第19話.Re:奇跡
いろいろと考えることはある。上の決定は絶対である。そんなことは知っている。でも、わざわざ何も抵抗せずにするようにされる気にはなれない。
わざわざ作り上げた平穏を、壊されたくないのだ。
新学期、登校一日目、その日、このクラスの空気はひどく張りつめていた。そりゃそうだ。それなりに向上心のある生徒が集まったクラスが、受験生になったのだ。当然の事だった。
当然だと、頭でわかっていながらも耐えられなかった。
約、一時間は耐えた。始業式が終わって一時間、異様な空気で進んだ初めてのLHRが終わって、休み時間になっても誰も立ち上がろうとしなかった。互いに牽制しあって誰も動けないような状況だったのだろう。
休み時間が始まって30秒。遂に耐え切れなくなり、隣の子に声をかけてみた。
「一年間、よろしくね?」
「馴れ馴れしくするつもりはないから。失せろ。」
……ちょっぴりキレた。いや、結構キレていたかもしれない。
「──じゃあ、分からせてあげる。次の実力テスト、絶対に勝つから。」
「……ははっ。受けて立つよ。」
完璧に勝ち誇った顔をしている。実力テストは次の日。対策のしようはなかった。完全な実力勝負だ。
結果は圧勝だった。そもそも満点常連なので、比べる必要もなかった。
そこからことあるごとに自由のすばらしさを広めていった。その出来事から約半年かけて自習中にわいわい楽しめるくらいの雰囲気のクラスになった。
成績は、気にする必要はなかった。この中学の一番下でもそれなりの高校には行ける。一番上のクラスならば、難関高校に入れることが保証されていると言ってもよかった。
そんな涙ぐましい努力の結晶を壊されるわけにはいかない。
後数ヶ月?関係ない。気に障ったのだ。義務教育8年間、同化することだけを教えられてきた。
周りと同じでようやく普通。周りと違うことが悪。そういう教育をされてきた。疑念を抱けど、今年のように動いたのは初めてだった。
不服だ。不快だ。理由はそれだけだ。
「──手伝って。」
短く、それだけを告げる。いつもよりも怒ったような感じで。
端的に、絶対的な支配を作る。成功はしないだろう。でも、成功できるような雰囲気を出さなければならない。
脳内でいろいろシミュレーションする。
一番効果的に、なおかつ死者を出さずに主張を示す方法。
世間一般に広く知らしめる必要がある。
テレビ、新聞などの公共の記事には頼らない。期待するべきでない。
私設でラジオを発信するのも良いが、映像がないといまいちパッとしないだろう。
外資系の動画/配信サイトでライブ配信しよう。
日本政府が掛け合ったとしても、それなりに停止までの時間はかかる。それなりに栄えているサイトだし、海外からの圧力もかけられる。
一つ問題があるとするならば、アカウントの作成ができない。日本国民が、日本国内からアカウントを作成するのは基本的に身分確認が必須だ。配信者側になるにはそれなりの覚悟が必要ということである、という建前の元、完全に発信者側を縛ろうとしている。
期日までには確実に無理だ。
「……誰か、ライブ配信できるアカウントを持ってない?」
当然、誰も持っていない。意味のないアカウントの所持、そもそものところ未成年のアカウントの所持は許されていない。
「じゃあ、親が協力してくれそうな人は?」
「……たぶん、できる。」
たぶん、という言葉に不安を感じる。でも、その僅かな可能性を信じるしかない。
「うん。お願い。」
一番効果的な、世間に主張を示す方法──
「立てこもり、立てこもりを1週間後に決行する。」
若干の動揺を感じる。近年、実際に立てこもりが起きたことはない。起きかけたことはある。
いつ頃、どこで起きたかの詳細情報はほとんど残っていない。ほぼ都市伝説的に語られることも多い。
──しかし、確実に計画されたことである。
大量に倉庫に詰め込まれた武器。緻密に練られた計画書。規制されるまでに大量にネットに画像が流れた。
噂によると、首謀者しか逮捕されていないらしい。
たとえ、武器が用意できなくとも、「立てこもり」を実行する。そのことに意味がある。
武器の使用を前提とした作戦は実行できない。また、全く別の作戦を立てる。
次の日、配信できるか、に対する返事は予想だにしなかったものだった。これは、奇跡だ。確実に成功させるしかない。




