべきでない。
「ねぇ、大丈夫?」
「…………」
返事はないが、死んでいるわけではない。胸はしっかり動いているので呼吸は安定している。少なくとも今すぐにどうにかしなければならない、というわけではなさそうだ。
「どこも痛くない?」
「…………」
「言ってること……」
理解できる?と言いかけて難しいかな、と思い直す。
「……わかってる?」
「……わかってる。わかってる、よ?」
――おかしい。明らかに理解していない様子だったのに、はっきりと分かっている、受け答えた。
「わかるの?」
「……?」
少し口調を変えただけで途端に返事がなくなった。
「わかってる?」
「……わかってる。わかってる、よ?」
言っていることも、口調も、間の取り方すらもすべて同じだ。
「ちゃんと聞いてるの?」
「……うん。聞いてるって、聞いてるってば……」
これ以上は、やめよう。
服を捲って傷がないか確認する。……意外と肌は綺麗だ。体形は不健康そのものだが。
首筋を触ると弱いながらも脈拍を感じる。
目の前で手を動かすとそれを追って目が動いている。
掌に触れると握り返される。
特定の動作に対してだけ反応がある。あぁ、まるで――
「――まるで作りかけの玩具みたいだ。」
「……おもちゃ?おもちゃなんて買える余裕ないに決まってるだろ。」




