第3話.覚悟
「いつまでそんなことしてるつもり?早く出てきなよ。」
「いや~敵かと思ってね~。」
内心ため息をつきながら顔を見る。
「知ってたでしょ。」
「……怒ってる?」
こんな状況なのにふざけやがって……などということは思っていない。どれだけ緊迫した状況であったとしても、それに見合った雰囲気を作らなければならないわけではない。人生には適度な弛緩が必要だ。
「別に。」
……ただし、あれとこれとは別だ。今さっき見た銃、おそらくここにあった銃だ。暴動を起こすにあたり、武器を提供した……となればやむを得ず殺す必要すら出てくるかもしれない。
ナイフを持ち、相手に見せる。
――仕方がない。義務なのだから。覚悟はできている。
「……――はぁ。わかったよ。なんであの銃をあいつらが持ってるか……ってことでしょ?」
……意外だ。自分から言い出すとは思わなかった。いつもなら限界まで引き延ばして反応を愉しむところだろうに。
「……一応これでも引け目を感じてるんだよ。これでも善処はしたんだよ?弾数だって調整したし、素人には扱いにくい長物をメインにしておいた。殺されるかもって思ったのは人生で初めてかな――」
これ以上しゃべらせ続けると話のやめどころがわからなくなる。
「わかった。ありがとう。」
「――どういたしまして。」
さっさと話しを進めたほうが都合がよいので本題に移る。
「おすすめの銃は?」
「ハンドガン。ファインダーとかそういう無駄な奴はすべて取っ払ったやつ。」
実物を投げ渡される。……ってセーフティーすらついてないじゃん。
「だいじょうぶだよ?まだ実弾は入れてないし。」
「そういう問題ではない。」
袋に詰められた弾を渡される。……ここはカートリッジ式であってほしかったかな。
「……それと、爆発物ってどれぐらいある?」
「……爆発物?――うん。まぁ、それなりにはあると思うよ。」
「この棟一棟吹き飛ばせるぐらいに?」
「うん。十分に。」
じゃあ安心だ。
「ここ、爆破するの?」
「うん。そのつもり。何か遠隔で爆破できるものはない?」
「そのつもり……って。用意しようと思えばできるよ?」
そう言うとカウンターの下から箱を取り出した。
「はい、これコンセントに差す簡易爆弾。」
「それって差したらすぐ爆破しない?」
「うーん、ちょっと待ってね。……あ、はいこれおまけ。」
渡されたのはしっかりとしたナイフと一個の弾丸。弾丸は明らかに袋の中に入っているものとは経口が違う。
「これ打てないと思うんだけど……」
「まぁ、大切なものでしょ?」
「……うん。まぁ……そうだけど……」
そうではあるのだが複雑な気分だ。他の弾がなくなったらこの弾を使うのか?
「使い時は自分で決めるんだよ。」
「……わかった。」
……またこれを見ることになるとは思ってもいなかった。そのつもりだってことを悟られてしまった……か。
「おっ!あったあった。これが起爆タイミングを伝えるためのスマホ。準備ができたらメールでも送るから。」
おぉ。携帯電話。初めて触る気がする。
「……これ、どうやって操作するの?」
「ってそこ!?てっきり起爆方法を聞いてくるのかと思って……せっかく回答を考えてたのに……」
微塵も興味はない。
「あからさまに興味がないって顔、しないでよ……」
え、顔に出てたんだ。
「うん。顔に出てるよ、今も。」
鏡を取り出されて自分の間抜け面を見る。自分の顔をまじまじと見ていると笑いがこみあげてくる。
――あぁ。楽しい時間もこれで終わりか。
「うん。ありがとう。今の時間、ちょっと楽しかったよ。」
すこし、ほんのすこしだけ、ためらってしまう。でも、もう覚悟は決まった。
「じゃあ、作戦を始めようか。」




