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戎橋路暖


「……それで、戎橋(えびすばし)さんはどうしてこの村に来たんですか?」


 蝉丸はローリーの様子を(うかが)いながら、慎重に声をかけた。


「ローリーでええって」


「あ。すいません。じゃあ、ローリーさんはどうしてこの村に……?」


「ワイはな、ひいじいの遺言(ゆいごん)で来たんや」


「ひいじい?」


 蝉丸が驚いた声で聞き返す。


「そう。そのひいじいが言うとった。『あの村には魔物が来る』」



 どくん。


 自分の心臓が脈打つのが聞こえた。



「どうして、ひいおじいさんが魔物のことを知ってたんですか……?」


 背すじが寒くなるのを感じながら、僕は言った。


「簡単や」


 ローリーはコーラを飲み干して言った。


「ひいじいは昔、この村で魔物に襲われた生き残りなんや」



 ローリーの曽祖父(そうそふ)戎橋(えびすばし)路暖(ろだん)は、もともとこの村の住人だった。

 今からちょうど100年前、1925年――得体の知れない何者か(・・・・・・・・・・)によって村の各所が破壊される事件が起きたため、路暖の両親は危険を感じ、逃げるように村を出たという。



「魔物が100年前もこの村を襲ったってことですか」


「そういうことやろな」


 ローリーは神妙な面持ちで続けた。


「ひいじいは、ワイがちっこい頃からよう魔物の話をしてくれたんや。夏摩村には魔物が来る。けど、大人は誰も信じひんかったって」


 同じだ。今の状況と。

 そんなことが100年前にも起こっていたのか?


「ひいじいは当時5歳や。大人の言うことには逆らえんし、何言うても信じてもらえへん。やから親に連れられて、引っ越すしかなかった言うとったな」


「100年前に5歳ってことは……ひいおじいさん、105歳!?」


 蝉丸が驚いて口を挟んだ。


「せやで。今年の春に大往生や。最後まで頭はしっかりしとったで」


 考え込む僕を横目に、ローリーがぐっと身を乗り出して続ける。


「――ただな、遺言はもう一個あんねん。『ユミズを頼れ』言うとった」


「ユミズ? ユミズってなんですか?」


「それがわかれへんのよ。死ぬ直前に口で言われたから字がわからん。『湯水』かと思て温泉探したけど、この村健康ランドしかないやんか。しゃあないから健康ランドの大浴場に浸かってたっちゅうわけや」


 ローリーは笑いながらそう言った。


「でもなぁ、まさかホンマにあんなバケモンが出るとはな。もう帰ろかな」


「……ですよね」


 蝉丸がしゅんとして言った。


「ローリーさんは、この村になんの思い入れもないでしょうし……初めて来た村で、関係ない魔物と戦うなんて嫌ですよね……」


「はあ? 何言うとんねん!」


 ローリーは表情を引き締めて言う。


「ひいじいが生まれた村やぞ。関係ないことないやろ!」


「え。そ、そうですか?」


「そうや! 人間は繋がっとんねん! ひいじいおらんかったらワイもおらんし、昨日ジブンらが襲われてんのも見た! このまま放っとけるわけないやん!」


「で、でも、さっき帰ろかなって」


「冗談やんか! ごめんごめん、ついノリで言うてしもただけなんや」


「そうなんですか……」


 ずっと緊張した顔をしていた蝉丸が、少し安心した素振りを見せた。


「ワイも戦うで。仲間に入れてや」


「イッチ」


 蝉丸がこっちを向く。

 ローリーが入ってくれるのなら百人力だ。何も迷うことはない。


「よろしくお願いします」


 僕が伸ばした右手を、ローリーが力強く握り返す。


「――おう。よろしゅうな!」



◆ ローリーが 仲間にくわわった!



「さっそくやけど、まだ大事な話が残っとんねん。聞いてくれるか」


 そう言って、ローリーは改めて座り直した。


「ひいじいは村を出た後、研究を続けて、どっかの大学の教授になったんや。この石の研究で何本も論文書いとる」


 そう言いながら、ローリーは懐から紫黒色(しこくしょく)の石を取り出した。

 商店街で「この石知らん?」と村の人たちに聞き込みをしていた、あの石だ。


「これな、ひいじいが死ぬ直前にワイにくれたんや。最初は何か全然わかれへんかったけど、昨日戦ってる時に気づいたわ。これは『バケモンの石』なんや」


「バケモンの石……?」


「あいつら、倒すと石になるやろ?」


「そういえば――」


 ガーゴイルを倒した時、ガーゴイルが石になって崩れ落ちた。

 その石を大量に拾ったフトシは、まるで別人のように強くなっていた。


「この石持っとると『バケモンのチカラ』が使えるようになんねん。一言で言うと、ハンパないパワーストーンやな」


「なるほどぉ! だからあの時、フトシが急に強くなったんだ!」


「もっとでっかいカバン持ってこよう! そこにいっぱい石をつめて――」


「アホか! これからずっと石かついで戦うんか? 重ぉてしゃあないやろ」


「じゃあ、どうすんだよ……?」


 騒がしく声を上げる小学生たちに向かって、ローリーは落ち着いた声で言った。


「この石は加工すれば研ぎ澄まされる。つまり、強化できるんや」


「強化……!?」


 強化という言葉を聞いて、小学生たちの目がさらに輝き出す。


「ほら、この石見てみ。ピッカピカやろ? 原石のまんまでも力出るけど、たぶん加工したらもっとすごいねん」


 たしかに、昨日のローリーの一撃は誰の目にもわかるほど強力だった。

 一瞬光ったと思った次の瞬間、大勢の魔物がすべて弾け飛んでいた。


「いろいろ見て回ったけど、この村、工房あるわ鍛冶屋もあるわ、設備すごいやんか。大人に頼んで石加工してもろたら、ええもんできるんちゃう?」


「でも……そう簡単にいきますかね……?」


 このへんではまずお目にかかることがない変な石を持っていって「加工してくれ」なんて頼んでも、聞いてもらえる可能性は低い。

 まず「どこから持ってきたんだ」って話になるし、その質問に対する納得いく答えは絶対に用意できないだろう。

 それらがクリアできたとしても、石を加工するのにどれくらいお金がかかるのか見当もつかない。何にせよ、この状況で大人の力を借りるのはかなり困難であることは間違いない。


 そう悩んでいた時だった。


 ロビーの奥から不意に人影が差した。

 現れたのは、商店街で風船を配っていた――あの、どこか不気味なウサギの着ぐるみだった。


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