第22話.Re:絶遠
ただただ信じてくれていたことが嬉しい。
「……うん、ありがとう。」
言葉を必要としない訳ではない。でも、必要最低限の礼儀ぐらいはいるだろう。
デレやがってと言わんばかりに小突いてくる奴らは無視する。
一度深呼吸をする。もう一度大きく息を吸って、教室中に響き渡る声を発する。
「──みんな、ありがとう。最後までよろしくね。」
──たとえどれだけ中途半端な状態で作戦が終わったとしても、もうこれ以上の抵抗はしない、そう決めていた。
ただ、無駄に周りに希望を見せた。そこに反省はしている。わざわざネット上でやったことだ。それなりの責任も感じている。
結果はダメだった。それでも大満足だ。みんなで一致団結して反抗した。その事実さえあればいい。あとは平和に過ごすだけだ。
二人から目を離す。
ちらちらとこちらを伺ったりして来るが、悪意の目線を向けられることはない。純粋な心配の目線やいつも通りの尊敬のまなざしなど。こちらに向けられる視線は至って普通……ではないかもしれないが平和だ。
見覚えのある顔は全員いる。席も自分の席以外全部埋まっている……わけではなかった。完全に存在を忘れていたが、あの転校生はいない。まあ作戦を行う前からいなかったから気にするものでもないか。
そこから数日、最終日までの日常を過ごした。世間一般的に普通でなくとも、この数日は大切な『日常』だった。
クラスがバラバラになる日の朝、家を出るとそこには二名の警察官がいた。
片手に書類を持って、インターホンを押そうとしているところだった。
すっと横を通り抜けて、全力で逃げる。目的地は学校。
手に握られていた書類、おそらく逮捕状だ。なぜ今になって、と思うところはあるが、ともかく逃げ切ることが優先だ。
時々後ろを振り返っても、近辺で赤色灯を回している様子はなかった。意外とすぐに諦めたのだろうか。
学校の正門が見える位置までたどり着いた。
────あぁ、そりゃそうか。
正門の前には数台のパトカー。追いかけまわすまでもなく、行動は分かっていた、という事か。
仕方なく、前も通ったフェンスの穴をくぐる。存在は知られているが、補修はまだ行われていない。
おそらく次の長期休みの大規模な補修に合わせたいのだろう。
正門側からの監視がないかに注意しながら校舎内に入る。
中に入れば大丈夫かもしれない。それでも衝動的に階段を駆け上がりたくなる。廊下を小走りで進み、教室に飛び込む。
明らかに慌てて飛び込んできた様子を見て、心配の眼差しを向けてくる。
深呼吸をして、息を整える。それから、みんなに伝える。
「逮捕……されるっぽい。」
簡潔にそのことだけを告げる。
少しだけ周りがざわついている。とりあえずここにいれば警察は入ってこれないだろうから、落ち着いて次のことを考えられる。
どこまで捜索が行われるかはわからないが、少なくともただの中学生が逃げ切れるものではないことはわかりきっている。
遅刻を告げるチャイムが鳴ると同時に、数日間来ていなかった転校生君が入ってくる。
こちらを見て不敵な笑みを浮かべる。
おもむろにスマホを取り出し……これは校則違反であることを指摘した方が良いのだろうか。とりあえずどこかに電話をかけている。
取り押さえる暇もなく、警察に連絡がいってしまった。校舎内に犯人がいるとなれば強制的に入って来てもおかしくないだろう。
クラスの全員から敵対的な目で見られているにも関わらず、意に介していない。
窓から校庭を見下ろすと、もうすでに警察が入ってきている。
あぁ、もう、遅かったか。




