第11話.一発
ドアを開けると地面にあったのは、死体と銃。
自殺だろうか。いや、そうやって断定するのはよくないか。
とりあえず冷静になるために設置作業を再開する。
玄関に死体があること以外、特におかしな点はなかった。
暇……ではないのだが、少し情報が欲しい。ヘリは飛べなくとも、第三者からの映像からなら大体の人数も割り出せるのだが、あいにくテレビがお陀仏なので情報源がない。
パラボラアンテナが爆破される前に見た情報はある。そこで見た人数が変わっていなければよいのだが。隣の棟の上にいた人たちもこちらに来ていたとしたら、そう簡単には事が進まなくなるかもしれない。
死体と銃。一度自殺の現場だと認識すれば自殺に使われた銃にしか見えなくなる。……だが、本当にそうなのだろうか?
追い詰められて自殺した。ただ単に絶望したから自殺した。様々な理由が考えられる。
──自殺だとするならばなぜ自殺に銃を使えた?
この管理された、完全に支配されたこの『牢獄』で銃を手に入れる方法などわずかだ。真っ当に国民を生きれていたとしても手に入れることはできないだろう。
この場所で唯一銃を手に入れられる方法は、あの武器屋からの購入だ。あそこはなぜか銃を持っている。海外の民間用のものから、日本の公務に使用するものまで。
今地面に落ちている銃も警察が運用、使用しているものだ。別に実際に見たわけではないが、おそらく武器屋に置いてあったものだろう。
別にほぼ確定したようなものだが、判別方法もあるにはある。内部機構を一般品とは変えていたり、マークがついていたりするらしい。
「うち特有のマークだ」とか言ってたけど、簡潔に言えば「縦横の線で8bitの管理番号を付けている」ということだった。一般品よりも劣るものには全部縦線で、他は被らないように管理しているらしい。
地面に落ちている銃を拾い上げる。マガジンを抜いて、装填された弾がないことも確かめる。
そして、持ち手の下部を見る。……あれ?多少の傷はあれども、規則性のある傷は一つもない。
違う場所にあるのだろうか、と探してみても見当たらない。じゃあ、この銃はどこで手に入れられたのだろうか?
──考えても、無駄、か。
そもそも拳銃である時点で武器屋さんは流出させていないと判断できたか。
その他の情報も集めることにしよう。
銃の残弾は9発。最大12発入るモデルだから、3発使用したことになる。
ただ、どこにも着弾点が見当たらない。
とりあえず、一番疑わしい死体の下を確認する。
そこには1cmもない小さな穴と、空薬莢3発分があった。
少し、死体を確認する。
首の右側面あたりから、わき腹に貫通するように銃創がある。
──じゃあ、これは自殺なのか。わざわざ右側面まで近づいて人を撃つ、リスクという言葉を知らない奴が、この意外と考えられている作戦に参加できるのだろうか。
もしも、この人が暴徒側であったとして、死を命令されたとも考えられない。
まず、あれは軍隊ではない。ならば「死ね」と言われても士気が下がり、内乱がおこるだけだと、首謀者も理解していることだろう。
そして、拳銃を扱えて、なおかつ拳銃を所持している人材を手放すとも思えない。
自ら死を選んだと、そう結論付けざるを得ない。
このことについて考えるのはもう無駄だと知りつつも、最後まで考えたくなる。
人に忘却されたために訪れる「死」。それを少しでも遅らせたいのだ。たとえそれが虚実織り交ざったカバーストーリだとしても。伝記もどうせ綺麗なことしか書かれていないんだし。
たまたま銃を所持しており、たまたま自分の住んでいるところの上で暴動が起きただけ。
そんな不幸に巻き込まれた。過去なんて関係ない。なぜここに来ることになったかは関係ない。
彼はただ、不幸に巻き込まれた。それだけが重要だ。
「彼ら」に勧誘される。一緒に革命を起こさないかと。
それを彼は拒絶する。死を天秤に、もう一度迫られる。
それでも彼は抵抗する。
しびれを切らした彼らは、強硬手段をとろうとする。
すかさず彼は隠しておいた護身用の銃を取り出す。
そして二発、真横を掠める球を撃つ。
それに怖気ついた彼らは飛んで逃げる。
人に銃を向けた。そのことに罪悪感を覚える。
去り際を見届け、もう一度、銃をスライドさせる。
そして、真紅の花が咲く




