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辞訣  作者: 白空


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第2話.際会

 外に出る前に包丁を取る。できれば人を殺められるくらいの良品が良かったが、あいにく自前の研ぎ石は持ち合わせていない。殺傷力はなくとも威嚇用ぐらいにはなる。


 ──もう、武器屋として頼ることはないと思っていた。


 しっかりとクリアリングをしながら廊下へ出る。一つ上が屋上なので、油断していると囲まれる可能性もある。屋上へ行く手段は管理用の梯子のみで、一切の音を立てずにいつの間にか殺されていた、ということは考えづらい。

 今の状況では安全な場所など存在しないのだろうけれど。──あぁ、別に今に限った話でもなかったか。


 歪んだドアを傍目に階段へと歩みを進める。音が出ない程度にドアを引っ張ってみたが、完全に動かなくなっている。閉じないのはまずい。これは帰りに苦労しそうだ。幸い、上からの視認性はましなので、躊躇せず階段を下りて行く。


 2階、1階へと何事もなく降りてゆく。そのまま階段下にある地下への隠し扉を開こうとする。


 ……確かここの扉、軋むんだよなぁ……


 上の階とは全く質感の違うドア。しっかりと磨き込まれ、鏡のようになっている。そのドアのノブに手を伸ばした。


……──ゃぁぁぁあああ──


 女性の悲鳴だ。明らかにこちらに近づいている。


 もう一度階段下に戻り、様子を伺う。


「おい!どこ所属だ!」

「D4棟の……ひぃう!?銃!?」


 ……銃を持っている、のか。


「ってぇえ!?階段!?上行くの!?お外じゃないの!?」

「お前は女だから人質にぐらいならなるかもなぁ!?」

「助けてぇ!?」


 敵は1人、勝機は──十分にある。


「だまれ!気が散る!」

「いやだぁ!?助けてぇ!?」


 通り過ぎて、階段を登り出して階段下から少し顔を出す。輝いているドア越しに()()の顔を見る。


「助けぇ……え……?」

「おぉ……急に静かになるなや……」


 そくささと顔を引っ込める。一対一。相手は油断しており、ほぼほぼ勝てる。

 ──後ろから頭を狙って包丁を振り下ろす。それから首を絞めて落とす。

 確実に勝てる。


 ──けど、今はその時ではない。


 通り過ぎて足音が聞こえなくなり、そこにいた気配さえも感じなくなるまでその場で待つ。


 そして、ずいぶんと重いと扉を持ち上げ、中に入る。


 想像していたよりも中は小奇麗で、おしゃれなバーのような雰囲気はちゃんと残っている。意外にもあさられた形跡はほとんどない。

 見回しただけでは人影はないが、気配はある。ついでに鉄のようなにおいもする。


「いつまでそんなことしてるつもり?早く出てきなよ。」

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