第13話.微言
次の部屋に入る。
中は、あまり血痕も残っておらず、先ほどの部屋と比べたら、公共放送に流せるレベルではある。
しかしながら、決して「普通」と言える状態ではない。部屋のそこら中にに着弾痕がある。
ほとんどが奥側への痕。数発、こちら側へ向かっているように見える痕もあるが、これは跳弾などでついた痕なのだろうか……いや、これだけこちら側からの発砲があったのならば、向こう側からの発砲があってもおかしくはない、のか。
この制限された空間で二人も銃を持っていた……意外と自由はあったのかもしれない。……いや、銃を所持することを自由と言ってはいけない、か。
中に入って、歩みを進める。
一歩、二歩、三歩。玄関から、少し開けた空間に出る。
玄関からでは見えなかった位置に人が座り込んでいた。
その人は銃を持っている。こちらを視認し次第、こちらに銃を向けようとする。
反射的に銃を手に取り、スライドを引き、相手に銃を突きつける。
「──殺したいわけじゃない。早く銃を下して。」
「……こんな若造に、負ける日が来るとは思っていなかった。」
途中まで持ち上がっていた銃を素直に下した。そして銃口を誰もいない方向に向けた。
そのうえで、トリガーを引いて、銃の中に弾が残っていないことを見せつけられた。
「見ての通り。もうすでに弾はない。ハッタリさ。」
──よかった。ここで不毛な打ち合いが発生することにならなくて。
弾を薬室内から排出して、銃を元の位置に仕舞っておく。
「下手な鉄砲撃たれて、変に苦しんで死にたかねぇからな。それにどうせそんなことしなくたってもうすぐ死ぬさ。」
そう言って、手首から先がなくなった左手を見せてくる。確かにまともに止血すらされておらず、このままならもう直に死ぬだろう。だが、適切に処置をすれば助かる可能性は格段に上がる。
「わざわざ一人のために機関銃なんざ持ち出しやがって……。……あぁ、もう俺は助からないさ。別にここだけ傷を負ったわけじゃない。」
そう言いながら服をまくって、腹部に空いた穴を見せてくる。医者でなくとも、少なくともこの場で助ける方法はない、という事が分かる。
「……ちょっと、話を、独り言を聞いてくれないかい?報酬は、あの机の上の『どんな高威力な銃弾でも撃てる銃』にしようか。」
……あれは、銃というよりかは……打ち上げ花火の筒に取っ手を付けただけに見える。サイズは全然違うが。
「かなり、後悔しているんだ。……お前らと同じように革命を起こそうとしたことがあるんだ。武器を大量に密輸して、仲間をたくさん集めて、どんなリスクを冒してでも、やり遂げようとした。でも、結局踏み出せなかった。今のこの世界で楽しそうに生きれている人。不満を持っているように見えて、なんだかんだ満足している人。未来を見ている子供たち。そんな無関係な人達を、無意味に殺戮する、そんな計画を実行しようとしていた。実行前夜に署に行って自分だけ捕まった。怖いから、仲間を裏切ったんだ。」
こちらの目を見る。
「最後まで、仲間と一体になって全力で抵抗する姿、かっこよかった。」
──あぁ、彼はテレビで写されたところまでしか知らないのか。
「──ありがとう。でも、今回は一人なんだ。ちょっと、ここを爆破したり、することになるけど……いい?」
「あぁ、死体でも、なんでも好きにしてくれて構わない。失敗してもいい。一人に期待なんてするほうが馬鹿げている。……でも、最後に一つだけお願いがある。俺を、どうか────」
その言葉が、すこし心を軽くした気がする。お願いを聞くために顔をしっかりと見る。
「────殺してくれないか?」




