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ラボコート・オーバー・ユカタ


「お困りのようだね。話は聞かせてもらったよ」


 着ぐるみから若い女性の声がする。


「え!? 商店街におったウサギやん! 女やったん!?」


 ローリーが近づいていくと、着ぐるみが慌てながら頭を取った。

 中に入っていたのは若い男性だった。


「男やんけ!! なんなん!? さっき女の声やったやん!」


「待って待って。さっきしゃべってたのは俺じゃなくて……ほら、ここにスピーカーついてるでしょ?」


 そう言って、着ぐるみの男はウサギの(ほお)のあたりを指さした。

 左右にひとつずつ付いた丸くて赤いほっぺた――

 どうやらこれがスピーカーらしい。


「今しゃべってたのは准教授(じゅんきょうじゅ)の――」


「私だ!!!」


 すると、浴衣の上に白衣を羽織った女性がタブレットを片手に現れた。

 すらりとした長身から漂う知的な雰囲気。黒縁(くろぶち)の眼鏡の奥で鋭い眼差しが光る。後ろで一つに束ねた栗色の髪は、白衣姿でも気品が感じられた。

 

「誰やねん! 名乗れや!!」


「失礼。私は王都大学(おうとだいがく)理学部(りがくぶ)地球惑星物質科学科ちきゅうわくせいぶっしつかがくか准教授、湯水ミチルだ」


「――ユミズ!?」


 全員が驚いた。

 中でも一番驚いたのはローリーだろう。

 口をあんぐり開けて、震える右手で湯水を指さしている。


「ユミズって……あんたのことやったんか!?」


「いかにも」


 湯水は微笑(ほほえ)み、自信満々にこちらに向かって歩いてきた。


「……君は一郎くんだったね。神明(しんめい)一郎。みんなからイッチと呼ばれて(した)われている」


「え」


「そっちの君は双柳(なみやなぎ)蝉丸くん。二人の女子は陽菜乃川(ひなのがわ)瀬凪さんと暇坂(ひまさか)アリサさん。みんな同じクラスの中学二年生だ」


「――怖っ! なんで知ってんの!?」


 アリサは思わず後ずさり、自分の体を抱きしめるように両腕を胸の前で組んだ。

 それを見て湯水は、からかうように口元を緩ませた。


「いいね、その反応。ミステリアスな美女の登場だ」


「自分で言うなや」


 ローリーが横からツッコミを入れる。

 湯水はローリーの方をちらりと見て、ゆっくりと話し始めた。


「私は、40年前まで存在した『戎橋(えびすばし)ゼミ』を継ぐものとして准教授になった」


「戎橋ゼミ……?」


「ローリーくんのひいおじいさん――戎橋(えびすばし)路暖(ろだん)のゼミだよ」


「ひいじいの!?」


「ああ。40年前に退職された戎橋教授の研究テーマは『異世界』だ」


 全員、黙り込んだ。


「戎橋教授の書かれた論文のタイトルを挙げてみよう。

 『異次元からの脅威』――

 『魔物の石化現象と新鉱物の発見に基づく異世界の実在性』――

 『異世界から来た魔物の生体鉱物』――

 アポロ11号が月面着陸に成功する前から、こんな論文ばかりを発表していた」


「アポロ11号の月面着陸は、たしか1969年……そんな前から?」


 蝉丸はあまりの驚きに、目を見開いて固まっている。


「でも、そんな変な論文、まともに相手にされないんじゃない?」


 アリサの言葉に、湯水は頷く。


「その通り。全然相手にされていなかったらしい。しかし戎橋教授は教授になれたんだよ。論文に書かれた『魔物が(のこ)した石』を持っていたからね」


「――! これか」


 ローリーは、さっきしまった紫黒色(しこくしょく)の石を再び取り出した。


「論文の内容はともかく、新鉱物を発見したことで教授になったと聞いている。私は戎橋教授の研究に強く興味を惹かれ、生前に教授を訪ねたんだよ」


「来るやつ全員突っ返すようなジジイやったのによう会えたな。あんた、えらい気に入られたんやな」


「発表された論文はすべて読破していたし、内容も全面的に信頼していたからね。理解者が現れたと喜んでくださっていた。結局、お会いできたのは一度きりだったが――その時に言われたんだよ」



 『始まりの異変を見逃すな。魔物は再びやってくる』


 『あの村には秘密がある。村を調べろ』



「――私が戎橋教授を訪ねたのは1年前。そして今年の夏、世界中のカレンダーから8月以降が消える事件が起こった。これが始まりの異変だと確信し、夏摩村を訪れたというわけだ。この着ぐるみくんと一緒にね」


「誰が着ぐるみくんですか! 小出(こいで)(すすむ)です!」


 着ぐるみのウサギの頭を小脇に抱えた男の人は、19歳の大学生らしい。


「田舎の住民はよそ者に対する警戒心が強いと聞いたからね。大学で適当に見つけた学生に、小型カメラ搭載の着ぐるみを着せて村を観察していたわけだよ」


 そう言って、湯水は片手に持ったタブレットを掲げた。


 ――そういえば。

 僕がひとりでいる時、バス停のところで着ぐるみのウサギに風船を渡された。


「あの、小出さん。バス停のところで風船を渡してくれたのって……」


「あ、俺だよ。あの時の一郎くん、みんなに相手にされてなくてさみしそうだったから」


 どうやら、(はげ)ますつもりで風船をくれたようだ。


 聞くところによると、小出は「着ぐるみを着てウロウロしてればいい」とだけ言われていたらしい。日給3万円という破格のバイト代に釣られ、小遣い稼ぎのつもりで夏摩村にやってきた。

 そんな小出は7月31日、魔物が押し寄せる商店街にいたらしく、猛烈な勢いで湯水に抗議し始めた。


「つーか、なんなんすかこの村!? ヘタしたら死ぬでしょ!?」


「かもな。だからこその日給3万円、旅費全額持ちだ。君は契約書にサインしたよな? 何があっても文句は言わないと」


「きたないっすよ! 先に教えてくれれば――!!」


「君は19歳だったよな。君には魔物が見えたのか?」


「ガッツリ見えましたよ!!」


「なるほど。昨日の騒ぎを見る限り、魔物を視認できるのはU-20(アンダートゥエンティ)までのようだ。君はここにいる少年たちの誰よりも年上だぞ。しっかりしろ」


「俺、戦わないっすよ!?」


「構わん。私には魔物が見えないんだ。君が(おとり)となって私を逃がしてくれ」


「鬼!!!」


 小出の叫び声に、ローリーは苦笑いしながら湯水の方を向いた。


「ひいじい変わり者やったけど、わかってくれる人がおってよかったわ。あんたも協力してくれるんか?」


「当然だ」


「よっしゃ。ほんならあんたは、顧問のセンセイやな」


「引き受けよう。君も入るんだ、(デコイ)くん」


小出(こいで)です!!!」


「――一郎くん。これからは私も村を出歩く。村の大人たちは私が説得しよう。夏休みを利用した学生たちの課外授業という形にすれば、協力してくれる大人もいるかもしれない」


「えっ。いいんですか」


「ああ。この村に隠された『秘密』を解き明かし、ともに世界を守ろうじゃないか!」



◆ ユミズ デコイが 仲間にくわわった!


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